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龍を導くもの、龍の婿となるもの

「ふざけるでない、あっふざけておったのは妾だな。それで同時に派遣せねば公平感が薄まるので、ここは即座に攻勢を開始させ性格的に現在自分の方が功ありと思っていそうなオシリーにはマイラ卿を派遣するとしよう。


 あちらの優柔不断さで迷惑をかけたと思っていそうな気が弱いムネにはシオンとハイネを勅使として派遣すれば釣り合いは取れるであろう」


「ムネ将軍は婦人が苦手だと聞きましたが。私達二人が行きましたら懲罰だと見なされませんか?」


「半分はそういう意図もあるな。他の参謀らはそなたらみたいな女が勅使なら喜ぶであろうが将軍は変な緊張をする、これでよい。勝手に色々なことを考え込み始めて今よりかは多少は早めに動いてくれるようになるだろうし参謀も張り切るだろう。逆は流石に無いだろうし、それは最早謀反であるからな」


 なるほどよく考えていますねとシオンは頷きハイネも頷いた。


「勅使派遣の連絡をこれから行い向うから来る報告書の処理が終わり次第に赴くという予定といこうか。東西の将軍から中央を北上するバルツ将軍の元へ合流し帰国と概ねこの流れだ」


 パッとシオンは向う側が光ったように見えた。いや光ったのだ。ハイネが、ぴかりと。


 あの男に会えるという期待が光を内側からこぼれ出した、にしてはあまりにも隙だらけかつ穴だらけな身体だと思いつつシオンは先ず思った。


 可能な限り、それは避けなければならない、と。だからシオンはヘイムに尋ねた。


「勅使の件には異論はございませんがハイネはどうでしょう? それは別にハイネのことをとやかくいうことではなく、こちらのいま手がけている職務とどちらを優先すべきか、それとの擦り合わせだと私は思いますが」


 ヘイムが答えずに顎に手を当てるとスイッチが入ったようにハイネの口が動きだした。待っていたかのように。


「あの、忙しいと言えば、忙しいです……失礼しました。本当に忙しいです。その、ヘイム様の婿選定について変わらずに難航しておりまして、私の力不足なのですが、本当に申し訳ありません」


 ああ龍身様の婿か、とシオンは内心で溜息を吐く。


 いくらでも難航していいとシオンは思うものの座礁するとさりとて困るとあまり触れたくはないことであった。


 そうだからこそハイネに丸投げをしているのだが、ならばこれを幸いにして……


「その件ですがまだ時間はありますからそちらを優先したほうが良いと私は思いますね。一度出てしまうとひと月以上は停滞してしまいます。それならばここは一つ集中して行い、決定しないまでも一区切りをつけた方がよろしいかと。ヘイム様にハイネもそうなりましたら一安心でしょうし」


 散々今まで投げっぱなしの癖によく言うよと我ながら思っていたが二人からは反発の雰囲気は伝わってこなかった。


「まぁそうしたほうが無難と言えば無難であるな。龍の婿選定は現在止めるにはは半端すぎるものではある。とりあえずキリのいいところまでやるとしようか」


「シオン様の決定は素晴らしいもので私としましては大歓迎です」


 おや? 皮肉かなとシオンは思うもののその表情は心から出たものであり声も偽りの色はついていなかった。


 表情は鮮やかな光でありどこまでも広がる爽やかを湛え、全ては我が意を得たりといったもののようであり、微笑みながらハイネは両手を胸の前にクロスさせながら置き、誓うかのようにして言った。


「はい。私も力の限り尽くす所存です。中央帰還の前日までには龍を導くものと龍の婿をこの日の下に誕生させましょう。もうその時が近づいておりますし」


「それは喜ばしいことで」


 シオンはそう返事をし腹の底で重いものが転がるような不快さを感じた。

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