君に光があたり生まれるその影が僕です
シオンの呆れ声にヘイムとハイネはまた吹き出し笑い声を立てた。
「一夜を共にして……そうですが、そうじゃないとしてこうです。
『翌朝出発しました。ルーゲン師の頭の中に地図や時計が入っているのか、距離と時間を終始我々に伝えそれが鼓舞となり迷いなく走っていくことができます。
まさに導くものであり導師、自然と先頭に立つことを役目づけられた人だと思いました。
最も本人はジーナ君の背中に隠れさせてもらうよ。いわば僕は影。君が光に当たることによってはじめて存在するもの、とまるで逆のことを言ってきてまた冗談を言います。
私が光でルーゲン師が影? こうやって逆のことを言って私を戸惑わせるのもルーゲン師の好むところなのでしょう』」
「光と影、か……なるほど」
途中でヘイムが呟きハイネは朗読をとめた。何がなるほどであるのか? あの二人を同列にすることがそもそもおかしいというのに、光と影だなんて同一的存在の扱いとはいったい?
「こう聞いてみるとこの手紙ってジーナによるルーゲン師の功績の報告っぽいですね」
ハイネがそう言うとシオンはこっちもなるほどと感じた。
「そうですね。彼は人の功績報告はかなり詳細で公平らしいと評判ですがその癖が出たのでしょう。するとこのルーゲン推しは単なる今回の西東横断行動の最大功績者であるとの報告といえるかもしれませんね。それでこの後に東陣営のオシリー将軍と面会ができ、本陣営に戻る南下、ここも邪な眼で見なくても良さそうですね。
『我々は南下を始めました。東西の陣営との共同攻撃の策は約束の時刻を伝えただけではまだ完成していません。これから本陣営に戻り任務完了報告をしなければならないのです。最後だということかまるで下り坂のように馬を駆けさせました。馬車は揺れ中のものたちは悲鳴をあげますが、やはりルーゲン師は微動だにせず、それどころか先頭の私の隣から動こうとしません。君がいたからこそ成功しました、と急にルーゲン師が話しかけて来て怪訝な顔をすると続けました。
君は自分は護衛であり馬車を走らせただけであり交渉は僕に任せ成功したから師の存在こそ成功の要因だと思っているだろうが、それは大きな勘違いです。
今回の作戦行動はかなり激しいものでした。精神的にも肉体的にもかかる重圧は凄まじいものだというのに君たちは、いや統率者たる君はほんの少しの動揺も些細な疑いも抱かずに前に前へと邁進してくれた。
僕自身も駄目かと何度思ったことか……けれども君はそのような言葉どころか雰囲気すら漂わせなかった。それが引いては隊員たちに勇気を僕に力を与えてくれた。しかし何故にそこまで君は。と聞いてきましたからごく簡単に返しました。
それは成功すると思っていましたから、としか言えません。ルーゲン師なら成功するはずですし失敗していたらそれは元よりそうなる運命であったと、私はそんな風に思っていましたし。それにしてもこれはある意味で絶対的なものへの信頼感に近いかもしれませんね。
そう言うとちょっとの沈黙の後に笑い声と共に言葉が来ました。不信仰者がよく言いますね。書くときつい言葉であるのですが、ルーゲン師の声には非難よりもからかいのほうがずっと込められていましたから私も微笑んだと思います。
その言葉をそっくりそのまま君に返しますとルーゲン師は語気を強めて言いました。君がいて遅れが出たり途中で敵に襲われ討たれたりしても僕は君を怨みません。そんな運命だったとして受け入れます。だから僕は君を指名した。
そのルーゲン師の言葉が身に余り過ぎたのか気持ちが一周まわって苦笑いしてしまいました。光栄ですが買い被りすぎですよ私にはあなたの期待に応えられるだけの力はありませんし、何より私に限ってだけ龍の御加護が皆無ですし。
そのぶんは僕ので補填しますのでご安心を。その発言は御不敬では? 君にそんなツッコミを貰うとは一生の不覚ですね。ですがこれは敬虔ですよ。この時はじめて私達二人は同時に笑い声をあげ、下り坂を降りていくかのような馬車はもう一段階速度をあげていくと旗が見え始めました、我らが龍の護軍の旗です。
そのまま出迎えの大興奮の渦に巻き込まれながらもルーゲン師は巧みにすり抜けてバルツ将軍の前に歩まれ、報告を致しました。
我々も後に続き将軍に報告を申し上げると労いの言葉をいただくとほぼ同時に隊員達は緊張の糸が千切れたのかその場で眠るように倒れ、天幕へと運ばれるのを見るとああこれで今回の任務は終了したな、と息を吐くと背中に何かがもたれかかってきたので驚いていると声がかかりました。
ジーナ君、最後の仕事だよ、僕を運んで行ってくれ。とルーゲン師の消え入りそうなか細い声による訴えがくるので背中越しで会話をしました。
みんな見ていますが。君は気にしないでしょ? 僕も気にしませんでは問題ありませんやってください。
逆らう言葉を持てないために中腰になるとルーゲン師は自分の背中に飛び乗ってくるとあまりにも意外でした。
軽いですね。軽いとはね、でも君は荷を背負う際に重いとか思う時がありますか? こう問われると……しょっちゅう思う時がありますよ、と答えました。』




