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いまはどこよりも遠くにいる

 心の中での呟きであるのに言った途端に男の眼に龍身の顔が見え鮮明に映しだされた。ヘイムではないものの顔が最初に出会った頃よりも、いや最後に会った時よりも広くさらに濃くより深くに現れている。


 これは私にしか分からないのだろうと男は確信した。この世界で唯一自分だけが龍に逆らうのだからと考えながらそのまま龍身を見続ける。


 知っているはずの姿であり顔であるのにいくら見ても何も思い出せず、またあの握った掌さえもその曖昧な感触が甦りもしなかった。失われ消えている。


 龍身は語り終え後ろに一歩下がることで式が始まることが分かったものの男の眼は龍身を捕え続け、同時に探す。


 あの人は、いないのだろうか? と。こんなに近くにいるはずだというのにこれまでの何よりも遠くに離れてしまったとしか男には思えなかった。


 自分があの場から去ったあとにそれとなり手紙の時だけ維持していた意識が今日この儀式の前に失われ、もう既にこの世界にはいないとしたら、それどころか今までのことさえ全てが龍が見せた幻であったのなら……私は救われる、だがいったいなにから?


 男はそう思うともう耐えられなくなったように後ろを振り返り出入口を見だした。もうそれ以外のなにも見たくないというように。


 壇上の方への静寂さとこの出入り口付近の沈黙によって二つの世界が生まれた、いや甦った。


 ジーナは自らの静けさに浸れば浸るほどに世界は別けられると改めて意識しつつ、またここにおいてようやく気づき確信しつつあった。いま、私は、遠くにいると。


 しばらくその今の位置を意識し続けていると肩に手が置かれ振り返ると隊員の眼がそこにあった、無言であるがその時が来たと告げに来たのだろうと理解し歩き、先頭に立つ。


 するとジーナは後方で無音のどよめきを聞いた気がした。これでいいのだとジーナは思う。


 いつものように第二隊の先頭に立ち壇上へと向かう際に、龍身に目をやった。


 当然に視線は合わない、何故なら龍身には眼球が無いのだから、と意外な真実のようだとジーナは思いそれを目指し進む。


 前方を行き龍に近づくにつれてジーナは自分はこういうものであったことを思い出しつつあった。


 自分とは龍を目指し行くものであるのだから迷いは遠くに行ったと。いまどこよりも遠くへいる。


 会場の真ん中を進みこんなに近づき傍に寄りつつあるのに、意識とあの人は遥か彼方へ行き、自身もその反対へと向かっているように。


 壇上に登るための階段に足をかけた瞬間にジーナは心の中で叫び声を聞いた。遂にこの時が来たのかと。


 何かを感じジーナは視線を斜めに向けるとすぐに目に入ったのはハイネの瞳であった。


 椅子に座りこちらを見ているが視線が合うとハイネの瞳は驚きの光を放つもすぐに消えそれから微笑んだ。


 その笑みとは、とジーナは考えた、まるで何かを期待し望んでいるもののようだとジーナは感じ正面に目をやるとそこにはただ、龍身が立っていた。


 遂にこの時が来た。もう一度声がし、予感を抱いた。この時よりこれより先、自分は龍に真っ直ぐに立ち向かえる、と。

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