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龍の死を想像してはならない

 訴えると手が止まり泣き声が聞こえた。


「急に息を止めて固まっているからひょっとして死んだんじゃないかと、痛かっただろう、すまない」


 安堵と悲しみを混ぜた顔色のマイラのあまり重くない身体におぶさってきたがシオンの困惑は消えず増すばかりだった。


 少し考え事をしただけなのにまさかそんなことになるとは。龍と血のイメージのせいだということか?


「心配をかけてごめんなさい。あのねマイラ。私はさっき龍の死をイメージしました。だからこうなったというのは、ありえましょうか」


 マイラの身体が一度震え、それから黙ってその背中から離れ、軽くなった。


「有り得るかもしれないな。特に君は龍身様に近い上に関係も深い。よりダメージも大きくなってしまうのだろう。思えばそれは龍の防衛能力かもしれない。龍は我々の意識に力を及ぼす。例えばその中に龍を傷つけてはならないという命令があるとしたらどうだろう。それどころかその死を想像すらしてはならないと……龍の側近には強く働きかけているとしたら」


 こうなってしまう。臣民の叛乱が起きようが側近の裏切りがあろうが、龍は生きて勝つ。


 その方法は他の全てに勝る防衛能力とシオンは思うと同時に自分でもおかしなことと思いながらも、言った。


「ではどうやって倒せばいいのでしょう?」


 そんなのは分かっているのに、何故問うのだろうか?


「俺の仮定が正しければやはり無信仰者の手によるしかないな」


 そんなことは分かっている。


「そうだとしたら、では前回はどうやって?」


 そんなことは知っているはずなのに。


「無信仰者かもしくは……龍はまだその力を用いていなかったのでは」


 そうではない、分かっているはずだ。ジーナが二度やる、やるのだとしたら……その先は


「その下手人は罪に問われるのですか?」


「当然問わない。第二隊は表彰されはしないが陰で恩賞が与えられる予定だ。他の隊のよりもずっと多めのがだな」


 ジーナはその褒美を手にしてどこに行くのかといえば


「西の果てに旅立てるほどの褒賞が出たらいいですね」


「こらこらシオン。怖いこと言うな。それは態の良い追放になってしまうだろうに」


 追放になってしまう? 龍の宰相殿は何を言っているのか? 私達は実際に……


「うっ……」


「大丈夫かシオン?いや、もうこの話は今日は止そう。あまりにも刺激が強すぎる」


 刺激が強いどころかこの思考の混乱はなんだろうとシオンは頭の中身を整理したかったが、自分のではない記憶が混在していることにまた混乱をした。これはいったい誰のものだ?


 私にいったいなにを伝えようとしているのか?


 考えているとシオンは卓上の封筒に目が止った。ヘイムから預かった手紙。ジーナ宛ての返信。


 ヘイムは現在龍身として儀式の中心にいてその場から離れることができない。


 明朝これを配達員に渡すわけだが、手が伸び封を切り手紙を広げると、二枚目の下半分にかなりの余白がある。


 お約束の検閲をしたためにそれを覚えていたのであるが、シオンは躊躇なく筆をとり加筆をしだした。


「どうしたシオン? 急に手紙を書き出すなんて」


「ちょっと書き足すことを思いつきまして」


「でもそれは龍身様のものでは?」


「ああこれは私たち二人で書いているのですよ」


 そうなのかとマイラは納得した顔になりシオンはその表情に愛しさを覚えた。


 この人は私の言うことはすぐに信じてくれるからこんなにも心安く信用ができると、シオンは思った。


 書き足しは大したことではないがあの胸騒ぎが予兆だとすれば、私にだけ知らせてくれた何かであるとすれば、ヘイムがあの状態であるのならこうする以外にない、とシオンはヘイムにそっくりまねた文章を書きながら不思議な焦燥感のなかにいた。

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