どうせなら護衛は女戦士の方が良いはず
危機を感じ機先を制すためにジーナは自ら答えを提示させ、会話の流れをこちらに引き寄せる。
「……つまりはそういうこととなりますね」
背後からバルツの動揺が明らかに伝わりルーゲンも苦いものを口に含んだような顔をする。
龍についてはこういった直接的な言い方がタブーだということはジーナも知っていた。だから敢えてした。
「二頭の龍がいるというのなら誤っている方に対し誰かがその死を与える役目を負わざるを得ないでしょうけれど、今回の話はとりあえず不吉なのでやめまして、過去の事例ではどうであったのかの御教授をお願い致します」
「それがいい、前回の事例の確認に留めておこう」
渡りに船というようにバルツはすぐさまジーナの提案に賛同し乗った。ルーゲンは小声で唸り声をあげるも、すぐに引っ込め広げていた教本を閉じ仕舞った。見る必要がないのだろう。
「かしこまりました。今の話は政治的な問題もありましょうからやめておきます。その代わり過去の話ですが、これは表には大々的には出てはおりませんので、バルツ将軍が知らないとしても不勉強では決してないのです。その理由はお察しの通りです、あまりにも不吉で呪われているがため、としか言えないからでしょうね」
語るルーゲンの声が徐々に小さくなっていく。
「龍祖における謎の一つである敵であった方の龍の最後について。誰が、どうやって? とは公式的な記録では残されてはおりません。堕ちた龍は自らの罪によって死の淵に落ちた……といった抽象的な文章でその最後を伝えるのみです。ですが一般的にはこれでいいのです。堕ちた龍とはいえ龍には変わりはありません。誰それがこうやって龍を討ったとなんて記録に残せるわけもなく研究も全くされていませんでした。その方法の研究とはそのまま龍への反逆計画と見られてもおかしくはありませんからね」
言葉をそこで一旦区切りルーゲンは窓の方へ行く。忌まわしい話をしたから部屋の空気が汚れたので清めたい、といった感じで窓を開け深呼吸をしている。
「とはいえ誰かなのです。どんなに少なく見ても必ずひとりはそれを引き受け成し遂げたのです。けれども記録上はそのものの名は残されてはいません。その呪われた身の名を。おそらくはどれだけ探してもみつからないでしょう……けれども我々はいまその記録を必要としております」
「しかしそんな決して誇れないことをわざわざ書き残しているというのはまずありえないと俺は思うがそこはどうなんだ?」
「……ここからは断片的に残された記録を繋ぎ合わせた僕の仮説でありますので、どうかそのつもりでご了承ください。龍を討つものは存在し使命を果たした後、遥か遠くへ旅立った、僕の仮説はこれです。記録上では龍に手をかけたものについての記述はございません。これを以てそのようなものがいないというのが史料をもとにした史学として当然であります。ところが各々の有力者や回顧録では時々でありますが、名も正体も不明な一人の戦士が龍祖の傍らにいるのです」
ルーゲンは振り返りジーナを見る。見ながら語る。
「それが戦後になるとぱたりといなくなる。側近の一人であるのですから何らかの役職につくのは確実であるのに、そのようなものはいません。姿を消したもの。よってこのものは何か理由があったというわけでしてそれが」
「龍を討ったもの、であると仰るのですね」
ジーナの言葉にルーゲンは嬉しそうな表情でその言葉に対して恭しく頭を下げた。
「そうであるとしたら疑問はほとんど解決いたします。龍に手をかけるものは呪われ忌まわしいものとなる。よって名と記憶は消されるのが当然であり遥か彼方へと追放される。北か南か、東かはたまた西か」
「どのみち世界の果てまで行くわけだ。龍の徳が及ばない遥か彼方へ、そう想像すれば丸く収まりますが、残念ながら」
バルツが尋ねルーゲンが返す。
「はい証拠はございません。なにもかも僕の想像上の戯言だと思っていただいて構いません。実際にそうですから。けれどもこの戦争を前回の再演だとする流れとすれば、その役割を背負ったものが現れるかもしれません。何故なら龍は一つだけだという絶対がありますからね」
「おそらくは血族関係のではなく状況と偶然によってそれは選ばれるのだろうな。はじめからそれだといっては選ばれるはずも、どうしたジーナ? 気分でも悪いのか? まぁそうだな」
とまた勘違いしたバルツが苦しげなジーナの背中に手を当ててさすった。どこまでも今日は変に優しくて困るな。
「龍を討つとか血とか追放とかこの世で最も忌まわしく汚らしい話を聞くのが辛いのは当然になったきたのだな。それでこそ龍の護衛を務めるものだ。まっそんなことはお前には関係などなく、そんなに深く考えずに明日からの任務に精を出すのだぞ。ではそろそろ終わりとしようか」
そういうことではないのだが、とは言わずにジーナは終わりだと知りホッと安堵の息を漏らし何気なく誤魔化しのためか余計なことを聞いてしまった。
「仮に追放されたとしたら一体その女の人はどこに行ったのですかね」
「ほぉジーナ君はその戦士をご婦人と捉えるのですか、これは斬新だ」
ジーナはルーゲンのその言葉で以て魂を掴み上げ問うてきたと感じた。お前は何故そう思うのだと? そうだ、その想像は、おかしい。痛みに声をあげるなとジーナは心の底から声を出す。苦しみを漏らすなと、ここが正念場であり戦場におけるあそこだと。最前線であると。
「龍の騎士が男で護衛もそうなら男二人は暑苦しいだろうと感じましてね。龍祖は男だったとのことでしたので」
ルーゲンは笑う。
「君らしくない味のある推理で。でも僕はその考え方は好きですね」
ジーナは今日のルーゲンがあまり好きではないなと思った。




