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あの女にはこんな手紙を出すのですね

 このような人事の最終決定権は龍身そのものにあるものの、担当者間で協議した人事を基本的には受け入れる方針であった。


 そうであるからこそ公平性のために人事の議論などはこのように眼の前でやり、目をつぶらせるような行為は避けなければならないというのに……


 それにしてもあの男はこのように議論にあげてとやかくいう程の人物であるのか? そんな馬鹿な話があるはずもない。


「はい、この話はここでよしましょう。考えてみるにいまの私達にとってのジーナは近衛兵長でも西の将軍でもなく、前線でテンション高めな手紙を送って私達を楽しませる一兵隊長に過ぎません。この手紙は己の功績を粉飾しようという役職狙いのものでは断固として無く……となるとそうですねこうしましょうか。彼の愚直なまでの善良さというものの一つの証拠物件だとでも。裁判をするのならかなり有利ですよこれ」


 ここで久しぶりにヘイムは軽い笑い声をあげ瞼を開きハイネも手で口を抑えた。良し冗談は上手くいったな。


「もう一度三人で読みましょう、ええっとこっちの西の将軍は今は、というか兎も角、ムネ将軍でしたね。ではここから。この『ルーゲン師が愚痴をこぼしていた。珍しい。この私がいくら迷惑をかけても愚痴をこぼしたりしない人なのに』とぬけぬけとよく当の本人が言いますよね。図々しいにもほどがあります」


「あぁ実にあやつっぽいな。声と表情が目に浮かぶぞ。あの面の皮の厚さには性根を疑うな」


「えぇ自分が何を言っているのか本人に自覚がない感じが本当に彼らしさがよく出ている一文ですね。全然反省していない」


 打てば響くといったような女二人の異口同音の叩きにシオンはなんだかジーナが憐れに思われた。少しぐらい味方をしてやろうかと。


「全くですね。その愚痴というのが書いてはいませんがあれですかね、 ムネ将軍の優柔不断さとか」

「それよな。あのルーゲンが愚痴を吐くとした相当なものだが、ムネ将軍の度胸のなさや優柔不断さは相当だからな。時間が無いのに決心がつかない、説得する、まだつかないと、だいたいそんなものであろう」


「一旦決心がつくとあの人はかなりいいのですけど、火が点くまでがどうも鈍間で頓馬で」


「煮え切らないお方ですね。でも流石はルーゲン師ですねなんとか説得に漕ぎ着けたのは」


 ハイネの振りにヘイムは無反応だったのがシオンの眼を引いた。


「そのせいで東への草原横断が手紙に書いてある通りの強行軍になって敵と遭遇しそうになったと……」


 急にヘイムは口をつぐみハイネも口を閉ざすと風が窓を打ち窓ガラスを震わせた。


 反対のことを言い合ったり同じ行動を取ったりと、最近のこの二人はなにか変だなと思いつつシオンがその先をとった。


「霧が出たみたいですね。そのことについて触れていますが。『霧のなか馬車を駆けさせましたが追跡を振り切れたのは突然濃くなった霧のおかげです。あれが無かったとしたら目的は半ばで途絶えたうえに我々の命も危うかったでしょう。追跡者が完全に我々を見失いこちらが霧から脱出した直後に現れた陽の光を浴び足を止めると、馬車からルーゲン師が落ちるように降り笑顔とその全身を用いて龍身への祈りを捧げました。ルーゲン師の言われるにはこの霧は龍身様のお力であり、そうでない理由がどこにもないのだと。だからこそ成功し、この先もうまくいくのだと。他の隊員も降りて祈りを捧げていますので、私もみなにならい同じように跪くとあの日の油の香りが、甦りました。それはあなたがここにいるかのように。すると連鎖反応的にあなたの祈る姿が思う浮かばれ私は思い出します。あなたはどのような日も体調が明らかに悪そうな日も、一日も欠かさずに準備を整え儀式をなさっていたことを私は見て知っております。不信仰な私にはその価値が分かりませんが、あなたの神聖なる義務には敬意を払いたいと常々思っております故に、勝手ながら龍身様にではなくヘイム様に感謝の言葉を捧げます。ありがとうございます。』」


 これもまたジーナらしいなと思いながら読み上げるもヘイムとハイネの反応が、ない。


 押し黙ったままでありさっきからこの二人は何なのだとシオンはちょっと腹立たしくなり、声をあげた。


「まっ普通に良いじゃないですかね! 失敬極まることを書いてはいますが、お礼は正直ですから。あくまで普通で常識的ですけど、彼の人間性を考えたら合格点ではないでしょうか」


「随分と、個人的な感想を綴っていますね」



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