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あの女と二人きりにさせたがるのは何故なのだ?

 龍の間への扉を開けると、そこにはいつも通りの光景が広がり挨拶からルーティンワーク的な儀式の作業が始まる。


 ヘイムはいつものようにこちらを見ずにシオンを通じて指示を出し、仕事である儀式の準備が進められていく。


 ものの場所や配置はだいたい把握できているために前回よりも早く効率よい動きができ、それを見込んでいたのかヘイムの指示は多く細かいものとなり、シオンも何度か聞きかえしながらこちらにそれを伝え手伝い時間を十分にかけて完成させた。


「この模様は今期はこれが初ですが、早すぎませんか?」


「今でも良いとのことだ。占いでそう出たからそれでよい」


 などと二人はジーナの理解の及ばぬ話し合いを始め、しばらく経つと少々修正をし、いつの間にか時間が経ちシオンは退場の時間となったが、ここで一つ変化があったのかジーナに告げられた。


「次の仕事まで時間が少しありますので私がヘイム様を庭にご案内しましょう。それと……」


 そういうことか、とジーナは思う。お役御免であるかと。あのようなことがあったからにはもう……良かったと思うと同時に胸に不快感が滲むのをジーナは感じ……そんなことがあるわけがない! とジーナは一度胸を強く叩くと痛みが空洞に広がるように響いて行った。そういうことだ。


「あっそうですか。それは頼もしい。では、これはお任せしますよ」


 とシオンはジーナの腕に籠と敷布を持たせた。そこそこに重くジーナはそれらとシオンを交互に見ていると不思議な顔をされた。


「なんですかその顔は? 胸を叩いたのは、この私にお任せください、という意味ですよね? はい? いや、もうお昼過ぎですからあなたもこのまま一緒に軽食をとればどうです、と。いま聞いていましたよね? ですからこのように籠を用意したのですけど」


 聞いていないがどこで意識が飛んだのだ? そんな重要な言葉を聞き漏らすほどなにを考えていたのか? 案内の役を外された、から外の音が聞こえなくなって……とジーナには訳が分からなかった。


「良かったですよ。道具持ちがいないと出来ませんでしたからね。では行きましょう」


 時間短縮のためかやたらとスピーディーでありシオンはヘイムの手を取り二人は速足で廊下へと向かって行った。


 なっそんなに早く歩けるの? ジーナは戸惑いながら追いかけていく。籠には食器まで入っており慎重に歩かなければならない分ジーナはむしろ遅れて歩くこととなり、時には二人の方が待つことさえあったもののそれでもまだジーナは気が楽であった。


 あちらの方が何倍も気を使うし疲労感があると、ただ辛いだけだと心の中で言い聞かせながらついて行く。


 階段から門へそれから庭へと進み二人のあとをジーナはついて行った。それにしても早いな。やがて例の岩場につき、その前にある芝地に到着するとジーナはそこに敷布を広げ籠を置いた。


 お姫様をエスコートする騎士そのものなシオンはヘイムを敷布の左上に案内し自分はその正面に座った。最後にジーナだが、どこに座るかシオンが見守る中迷うことなくヘイムの右側に座ると笑い声が起こった。


「いまちょっとどっちかなと思ったらそっちなんですね。そこは明らかに隅っこで窮屈で暗いのに面白い。わざわざあえてそんなのを選んじゃって変ですね」


「こら。妾で実験をするとはなんたることだ。真ん中に案内せずにここまで引っ張ったのはその為か」


「いえいえだって部屋だと席が固定されているから試せないじゃないですか。でもこれなら完全に実験できたうえに結果が出て面白かったですね」


 それでどうしてそこに座るのですか? とシオンから来るはずの言葉にジーナは心中で身構え回答を考えていたが、しかしシオンは籠の中身を取り出し食事の準備をはじめ、そのままずっとその疑問の対する質問はしてこなかった。


 どうして聞かない?


 この人も何かがどこかズレているのかもしれないとジーナはその栗色の短髪を眺めながら考える。まぁヘイム様とハイネさんの二人と仲が良いのだから少々イカれているのかもしれないか。


 ジーナもまた食事の準備をしていると、大きめの焼き菓子を取り出したのを見たシオンが命令を出す。


「いいものを出してくれましたね。ではそれにジャムを塗って私たちに配ってください」


 茶を入れながら言ってきたがジーナは焦る。これは他人に任せることなのか? 各々には好みというものがあり、それを知らないものに任せるのか? 変だ。


 瓶はソグの果実三種類だが三つとも知らない色と匂い。どれか一つだけ選ぶのは最善か? たぶんそうではなさそうだ。なら二つ、いや三つ……どれだ?


 それならこういったときはうちの故郷では……冷静な頭で考えているはずのジーナだが、行動がパニック状態でありええいままよと三種類とも塗りたくり、できあがり。


 それを二人に差し出すと、無言で受けとったため、では正解だとジーナは思い満足げに頷くと黙っていたその二人がついに笑い出した。


「おっと申し訳ありません。いえ嫌いじゃないですよこれは、いいですね。食べれば一緒、多けりゃいいだろう精神。こういう男らしさはあまりお目にかかれません新鮮です」


 シオンが言うとヘイムも続いた。


「どうするのかと黙って見ておったが完全にやられたな。まさかそんなことをするとは、おっ垂れて垂れる、これは婦人用の塗り方ではないのぉ」


 その垂れているのを舌を出して受けとめているのは御婦人の仕草ではなさそうだがジーナは目を逸らし自分のパンを見た。


 赤黒緑色の奇妙なこの色彩。冷静になってみるとさすがにどこか、おかしい。


「おかしいな」

「おかしいのはそなたの感性だろうが。どこの誰が味の違う三種類のジャムを塗りたくったパンを差し出すのだ。ひとつのを選んで塗ればいいのに三つも塗りたくるとは、そなたはどれがいいのか分からぬ優柔不断というやつか?」


「あの、西の地では三色塗ったパンがありまして、それが一番高価でして」


「なるほど西ではこれが貴人向けのやり方なのですね。それならヘイム様、文句はここいらにして食べねばなりますまいですよ。これぞ異文化交流というものです、では」


 シオンは勢いよく食べるとしかめっ面になり顔を伏せた。ヘイムは仏頂面で食べジーナは怖々と食べるとその味に驚いた。


「酸っぱくって甘くって爽やか……味のごっちゃさに感動しますね」


「一言でいうと不味いな」


 続いてジーナも一口齧ると順番は違えど爽やかで甘くて酸っぱいというみょうちきりんなものであり感想がすぐに漏れた。


「不味いですね……」


「分かっとる。だが残すことはいかん、全部食べるぞ」


 茶を飲みつつ口内の奇妙な三属性の噛み合わない味を流しながら三人はそれを食べ続けた。


「ちなみにですね私は赤い甘いのが好きでヘイム様は橙色の酸っぱいのが好みですよ」


「ではその二つで良いのに何故この緑のを持ってこられました?」


「それはたまにつけて食べるといいのです。ハーブつまりは薬草ですよ。こんなにたくさん食べるものではありません」


「こんなに塗るのははじめて見たな。これもなんだ西のやり方か?」


「……そんなものですねはい。とりあえずたっぷりと塗るのが問題のないやり方でして」


「そうかまぁよい。今回はそのやり方を受け入れるが次回は一種類をつけて出すようにな」


 混じり合ったそれは茶色というか濃い大地の色であり、食べ続けるジーナは最後の欠片の段階になって味の印象が変わった。


「……これはこれで旨いのではないかと思えてきましたね」


「正気ですか?」


「前向きな舌でいいのぉ」


 二人から即座に否定されるがジーナは悪くはないと思い呑み込み食べ終わった。


 横では二人がジーナが知らない親戚の話を延々としており、ただ座りながら二人にまた茶を注ぎ待っていた。この時が終わることを。そのうちに話は終わりシオンは立ち上がる。


「では私はそろそろ行きますのでジーナは片付けとヘイム様をお願い致します。ここから散策の時間です」


 またそういうことをする? と思うより前にシオンはあっという間に行ってしまい、心の準備もつかぬ間にジーナは二人きりになったことによる緊張が高まる。

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