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口で以て口をふさぐのだ

 鳥の鳴き声に木洩れ日とこの静けさと美しさの中に何かが潜んでいる。一切の想像がつかない暴力への意思が。左側で動きがあることにジーナはすぐに気づくも視線を向けなかった。そうそれは予想通りに動き始める。


 それは近づいてくる。分かっている、今日は分かりやすい。それも勘違いであろうが。


「傷の回復は良好ですよ」


 先制の言葉を発するとその動きは止まりジーナは顔を向けると、そこには挑むような右眼があり固く結ばれた口元のヘイムがいた。


「お薬の件は感謝いたします。もっともキルシュという指名には困りましたがね」


 緊張が和らいだのかヘイムの顔から険しさが幾分か消えるのを感じた。


「あやつで十分だろうにこの程度の怪我などは……痛みは、ないのか」


 その言葉がどうしてかジーナの心になにかを思い起こさせた。このなにかとはなにか? 分からないままジーナはとにかくそれは拒否すべきものであると血がそう伝え、左手がヘイムの右肩を掴んだ。


「痛み? あなたはこの傷に対して気にすることも気に病むこともそういった必要は一切ありません」


 力が入って引き寄せたのか向うから来たのかそれとも両方なのかは不明なまま、二人は額がつくほどの顔の距離まで近づいた。


「私もあなたの傷について気にすることも気に病むことすら、全くしないのですから」


 ヘイムの瞳は紺からよりも深い色となり黒く闇の色に染まり落ちていきジーナを見つめる。ジーナはそのまま闇に呑み込まれるように瞳から出る声を聴くようにして、見入った。


「……龍身は傷ではないぞ」


「私にとっては傷であり痛みであり苦しみです」


「ふざけるな。そなたの意見や考えなど何の関係もない」


「あなたが思うのは構いませんが、どのみち私はそれを見たくはないのです。だからこうして私は龍身ではなく」


 ジーナは左手をヘイムの肩からその後頭部に回して引くと互いの額が当り合った。


「あなただけを見ていたいし、こうしてあなたに触れるところまでで留めたい」


 ヘイムの右手は震えながらジーナの左頬に到達し、そのまま手当の布をはがされると頬に痛みが走り、傷痕に冬の風があたる。


「お前をもっと傷つけて苦しめてやりたい」


 その口からは嗅ぎなれた血臭がするとジーナは息を吸い思った。


 そうだ、それでいい。私達の関係とはすなわちそれ以外ではありえるはずがないのだから。


 頬の傷口にヘイムは指を添えると爪に痕が完璧に嵌るもそれには痛みは走らなかった。ジーナは平然と睨むヘイムの黒ずんだ瞳を凝視している。


 これほどまでに、とジーナは思う。自分は気が昂ぶり神経が麻痺しているのかと。痛みすら感じないのかと。この人の前だと感情のなにかが、停止する。


「いま、こうしてあなたといる時が、一番苦しいのです。その感覚はその指先にあるはずの痛みなどを超えています」


「そうか、だがそなたはそれでもここにいるのだな。護衛を、護軍にいるのだな」


「任務ですし、私は龍を目指しているからです。私は龍から離れることができない」


「そなたがではない。妾こそが龍から離れることができないのだ」


 私たちは何を言い合っているのだとジーナは話しがら思う。私もこの女も、いったいなにを?


「あなたは私から離れることができる、ただそれをしないだけです。すればいい」


「くどいぞ。妾と共にいるのが何よりも苦しいのだから、そうしているだけだ」


「自分が苦しくても、ですか」


 頬の傷口にあてられていた指がめり込みそれから決壊する音を立てた。いま血が流れているのだろう。


「そうだ、そなたの苦しさを妾の感情より優先させてやる。おっ血が流れたな痛いか? しかし血でそのおぞましい痕が隠れれば見た目が少しは良くなるのではないのか?」


 ヘイムは指先で血を痕に広げる。血の熱と臭い、ヘイムの口臭、辺りに血に包まれた。


「あなたの口から血の臭いがしますね」


 弄ぶ指先がピタリと止まり瞳の色がまた変わる。一段と濃く死の一歩手前の黒となった。


「その異臭は龍の血なのですか?」


「龍の神聖なる血の香りだ、黙れ」


「黙りません。あなたがこの痕を否定して言うのなら私は同じ言葉を返すだけです」


「黙れと命じたぞ!」


 ヘイムの声を言葉をジーナは乗り越える。


「駄目です。あなたのそれは、おぞましいものだ。あなたのものではない、血に支配され」


 ジーナは目の前の黒い瞳が突然消えたと思うと同時に視界が銀色にて塞がれ、それから唇になにかが押し付けられるのを感じ言葉どころか呼吸すら止まる。


 口に当てられたのはヘイムのなにかであり、その押し付けられているのが唇であることにジーナがやっと分かると意識が通じたのかヘイムは離れた。


「黙れと言うのが分からぬのか」

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