龍の間への旅路
遠くのどこかの隊による吶喊の雄叫びが聞こえているというのに、この空間は奇妙な静けさに満ちているとジーナ及び第二隊の隊員達は思った。
「歓迎しているわけはないのにどうしてこうも容易く入って行けるのだ?」
「ここが龍の間の入り口になるからですよ」
ルーゲンは腕を抑えながらそう言った。その声には苦痛の色がまるでないことにジーナは逆に心配となった。
「他の負傷兵も下がっております。ルーゲン師もやはりご一緒に」
「まだそんなことを。僕は下がりませんよ。こんな矢傷程度で使命を放棄できない、君も同じ傷を負ったらそう言うはずです」
城内に突入した第二隊は第一隊や第三隊らの援護を受けながら奥へ奥へと進んでいった。
戦闘中にルーゲン師は何度も眼の前にいる敵の装備や徽章を確認しながら喜び叫んだ。
「あれは龍の側近の近衛隊です。しかも完全な礼装で挑んできている、つまりここが最終防衛ラインです」
そのルーゲンの言葉通りに敵は頑強かつ勇敢であるために戦闘は熾烈を極め負傷者が続出し、途中でルーゲンの腕に矢が当たるも呻き声すらあげなかったことをジーナは見ていた。
ここでも声を、自然に上げない人なのかとジーナは感心とおかしな恐怖心を覚えた。
戦闘は第一隊と第三隊の左右からの挟撃と第二隊による正面攻撃により近衛隊も突撃に移り、玉砕。
ジーナを先頭に第二隊はそのまま突破に成功した。第一隊と第三隊は着いては来ずそれで第二隊の彼らは理解していく。ここから先が龍の間となることを。
「負傷者は残してきたがこの先もしも戦闘が続くのならば応援を頼んで」
「ここからは今いる我々だけで進まなければなりません」
ルーゲンがそう宣言すると錫杖で床を突き先端につけられた幾つもの鈴の音を鳴らす。
その音は薄暗い龍の間の奥にまで広がっていき、いつまでも消えずに果てしなく小さく響渡っていく。
「それが僕たちの任務であり使命です。後続の部隊もそれを知っているのでいくら助けを呼んでも、来ません」
「私達の任務は分かっているが、この先に護衛のものがいたとしたら」
「いることはあまりないでしょう。先ほど戦った近衛隊が実質的に最後だと、あの時の言葉は嘘ではありません」
しかし、とジーナは龍の間の広さを見た。照明の小さな灯りのみの為に奥行きは見えなく、また上に登るための階段の向こうは闇に閉ざされていた。
「この広さに兵隊がどこかに潜んではいないかと心配でしょうが、繰り返しますが有り得ません。龍の御前では武器を携えてはならない。これは古来より徹底された掟です」
龍の前では武器を持つな……ジーナの耳の奥でシオンの声が甦り同じ疑問も甦った。
「掟というがこの状況下でもか?」
「もしくは龍直々の許可がなければできません。この様子では許可が降りてはいないのでしょう」
「ならどうやって龍は自身を守る?」
言った瞬間に我ながら間抜けな質問だと思ったがルーゲンの表情にそういった嘲りは少しもなかった。
「龍自身が、守るのですよ」
そうだな奴らはそれができる……それは自分がこの場にいる誰よりも知っていることだ。
「ジーナ君」
再びルーゲンが錫杖を鳴らし闇の向うに目をやっていたジーナの目をそちらに向けさせる。
目を戻すとルーゲンと隊員達がまだ棒立ちになっている。というよりか誰も口を開かない。
「君は感じていないみたいだが、我々は今つよいプレッシャーの中にいます。これは龍の間において武器を持つ掟を破ったためのものであり、これによって我々の動きや思考が停止もしくは鈍化するのです」
たいした龍の自己防衛能力だ、とジーナは内心で舌打ちをする。中央に来たらこんな能力まで手に入れたのか? それとも元々有していたのか? そんな能力は一度だって聞いたことはない。その力ならむしろ……
「ソグの僧が杖を持つのはそのためなのか?」
「ご明察の通り。我々僧が杖を常備するのはこれについては龍の許可が降りているからです。
龍を倒すことは不可能ですが人を制圧することは可能です」
ソグ僧の杖術は捕縛術の技術も合わさりとてつもないものであるとジーナはその訓練中の光景を思い出した。
その決して平和的ではなくかなりの暴力的な技の数々を。そしてこのルーゲンは杖術の達人でありそのいった意味での師と呼べる存在である。
「今回特別につけたこの鈴は龍の圧力を一時的に除け、気を取り戻すためのものです。君は分からないでしょうがあとちょっとしたら三度目の鈴を鳴らしみんなを動けるようにさせます。武器携帯にこれからの目的が目的なだけに内にある龍への信仰心が制御させるのでしょう。引き返せと」
若干の苦しさを表情に滲ませるもそれでも淡々と語るルーゲンを見ながらジーナは思う。
武器を持っていないとはいえこの人は僧であるのにあまり制御がかかっていないのだなと。修行の賜物か?
「それでジーナ君。強がりとかでなく君は本当に龍の力の影響を感じないのか? この凄まじいプレッシャーを君は」




