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世界の非秩序化への多大なる貢献

 なにやら気を察し取ったのかハイネは機嫌良さげな声でジーナに話しかけてくる。まるで挑発するかのように。


「あのやり方はとてもいいですね。歩きながらのお喋りって話しやすいし聞きやすいんですよね。あっいまお笑いになられましたよ」


 ヘイムは声をあげてはいないが微笑んでいるのをジーナは見た、そうかそうか。


「お部屋の机や椅子で勉強もまたいいのですが、可能ならああいうのでやられたらよいのですよ。別に雨など関係なく。そうしたらジーナさんの負担も減らせますし」


「いや私の負担など……」


「そんなことありませんよね?」


 そうだ私はなにを言っているのだとジーナはハイネの顔を見ながら自制し向うの二人を眺める。


 あれは望まれた光景だと言わなければならない。私はそれを言わなければならない。お前はそう言うんだ、言え。


「素敵ですよねあのお二人は」


 先にハイネが言いジーナは言いそびれ、反動でか大きく頷いた。首が痛い。


「龍となるものを龍を導くものが手を取り歩く。あれこそが世界秩序の復元であり安定化というものです。分かりますかジーナさん? 私達は今、これから語られるべき伝説を目の当たりにしているということですよ」


 この子も結構にバルツ様のような信仰心が篤いのだなとそこを発見するも、その意見には頷くことはできなかった。私には、関係のないお話だ。


「つまりはそういうことだったのですね」


 急に声の調子が変わりハイネが続けた。


「あそこまでしたのだからそろそろルーゲン師の相手を真面目にしよう、とヘイム様がお思いになられたのでしょう。案外早かったですがそうであるのなら良いことですね」


 何が良いことだろうかとジーナは内心思うが、そうじゃないと自らに言いきかせ口を開いた。


「……私なんかよりもルーゲン師をお相手に散策したほうが効率も良いし将来のためになるしこれが本来の姿だな」


「はい。その通りです」


 ハイネは美しい声で以って今ある世界を肯定しジーナは衝動的に叫びそうになるも、抑えた。お前はいったい何を叫ぼうというのだ? 


「遊びは終わったということです。ジーナさんを介して行っていたちょっとしたお遊戯は、おしまい。あれが本来の姿とあなたは言われましたが、よくお分かりになられましたね。そうです、ルーゲン師は正確に龍身様の左側に立ち左手をお持ちになられている」

 

 私には到底不可能なやり方だなとジーナは思った。


「あれこそが正式な姿であり龍を導くものそのものです。ところが……あなたは右側にたち右手を持つ。ヘイム様を導くもの、とでもいうつもりでしょうか? あれは決定的に誤りなのですよ。ずばり言いましょう、あの所業は世界の非秩序化への多大なる貢献です」


 ジーナは自分の足が浮き上がっているような感覚に襲われた。ほんの少しの力どころか微風に当たっただけでもどこかに無限に飛んで行ってことしまうような浮揚感の中、ハイネの言葉が強く当たって来る。危ないやめろ。


「あれは著しく不適切です。ヘイム様は龍となられる方なのです。もはや左側の龍身部分が本体とみなされているのです。そうであるのにあなたは右手を、その手にとる。あれは龍への敬意が欠けたやり方でして……まぁ、あなたですから仕方がないですけど」


 かろうじて、ここで攻撃は収まりジーナはどこか遠くへ飛ばされずに済んだ。言い過ぎと思ったのかハイネは中途半端にその話をやめにし二人の実況に戻った。


「それはそうとですね、その龍から離れてあの御二人を見ますと、とてもお似合いだと思われませんか?」


 客観的に眺めて、というのは何かおかしいと思いながらもジーナは虚心に二人をそう言う目で見ると、ルーゲンは長髪の細見ないわゆる美男子であり自分とは対極にいるタイプ。


 一方のヘイムは少々痩せ気味ではあるもののごく普通に美しい方に部類に入るとジーナは主観を捨て客観的にそう判断しハイネに伝えた。


「まぁ美男美女の組み合わせに見えるな」


「そうなんですよ! そこは賛成してくれて嬉しいです」


 なんで嬉しいのかハイネはジーナの肩を強く押すように触れてきた。よく分からないが震えている。


「まぁもともとヘイム様はああいうタイプの方がお好みでしたからね」


「えっそうなのか」


「そうなんですよ!」


 顔を滲み出るをで光らせながらハイネは何故か嬉し気に言った。なぜそんな顔をするのか。


「そうなんです。ヘイム様の皇女時代は中々交友が盛んでしてね、お気に入りだったり仲がよくなるのはだいたい同じタイプでした。ソグってああいうスタイルの男性が多くて顔も女性的で整っているタイプが多いもので。中央の女もソグ出身の男を恋人にしたがりまして、って私はそこはちょっと違いますよ」


 急に早口でジーナは耳が追い付かないが、もっと聞きたくなる不思議な話であった。もういいと心は言っているのに。


「……っでヘイム様の男の友人たちってそんなタイプで」


 聞くやいなやハイネの瞳は奥から赤光が放たれジーナの眼を眩ませた。なにか閃いたとでもいうのか?


「はい! 典型的なソグの青年貴族達でしたね。その中には将来を検討された仲の方もいましたけれど、戦乱によってその話は無かったことになってしまいまして……あっ調子に乗ってこんな余計なことまで話しましたけど、こういう話をする女って最低ですかね」


「うん? あっあぁ、最低なのはもう分かっているから大丈夫だよ」


「なんです酷い。大丈夫じゃないですよ! 最低と言いますが私をこんな女にしたのはジーナさんのせいですからね。あなたこそ最低なんですからね」


 何でそうなるのか? こうハイネは口では怒っているのに目は嬉しさを隠しきれない様子にもジーナには理解できなかった。わからないことだらけ……いや違う。私は何も理解していないのだからわからないことに対して疑問など抱いてはならないのだ。


 それから再び二人の方に目を向けるため頭をあげると、目が合ったような気がしてジーナは大慌てで伏せた。ルーゲンではなく、ヘイムとだが、しかし何故隠れる?


 またわからない。わからないことしかない。

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