あなたの視線はどこかずれている
アルの一声によって隊員らは堰を切ったように次々と同じことを口にした。
「そんなことしないでくれ」「隊長は駄目だ他のものにやらせるべきだ」
口々に出る言葉にジーナは呆然としながら聞き、勢いに負けないよう弾かれたように立ちあがり頭を振って大声をだした。
「なにをいっているんだお前らは。私でないとしたら誰がやるんだ。もうその時が迫っている
んだ。私でないのなら誰がそれをやるというのだ」
その剣幕に隊員はたじろぐもすぐにまた前に出て来て口々に言い返してきた。
どうして前に来るのだとジーナは慄き出した。こんなのは予想外だ。
「じゃあ、おっ俺が!」「俺が」「俺も」「俺に」「なんなら全員でいい」
「馬鹿か! 私一人でやる!」
ジーナは叫ぶも喧騒をかき消す音とはならない。それどころか風が吹き燃え上がる炎のように周りから声が高まった。
「罪を一人で被ってはなりません」「そうだ!」「反対!」
なんという見当はずれなことを! ジーナは怒りだす。龍を討つことが罪? そんなはずがない。
「これから行うことは罪ではない。何故なら私は信仰してはいないんだ」
「あなたがまだ自覚していないだけだ」
どこかから声がした、その言葉にジーナは釘付けにされた。自覚とは、なんだ?
「自覚もなにも、そんなものは元からない。だから私は討ち手に任命されたのだ」
「違います。あなたは耐えられる人であると見込まれて、任命されたのです」
「耐えられるということは無事ではないということ」
「傷がつきそこから苦しみます」
声が言葉が渦を巻き呑み込まれて行く感覚の中にジーナはいた。
抗おうと手を振り足を動かそうとしても身体は浮き上がらず、息もできない。私をどこへ引きずりこもうとするのだ?
「隊長あなたは苦しんでいる。いまも、です」
アルがそう言うとジーナは眼の前が赤く染まり、全身に痛みが走った。
反射的に手を見ようとしたため、だからジーナは瞼を閉じ闇の中へと逃げ出した。
「嘘を、言うな」
そうじゃない! といった声を構え待つも、そのような声は返ってこない。
いまのは全て夢か妄想かも? 口に出していったかどうかすら不安になりジーナは瞼を開けると、無言の隊員達が立っていた。
「あなたはこれから偉くなる人だ」
「あんたの隊にいられたことは俺達の誇りだ」
「このまま上に行ってもらいたい」
「聞いたよ龍の近衛兵長になれるかもって。俺達みたいな集まりから……そんな凄いのが出るかもしれないのに」
「どうしてあなたがこのような罪をわざわざ被るのです」
「あなたはいつだってやめられたし、誰もそれを止められないぐらいに戦って来た」
「そして今回も……」
迫りくる言葉の波のなかどうして自分は揺れているのかジーナには分からなかった。
ここまでは何もかも予定通りでありその先だってもう決まっているのに。そう私は……罪の、いや
「龍の血を被ってこの地を去る……」
「だからそれは駄目だ!」
呟きだというのに、言葉は捕えられ刺され掲げられる。
「だったら全員でやりましょう!」
「みんなで一斉に突き刺せば罪は分散される」
「これでいいのです隊長!」
「僕たちを最前線においてください」
アルがまた近づきそう言うとジーナは答えも頷きもせずにそのまま椅子に座った。
「私はいつも自分のためだけに戦って来た」
「僕には、そうは見えませんでした」
「それはお前の眼が悪いからだ」
「僕は視力は悪いですが、見えるものはきちんと見えています。たしかに隊長の眼は良いのでしょうが、どこか少しずれている、と僕には見えます。そして今もです」
違うと呟きながらまたジーナは瞼を閉じ、考える。
隊とは、第二隊とは所詮は自分にとって目的のために利用していたもの。
最前線の龍のもとへと行くための道具であり、それ以上のなにものでもなく、それ以外のものは求めてはいない。
それは隊員だってそうであり、減刑志願者の寄せ集め集団でありここにいて戦えば戦うほど罪が許される。
そんな存在であったのに、こんなことを言うとは……
「……ありがとう」
思わぬ言葉に隊員達は驚きジーナも自分の声を疑った。




