毒龍に奇跡を起こせるはずがない
近づいた輝く好奇の瞳が後ろに下がりジーナの身体は自由がきくようになった。同時にとまっていた思考も動き出す。
「ルーゲン師は、その可能性を否定なさらないということですか?」
「一つの説として留保しておきます。否定するのには決定的な論拠はありませんからね。その可能性をこの間での推論に繋げるとこうなりますね。中央の皇子に突然現れたもう一頭の龍が宿り、敵である龍の血族を集結させ皆殺しにしたもののソグの皇女に残っていた龍の血が覚醒し、この度の長きに渡る戦いが始まった。なるほど、こうしてみると発狂説よりかはそれっぽくなりますね」
肯定するその声にジーナは身も心も委ね全体重を傾けたい思いが湧いて来た。そうであれば、そうであるとすれば。
「この説に問題点があるとすればこうなりますね」
冷や水を浴びせられたようにジーナの身体は前のめりとなった位置から元の位置に戻った。
「中央の龍の継承者がなぜ他の龍に乗っ取られたか、ということですね。中央とソグの継承者の血の濃さを比べれば圧倒的にソグ側の方が不利です。可能性を考えたらこちら側になると思うのですよね」
「それはもう一頭の方が強かったということでは」
自分の言葉が失言だと流石のジーナも向うの驚きの表情で分かったが、ルーゲンは苦笑いしだした。
「さすがは異郷のものだ。簡単にそれを言うとはね。これも僕以外の前では言ってはいけませんよ。悪くすれば龍への不敬罪で本気で引っ張られてしまいますからね。……うん、そうですね、その可能性を考えるとしたら、こうでしょうか」
ジーナはルーゲンが苦心しているのを見て感謝するも、どうしてこの人はここまで付き合ってくれるのか、いまだ不明で分からないままである。自分は何を求めているのか?
「あるいは、こうです。ソグの皇女の身体に流れる龍の血が想像以上に濃かったか、ですね。皇位継承順位としては末席の末席あたりでしたがなんらかの血以外の事情でそうなっていた。その事情を知らないために中央の皇子は彼女が欠席であっても構わずに粛清計画を発動させ、このような事態となってしまった。なるほど、これも良いですね」
良いのならば、そうだと認めてくれれば、だとしたら全てが丸く収まる。
いま欲しいのはあなたという存在からの承認だとジーナは自らの欲求が分かってきた。
「そうですね。血の濃さというのがもしも不確定要素を含むものであるのなら納得のいくことが多々あります。龍身様の起こす伝承に残りし龍の始祖の力の再来を見るかのような奇跡の数々には、驚愕と同時に不思議な気分にもさせられるのです。継承順位末席の皇女の身体のどこにこのような龍の力が宿っていたのかと。こんなことは表立っては言えません。これぞ血の覚醒だと納得する他ないのですから」
「あの、その一方でこれまで中央の龍側が奇跡の力を起こしたという現象はございますか?」
ジーナが聞くとルーゲンは珍しく侮蔑したよう笑みを受かべ首を振った。
その嘲りの対象が中央の龍だとジーナには分かり気持ちが昂った。
そうだ、毒龍だからこそ、そのようなことはできるはずがないのだ。




