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炎という現象

 焚火の火に魅せられているように見つめているため、アルは二人の様子の変化に気づかないことが更に予言者じみていた。


「僕らの第二隊は特殊な隊であり民族や出身地という縛りが解かれた志願兵だけの隊ですから、その中に高僧が志願して加わっても問題はありません。今まで様々な隊員がいましたがブリアンは一度もそのような拒絶をしたことがないですよね? 自分も同じですしなによりも志願兵の欲望や願望なんて数種類しかないです。 命を賭して最前線で戦うのですから褒賞としての金銭に減刑や出世、とまずこれであり見返りが必要です」


 アルの話は二人にとって分かり切っていることであるのに初めて聞くように聞き漏らさずに無言で傾聴していた。


 火が小さくなりまた一本薪がくべられ火は元の大きさに戻る。


「思うにブリアンがあの人を不快にというよりも不気味に思ったのは、まずそこじゃないですかね。志願する必要が見えないというのに最前線に自ら来るその姿勢に。僕はここに同意します。そしてその次がかつて殺害した街の有力者との相似からの不安感。これは彼独自の人物感でしょうが、ここも同意しましょう」


「どうしてお前までそう言うんだ? それはおかしいだろあのルーゲン師だぞ」


 堪え切れず沈黙を破ったジーナであるがアルは炎から目を逸らさない、儀式じみた雰囲気のまま返してきた。


「あのルーゲン師だからですよ。僕自身はあの御方を良くは知りませんしたいして話したこともありません。そこはブリアンも同じでありますからある意味で見えるのかもしれません。客観的な視線として。隊長はあまりにも仲が良すぎる上にあの御方に好意を抱き過ぎています。隣にいては見えるものも見えなくなってしまうでしょう」


 なら、とジーナは動揺や反発が消えていないというのに声は震えずに平素の声がでたことに自身が驚いた。


 いま自分はどういう感情で聞いているのか?この心を現す言葉をジーナは見つけることができない。


「なら、何が見えているんだ。教えてくれアル」


「言語化ができない感覚です」


 アルがまた薪を焚火の中に入れる。すると炎は一回り大きく煌めいた。


「例えるのならば炎です。炎には実態はなく影すらありませんが燃えているのが見える。炎とは現象、これです。薪といったなにかを灰へと向かい燃やし尽くさんとすることのみが、炎の意思というか宿命というか自身の存在理由であり、つまりはあの人がこの前線に来てからずっとそうであると僕は見ています。あの人には人には告げられない大きな願望があるはずです」


 火の中で薪が爆ぜ、声のような音が鳴った。復讐心ですよ……ルーゲン師の声が耳の奥から心の果てから甦る。


 あれは酒によって心が緩んだことにより漏れ出した炎だというのか?


「……心当たりがあるのでは隊長?」


 同じく黙っていたままのノイスが肩に手を乗せ聞いてきた。ある、と隣に感じさせるほどの無言の反応だったのか?


 それともあの声と言葉が聞こえたということか?


「多少はな。だがそれでもあの御方は我々の味方だ。そこに疑いはない。アルもブリアンもルーゲン師の動機が分からないことによる不安がそういう心配に繋がっているのだろう」


「ルーゲン師の願望が何であろうが僕としてはまた隊としては何だって構いはしません。人に言えない何かであるのかもしれませんしね。ですがもしその願望に巻き込まれるとしたら、いいや巻き込まれるのならば、それについて警戒する必要はあるでしょう。ブリアンの不安もそうです、ねぇジーナ隊長」


 ここで初めてアルはジーナを見上げる。風が吹いてもいないのに炎が揺れアルの頬を掠めるも、熱がりもせず無反応でありジーナは自分の幻覚かと思い顔を拭うと、掌にいっぱいに汗がついた。


「あなたはその中心なはずですよ」


 アルがそう言うとジーナの視線は炎の中に向けられ、思った。炎の中心は果たして最も熱いのか、それとも熱くないのか?


 どちらにせよ中にいるのならば、分かるはずもないのだがと思い、また炎を見る。


 いるとしたら、自分はいまは炎のどこにいるのかと。

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