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妾に跪け

 閉じられていた瞼が開きヘイムが目覚め、一つ大きく呼吸をすると鼻で笑い出した。


「どうした香水なんぞつけて。色気づきよったか」


 開口一番の言葉に分からないジーナはヘイムを見るだけであったがそれからやっと気が付いた。


「いえこれは香水とかではなくて例の果実です。ヘイム様達が持って来てくれたのをさっきまで食べていてそれが」


「それだけではないであろうに?」


 ヘイムは顔をあげ鼻を近づけジーナの頬から耳の付け根を嗅いだ。


「西のものは頬と耳でものを食うのか? 違うだろ? 果汁を顔に塗り香りをつけた、どうしてだ?」


 無知を装っているのだなとジーナは思いながら形が歪んでいるヘイムの眼を見下ろしながら、言った。


「あなたに会うから、こうしたのですよ」


 ヘイムの眼の歪みは笑みへと変わった。


「分かっている癖に」

「おぉ分かっていたぞ。しかしどうしてそんなそなたらしからぬことをした」

「それはあなたがこれが好きだから」


 笑みが消え、いま放たれた言葉がヘイムの耳に入りそこから間が生まれると途端に世界が二人をその場に残し遠ざかりだしていく。


 取り残された感覚のなかでジーナは自らがいま発した言葉も世界と一緒に遠くに行き遥か彼方へと消えていくのを感じていた。


 流れ言葉が消え去るその限界までジーナはヘイムから目を離さずにいるとその口元が微笑み瞬きを一つしたのが見え、返事のように二人の顔は近づいた。


「ああ好きだぞ」

「私も、です」


 言葉を受け取るとジーナはヘイムをそのまま立たせるように体勢を整わせると、沈んでいた音が浮き上がり死から甦ったようなそのどよめきにふらついた。


 会場のものたちは総立ちになり二人を注目していた。


「ヘイム!」


 蒼白な表情を浮かべたシオンが傍まで駆けてきた。シオンが来たということは、とジーナは考えた。


 こうなってからまだ数秒しかたっていないのではないか?と。


 ヘイムに何があったらいの一番はシオンに間違いは無く絶対に最初に来るのだから。ではさっきのあのやり取りは、あの長い間は? もしかして幻だったとでも?


「すまんなシオンよ。疲れからかバランスを崩してな、もう大丈夫だ。式を再開するがあれを出せあれだ、瓶」


 混乱しながらもシオンは言われた通りに瓶を取り出しヘイムに手渡した。


「ではジーナよ妾に対して跪け」



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