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この男が女だったらさぞかし怖かったろう

 声の語調こそ変わらないまでも叱責の流れからかジーナは自然に頭を垂れ、そしてあの記述が誤りであったことをいまさらに気が付いた。


「今日の僕はどこか意地が悪かった理由も、分かりましたね」


「分かりました。申し訳ありませんでした」


 全てを了解しなおも頭を下げていると液体が注がれる音がして、グラスが鳴った。


「では、許します。仲直りの一杯をここで呑み交わしましょう」


 頭をあげるとルーゲンが杯を手にし待っていた。ジーナは慌てて新しい杯を持ち上げ、交わし呑みだした。


 違う味の酒、もっと強い酒の味が舌を痺れさせ暴れながら内臓に収まっていき、込み上がる酒気が口から洩れた。


「実のところ怖い声を出しましたけれども、それほど僕は怒ってはいませんのでご安心ください。手紙の様子から向うの方々には好評そうでしたからね。ハイネ君はいつも事務的な内容が多い手紙しか出してきませんが今回はその点でいつもよりも大きく違いましたね。続きを読みますとこう来ますね。ジーナはルーゲン師ルーゲン師とまるで恋人のように呼んでいるのがみんな面白がっていまして、龍身様なんて二人はそういう関係なのか? とお疑いになりますので違いますよと私は説得する羽目になりましたが誤解は解けたようです。任務中の臨場感抜群の勇気溢れる冒険譚はジーナの書き方もあってかすごく面白かったのですけど、ジーナの眼はすぐにルーゲン師に行き視点がフラフラしていてなんだか浮気性である意味でとても彼っぽくて微笑ましかったです。次の手紙もひょっとして龍身様が私達にも読ませてくれるかもしれませんので彼にはその点をよくよく言いきかせてください。ジーナはルーゲン師のいうことはよく聞きますので頼りにしています。それとできれば彼には私宛の手紙も書くように伝えてください。龍身様だけに書いて私に書かないってそれってなんだか不平等じゃないですか?」


「いや、そこの部分は書かれてはいないはずです」


 ジーナが急にツッコミを入れだしたためルーゲンは驚いて読むのをやめた。


「どこでしょうか?」


「すっとぼけた声を出してからに。その最後の私にも手紙を出して云々は書かれてはいないはずです。そういうことをハイネは口に出して言わないし誰かに間接的に頼んで依頼する女でもありません」


「ばれましたか。そうです底の部分は僕の創作ですよ、お見事です」


 嘘をついたというのにルーゲンの表情は爽やかでありそれに満足気でもあるように見えた。


「ジーナ君はハイネ君のことをよく理解していますね。こちらの引っ掛けに二度も掛からずにきちんと反論している。これは意外なことですよ。この君が女性の心理をきちんと酌んでいるだなんて」


「女の心なんてわかりません。私はただハイネの事だけはなんとなく推察ができるということでして」


「完璧かつ十分ですよ。それで君はそこまで分かっていながら、どうしてその心に応えてあげないのでしょうか?」


 どうしてだ? とジーナは自分と少し違う声が心の中で響くのを聞いた。そんなのは分からないことなのに。誰もが、聞く。


「わざと期待に応えず焦らして自分の傍から離れさせない、そういった悪女的な手法でも用いているのでしょうか?」


「そんな馬鹿な。私は東の女のような色恋沙汰の駆け引きなんてできませんよ。西はもっと簡素で真っ直ぐです。そういう世界で私は育ったのですから、そんな手法など知りません」


 抗弁は虚しくルーゲンは首を左右に小さく振る。


「君が知らないだけで西の女だってそういうことをしていますよ」


「いやいやそんなことは」


「女は東西南北やることは同じですって。東西南北の男はそんな女の態度にウロウロしているのですよ。君が知らないというのはつまりは……する方だったのではありませんか?」


 まさかそんな、とジーナは言おうとしたが


「知らなくても出来る人には自然にできるのです。そう自然にです、何気なくそうやっている君がそうだ。しかも目的もなく、それを楽しまず、むしろ互いを苦しめてね……それにしてもあれですよ一つ良いことでありますけど」


 ルーゲンは杯を持ち一口つけたのでジーナも釣られて持ち上げる。


「ジーナ君が、女の方でしたら、相当に恐ろしかったでしょうね」

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