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つまりジーナはヘイムに弄ばれているということ

「これが私の罪です。背負う罪。あなたに教えてしまったことによる、罪です」


 ジーナはその態度その声その顔に怯みそれ以上責めたてることはできない。


「怒るのも無理はありません。しかしこれは覚悟のもとであり、なにをなされようが私は受け入れます。けれどもまず話を聞いてからにしてください。私は逃げませんからそれからでも遅くはないはずです」


 ここまで訴えられたらこれ以上何も言えなくなるものの、そこにはどこか計算されたなんだか芝居じみたものをジーナは感じ取りつつ。


「……納得はできないけれど話を聞こう」


「ありがとうございます。結論を申しましたので、ここからは順を追ってお話ししますね。まず大前提としてヘイム様とルーゲン師は将来的に結婚なさります。これは陽が昇ったら朝であり、陽が沈んだら夜と同じくらいに当然のこと。朝はおはようジーナから夜はおやすみなさいジーナというわけです、よろしくて?」 


「いや、分からない。朝と夜にハイネさんに挨拶したことないし、私達が会うのはだいたい昼前後だからこんにちはばっかりだからそんな例をあげられても、いたっ!」


 手に痛みが走り熱も加わる。そうハイネの両掌がジーナの手を圧撃しているのであった。そのうえハイネは早口で責めたてる。


「例えですよ分かりません? それはそうですよ私達は朝と夜を一緒に過ごしたことはありませんが、過ごしたとしたらその二つの挨拶を使いますよね? それとも私には使いたくないのですか?」


「使う使うそうなったらハイネさんにおはようとおやすみを言うしそれが例えだって分かった。そこは受け入れたから圧力を弱めて。けどもう一つはやはりおかしい。将来結婚するとか言うけれどヘイム様はルーゲン師への対応がどこか冷たいと私には見えるな。これは私の気のせいか?」


 途端に手の痛みは引きハイネは満開の笑顔をジーナに見せ、それから自らが痛めつけたその手を優しくさすり始めた。


「そこですよそこ。あなたなのに、そんないいところに気が付いてくれて私は嬉しいです。そこがこの話の鍵ですけれど、もう一度前提の話に戻りましょう。あなたは受け入れにくいと訴えるあのヘイム様とルーゲン師の結婚を詳しく説明します。ルーゲン師は結婚候補者の一人であり他の候補者よりも有利だとしても、まず確実とは言えませんでした。この間までですがね。ところがそれが変わるのです。その理由はルーゲン師は近々とあるものになられる可能性が高くなってきたからであって」


「もしかして例の龍を導くものになるとでも?」


「凄いジーナさん! あなたなのによくそんな言葉をご存じだなんて。今日はとても賢いですね」


 喜色満面になるハイネだがジーナは何か素直に褒め言葉として受け止められない言い方だなと思った。


「いや昨日の講義でルーゲン師がそのことを話されてね」


「なるほど。それならば推測が確実なものへと変わりましたね。それとそのことをわざわざあなたへの講義したのは一つのメッセージですよ。そうズバリ僕は龍を導くものとなり龍の婿となるのだからジーナ君よ……どきたまえ……」


 ジーナは反射的に立ち上がるとハイネも手につかまりながら立った。


「いえ私が言ったのではなくてルーゲン師の心の声でして、あなたが今どく理由はどこにもありませんよ。あなたはここにいなきゃダメです、はい座って」


「そういえば敷布忘れずに持って来てくれてありがとう、助かる」


 不意打ちじみたお礼にハイネは慌てて、どういたしましてとこたえるしかなかった。


「厚手だしこれはかなりいい布じゃ?」


「そっそうですけどなんですかいきなり。厚手なのはあなたの上着が薄くて岩の冷たさが伝わってきたからですよ。それとこの際伝えますけど、さっきから私達の座る位置には距離がありますよね。もう少し寄ったらどうですか?まるで私が占有しているみたいで居心地が悪いのです。ほらこっちにそうそう」


 引っ張られ二人は腰があたり脚が横に並ぶほど近づく。だがまだ遠いと感じていた。


「ハイネさん……ルーゲン師はそういうことは考えていないよ、たぶん」


「たぶんというのはあなたにはそういう予感が少しはあるということですよね?」


 あった、というこの心の声はハイネにこの手から伝わったのだろうか言葉を続ける。


「そう思いたくないという気持ちは分かりますけれど、事実あなたは言っていたではありませんか、最近ルーゲン師の視線がおかしいと。あの御方があなたを特別な眼で見る理由にヘイム様以外で心当たりはありますか? 無いはずですよ」


 言われるまでもなくジーナはこれまでその理由を考えていた。どこか原因があり、そうなったと……しかしそれはいくら探してもヘイム関係に辿り着いてしまう。だがそれはおかしすぎることだ。私はあの役目は嫌でたまらずヘイム様から離れたくて仕方がないのに。どうしてルーゲン師は変わってしまうのだ。


「あの優しくて聡明なルーゲン師の変化はあなたが龍の館に来た以降のことですよね? しかもあの散策の日から、そのはずです。違うのならそう言ってください」


 それでもジーナは違うと言いたくハイネの顔を見ると自信に満ちたその表情を前にすると言葉をかける力は湧いては来なかった。だがそれを認めるのは、よりによってあのヘイムとの関係とはどうしてだと……


「ジーナさんにはルーゲン師を苦しめ痛めつける意図や趣味はありませんよね?」


「あるはずないだろうに」


 敢えてするとしたらあの人にする。


「でもまぁジーナさんって歩くナイフみたいなお人ですから、通りすがりの人を知らぬ間に傷つけることはありましょうね。それはさておき分かってはいましたがあなたにはそれを行う動機はございません。ルーゲン師とジーナさんの親しげな様子からは悪意を見ることはできないのです。よって違うもう一人の人物の意図からこれは始まったとしか言えませんが……ここが不敬であり私のもう一つの罪ということです……ジーナさん、私が述べた結論を言って貰えませんか」


 息苦しそうなハイネを見るジーナはさっきの言葉を早口に復唱する。ふわふわとして実態が疑わしいそれ。


「ヘイム様が私と仲良くしているのを見せつけルーゲン師を苦しめている、これですか」


「はいそうです。どうです? ありえない嘘だともう一度言いきれますか?」


 ジーナは釈然とはしないもののさっきみたいな反発心は湧いては来なかった。そう確かにヘイムとの関係は私が望んでいるのではなく大部分があちらが望んでいるものであるのだから。辞めさせる権限はあちらにあり、いつでも私をクビにでき、それを行うに足る所業を私はいくらでもしている。


 そう、辞めさせない方がおかしくそこに理由があるはず。私を苦しめたい以外のなにかが、それがルーゲン師を苦しめるためだとは、そこには、なにかしらの不自然な意図が感じられ、それが足に絡まり素直に前に進むことができない。


「……そんなことをしてなにになるというのか?」


「ジーナさんは男女関係をよくご存じではないからそういうのです」


怯むジーナにハイネは微笑みを向けた。



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