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その名

 龍身は思う。そうかお前はいまここまで入れてくれるのか……表彰状? そんなものは、どうでもよい。


 こいつにそのようなものは必要はない、と龍身もまた一歩前に出て二歩前に出る、あと半歩で間合いに入る。


 ジーナはまるで動かない、いや動けないのだと龍身には分かった。まだこの状態であるのならそれ以上は動けない、それがお前とお前らのルールなのだろう、と。


 そのまま突っ立っていろと龍身は左手の爪を立てるもジーナは見つめたまま何も動かない。


 光を感じないということはあれを放てずにおり、そうでない今のそれは濁った緑色の二つの瞳。


 黙ったまま立ち尽くし二人だけの無音の世界は未だ成立したまま龍身は己のすぐに跳ぶことができぬこの身を呪うも、この状況の好ましさに有り難さを感じた。


 二度とはない、と。いまのこの状況は、以後これだけだろう。だが今のこの身では……


 いや身体に抵抗があるのならこの杖を支点として跳べば……と龍身は閃いた。


 木偶の坊の如くに突っ立っているその身に身体をぶつけ首元にでも爪を食いこませれば……不可抗力的に。


 可能性を考えると同時に決断を降した龍身はすぐに杖を右手に持ち替え、大きく一歩右足を踏み込み、支点となる杖を床にたたき突けようとするその直前に右手がヘイムが杖を投げた。


 支点を急に失った龍身は段の上から前へと身体を前のめりに崩し宙に投げ出され床へと落ちていく流れ、にはならなかった。


 龍身は自分が落ちずに浮いていることがすぐには理解できなかった。いまは強かに床に叩きつけられているはずであるのに、そうではないと。


 時間が停止しているのではないかとも考えた、もしくはスローモーションがかかりいまは落下していく最中ではないのかとも。


 しかしどちらでもなかった。完全に宙で止まっているのだ、それも超自然的な現象でも意識下における錯覚でもないものであり、それは龍身としてはもっとも考えられない上に考えたくもないことを認識せざるをえないことであった。


 不愉快な手と腕の感覚が首と腰のところにあり、鼻には異臭と果実のにおいが混じり著しく不快であり、あらゆる意味で耐えがたいものであるなかでまた再び龍身が左手を動かそうとすると、その身を抱き留めていた男が叫び呼ぶ。


「ヘイム!」


 だから扉が閉まった。

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