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なんでと言われましても、嫌なもの嫌なのです

 しかしヘイムは軽く受けとめた。


「あれはあれでいいであろうに。次もああしようかと思うておるが、嫌か?」


「はっきりと嫌と申し上げます。ああいうのはよくはありません、なんでと言われましても、嫌なもの嫌なのです」


「相変わらず急に予定に変更されると不機嫌になる癖が治らぬのだな。この後の散歩が無くなって不都合でもあるというのだろうか? いや、無い」


 気のせいかその最後のほうでヘイムの声が大きく芝居っ気を含んだようにジーナには聞こえたが、反応せぬように瞼を強くつぶった。


「ありますよ。儀式の準備で疲れた頭を一新させるためにはお茶に散策が最適であり、それによって午後の活動の質を高める、この理想的な予定の順序を乱してしまわれては困ります。いつものようになさってください」


 良いぞシオンとジーナは反射的に思った時、瞼が開き呼吸が止まった。なぜいまのシオンを応援するのか?


 それは逆だというのに、あんな散歩など失われればいいとあれほどまでに思っていたのに。


「ちと早いが、来たな」


 見るより先にまず耳に屋根にリズミカルに弾かれる雨音が聞こえ、それから窓の方を見ると暗い空の雰囲気のもと雨が降り出していた。


「なっ? 歩きながらの講義をやっといてよかったであろう?」


「結果論ですよ。だいたい雨なら雨で中止にすれば済む話です」


 破れかぶれなことを返事をし雨脚が強まるにつれてシオンの不機嫌さは増していっているようであった。


 いったいなにが彼女をここまでさせるのか?


 それに比べ声の感じからするとヘイムはシオンをどこか挑発しているようにジーナには聞こえていた。 


「ルーゲンも喜んでおったな。こういう形で講義ができて良かったと」


「あーそうですかーでは次回は座学にするようにしましょう。あの御仁は人当たりが良くて優しそうですが結構に我が強くて自分の意見を通したがるんですよね」

 

 シオンは忌々しげに吐き捨てる。


 「ほらみんな自分のことが好きなはずだから自分の意見をみんなが聞いてくれるはずだ、とか思ってそうなのが私はちょっとですねぇ。そこに傲慢さと図々しさを覚えます」


 ぶつくさ言いながらいつもよりもずっと早いペースで茶を飲みジーナは茶を注ぐ回数が増えていた。そう動いていてもヘイムが自分の方を見ないことを気づいていた。まるで互いに見合わないことに同意しているように。


「……あーそういえば思い出したが、次の蛇の日はバザーであったな。調整は進んでおるのか?」


「思い出したって昨日もその話はしましたよ。ド忘れですか? はい調整は進んでおりますよ。お楽しみのお忍びお買い物イベントですからね。去年は戦争でそれどころでは無かったですが、今年は一段落がつきましたしもうなんの支障もないでしょう」


「反対は無かったのか? ほれこの間のように」


「そこを私は頑張りましたよ。あれは別に遊びではなく儀礼用のアイテムを買いに行くのだと。無論反対意見を徹底的にやりこめてきましたので文句はもうでないでしょう」


 ふふんと鼻を鳴らしシオンは仰け反った。なんだか分からないがとにかくなにか凄いことをしたのだろうとジーナは判断し、それからヘイムの方を自然に視線が向くと、ここでまさか目が合ってしまった。


 その瞳はいつもと同じであるのにジーナは驚きすぐに視線を逸らすものの、心臓は激しく鼓動し波打っていた。その不快さを打っている。その忌々しい響きに怒りを覚えながら。


「それなら良いが、まだ未決定のものを決めるとするか。まず未決定筆頭の妾の護衛は誰にするかだがルーゲンはどうだ?」


 シオンは睨みヘイムは嘲笑っているかの顔で受けとめたとジーナには見えた。


「私を差し置いて彼を護衛にするなどやめてくださいよ。護衛は龍の騎士に任務だと決まっているじゃありませんか」


「だが龍の騎士様は同時に現場の総指揮官も担っているのではないか? 配置や報告や対応などをな。そちらをソグ教団側に任せるとするのか?」


「冗談じゃありません。彼らにその権を預けるぐらいならバザーになんか行きませんよ。この間もあちらからそういう提案がありましたが、今日改めて考えたところ、やはり断ることにします。この件は我々一同が責任を以て行います。もともと危険度は低いのですからそこまで大掛かりに行うこともないんですよ」


 いつになく荒々しく自説を強引に通そうとするシオンにヘイムは態度を変えずに半ばふざけているような態度で反論する。


「妾はルーゲンと行きたかったのだがなぉ」


「だから駄目です。彼に任せるぐらいなら私がやりますよ。だいたいですね彼は僧兵としての棒術の腕はまぁ大したものがあります。私とそれほどの腕の差はありません。しかし、わざわざ彼でなければならない理由なんてないんですよ。おまけにあの見た目では女と間違えられる可能性もありますし、男と認識されても強いとは初見ではみなされません。悪い男が近づいて来ないかと心配ですよ」


「逆にシオンは女には見られないからルーゲンよりかは適任であるな。その点ルーゲンは髪が長いから不利だな」


「またそれですか! そんなことあるわけありません! ヘイム、あなたは片目になってから右目の視力がかなり落ちたのではありませんか? それともまた私に髪を伸ばせとという圧力でもかけているつもり? もう間に合いませんよ!」


「そうカッカするでない。どのみちシオンはお忍びの護衛には不向きだ。男装をしても少年っぽくなるし普通の服にして女に見られたら女の二人旅となっては危険が近寄って来よう。それは避けねばなるまいて」


 なにかが近づいてくることをジーナは予感していた。それはヘイムが何処にこの話を持っていくかのことであり、そしてその狙いは……また顔をあげると今度はシオンと目が合い向こうは何かに驚きつつ自身の頭を指先で叩きだした。


「そういえばあなたがいましたね。話に夢中になって忘れていましたよ。それにしても今日は全然喋らないしどこか気配を消しているようでしたね」

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