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やはり僕たちは似ている

 互いに名を呼びあい見つめようとしたがジーナは無意識に目を逸らした。見てはいけない、と何かが言った。


 眼の前にいるものを見てはならない、と何かが告げた。


 それがお前のためだ、と誰かが命じた……だから声だけがジーナの耳に届いた。


「やはり僕たちに似ている」


 どこがですか? などとジーナは聞きかえさず、またルーゲンも説明もせずに酒を一口呑む。


 あたかもお互いに分かっていることだという態度であるもジーナの思考は停止している、稼働させずに、止める。


 この場ではそれ以上動かしてはならないと何かが判断しているようにルーゲンの一挙手一投足だけを見ていると、懐から紙と筆をとりだしジーナの前に置いた。


「忘れないうちにハイネ君への第一信をここでお書きなさい」


 意外なことを言われジーナはルーゲンを見るもその顔はおふざけでも酔っ払いの余興でもない、いつもの表情だった。


 この人は、虚偽申告をしていて実は酒が強いのでは?


「あの、酔っていますけど。この状態で手紙はかなり危ないのでは?」


「その方が正直に書けるかもしれないし、普段は言えない言葉も書いてしまうのではありませんか?」


「そうならないように。当り障りのないことを書きますが、しかし何を書きましょう」


「いまの空の景色と酒の味と僕と君の話を書けばいいのではないでしょうか? それなら書けるはずですし龍身様宛と内容が被りませんよね?」


 言い訳させずに逃げ道を塞ぐとは、さすがルーゲン師だなと思いながらジーナは書き始めると筆が駆け出すというよりも紙面を泳ぐように前に前へと進んでいった。


 無思考のまま思うがままに書くとやはり自分は酔っているために判断できないがこれは危険な内容では? と不安なるブレーキが外されているのか、筆は止まらず内容が紙に書き込まれていく。しかしこうも思う。


 私はそれほどまでにこんなどうでもいい話を彼女に伝えたかったのか? それとも内容云々よりもただ伝えたいがために、繋がりを持ちたいがために……いやそうではない。


 ジーナは湧いてくる思考を振り払うように一心のもとで終いまで誤字脱字の確認も読み返しもせずに突き進み、それからサインをすると、久しぶりに息を吐き、吸った。


「書きました。ご確認をお願いします」


「早いですね。では僕も一文を書きますからお待ちください」


 受け取った手紙を一顧だにせず脇に置きルーゲンは新しい紙に何かを書き始めたがジーナはそわそわしだした。


「あの読みませんか? 私は内容がまともかどうかがちょっと怪しくなりましてルーゲン師にお任せしたいと思っていたのですが」


「いえいえ僕も駄目ですよ。なんだか目が若干回っていますから長文は読めません。今だって簡単な一文を書くのにもこうして四苦八苦している始末ですからね」


 筆を取る手はゆっくりとだがとてもそんな風に見えないとジーナは何か怪しさを感じた。


「それと君の筆の動きを見ましたら、見事でしたね。一気呵成に書くとはああいうことを言うんでしょうね。これほどまでの長文を息継ぎなしに書くとは……疲れている上に酒が入っているのにだから僕はいつも思います」


 ルーゲンは一息ついてから言った。


 「君は実に体力があって羨ましいかぎりだと」


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