私とあなたの間に無関係なことなど今はなにも、ありません
まだこのやり取りがなんであるのか分からず混乱し二人の顔を見回すのに忙しいシオンの表情を見ながらジーナは黙り、ヘイムの表情を想像する。だいたいこうだろうと、想像する。そこは間違えない。
「そのようなお顔をなさらないでください。そのような表情を想像するだけで辛く、私は最低の気持ちになります」
ヘイムが立ち上がり杖が床を突く音が聞こえる。近づいてくると分かっていてもジーナは振り返らない。その顔は見ない。無意味だ。
「もう一度言う。そなたには関係ない話だ」
声は高いが鋭さがなく何処にも突き刺さらず床の上に落ちるその声、あなたは何を望んでその声を出したのか?
なんでそんなつまらない芝居をするのか? 龍のためなのか? それならば私はその全てを否定する。
「私の役目はあなたの護衛です。今ここにいる私はそれ以外のなにものでもない。ヘイム様、聞いてください。私とあなたの間に無関係なことなど今はなにも、ありません」
何かを呑み込む音が背後より聞こえてきた。いや、耳から聞こえたのではなく胸へと響き伝わり、心をなかのなにかを揺さぶり鳴った。だからわかった。
二人による意味不明な会話に首を傾げ続けていたシオンはとりあえずジーナがやる気を出したのだと捉え、頷きながらヘイムに物申した。
「そうですよヘイム。なにもそこまで退けることありませんってば。自らこんなに熱心に志願してくれるのなら、話は簡単になりますね。彼を護衛としてバザーへ行く。この身体と強面なら護衛としてならルーゲンよりも任せられますし何よりも暴力事には慣れていますからね」
自分の言葉を自身で納得したようにシオンは満足気に頷き微笑んでから、緩んだ表情をひきしめる。
「ですがジーナ。あなたの気持ちは十分に分かりましたが、もう少し物事は簡単に整理してから話すといいですよ。あなたはとても分かり難いですからね。バラバラの未整理状態で勢い任せの言葉をバババッと勢いよく用いても誰も理解してくれません。この私みたいに要点を掴める人がいないと伝えたことも十分に伝えきれなくなりましょうし」
こっちだって自分のことが誰よりも分かっていないのに簡単に整理できるわけないだろう、と思いながらもジーナは頭を下げ感謝を伝えるとシオンは微笑み立ち上がる。
「では昼から打ち合わせをしましょう。軽食を用意させますのでちょっと待っていてください」
シオンは女官らを呼びに部屋から出ていくと背中越しにまた何かを呑み込む音が伝わって来てその存在を伝えてくれる。
もうよいであろう、こちらを向け、とその音が告げているのかジーナは自然に身体を反転させると座った状態のヘイムの右顔がそこにあった。
「どうです? あなたの意図した通りになりましたよ。さぞかしご満足でしょうね。あなたはどこまでも私を苦しめる」
そう告げてからヘイムの表情を見ると、もうどこにも暗さが無くいつもの顔があり、それどころか笑みがあり喜びがそこにあり、何かが零れるのを耐えているように見えた。
今日はじめての表情だが、なにを喜んでいるんだこの女は、とジーナは思うも目を逸らさずに見つめる。その重さすら感じられる瞳の青さを。
「後悔するぞ」
「もうしています。私とあなたとの間には後悔が満ち満ち、さながら苦界に沈んでいくようです」
答えるとヘイムはもう我慢できずに嘲笑い、その声が辺りに落ちて弾ける音を聞きながらも、ジーナはこれは自分への侮辱であるのにそうには何故か聞こえなかった。
「妾のせいにしおって。結局は自分で選んでいる癖にな」
「いいえ、あなたからの強制ですよ。だから最悪な気分だ」
ジーナは目を逸らし息を一つもらすとヘイムの首が縦に動きそれから言った。
「その心に同意してやる」
そういいながら微笑むと扉が開きシオンが帰って来た。これによって付き添い兼護衛はルーゲンではなくジーナに決まる。




