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手紙は渡すが渡さない

「ならば、こういうのはどうでしょうか?」


 そう言うシオンの顔は自信というものに固まっていた。ここぞという時に絶対に頼りになるシオン姉様。


「その一歩はやはり女である可能性が最も高いでしょうが、そうしたらその男は相当の浮気野郎ですがね。二人を天秤に掛け軽重のゆれめきを楽しんでいる色魔とか。それはリアルですけれどここは穏便にロマンをとりまして、もう一つの要因は何らかの使命といったものを自らに架せているために女を愛してはならないとすると、どうでしょう?」


「使命? そんなの愛しながらでもできますよ」


 反射的にそう言うとシオンは微笑んだ。


「そこは男の作者と女の作者の違いかもしれませんね。男はその両立は難しいから」


「極端な! やりなさいってば。じれったくてしょうがありませんよ。重いですって。もっと気軽にやればいいのに」


「あなたはそういう重い男ではなく、軽い男の方が好みでしたっけ?」


 笑顔で問い掛けてきたシオンのその眼は笑ってはおらず見つめて来ていた。そのハイネが想い瞳に浮かべる男の顔を。


 ハイネもその問いに対し一人の男しか頭に思い浮かばずにそれが瞳に映っているのだろうか?


 だけどいまの心はそれに対しては浮気だろうが使命だろうがそうではなくても今は


「軽いのは嫌ですけど重いのも嫌です」


「分かります。どっちも結局のところ自分自身ことを一番に愛している厄介な男である場合が殆どですからね。そういうのは良くありません。要は中庸をね、ほどほどに真ん中普通あたりが良いのですよ、相手にするのにはね。だからあなたも……あらもうこんな時間ですね」


 とシオンが手で制すとルーゲン師が壇上に現れ挨拶を始めた。いよいよ式が進行していく。


 式場を一瞥すると席は埋まり勢揃いしたということだろう。だけども一人足りないのでは?


 先頭から真ん中へそれから後ろの座席を見渡しても、見当たらない。いればすぐに目に入るはずなのにとハイネは疑問に思わずに探す。


 第二隊のものたちがいる。最後尾であるからその中にいるというのに、彼はジーナは見当たらない。


 ここにいないのなら……ある可能性にハイネの胸は熱を帯びてきた。


 来れなかった、と。どうしてもここに来て姿を見ることも近くによることも、ましてや祝福を受けることなどは……そうであるならば来なかったらこのまま手紙を無かったことにする。


 その場合はこの手紙は必要のないものであり、また彼には受け取る資格がないものである。


 もう一つは、ここのどこかにいて表彰の際に現れたとして、何もかも私の勘違いであり何も起こらずに無事に式が終わったとしたら手紙を渡す。


 二人が結びつかないということが分かったら、問題なく渡す。


 遠く隔たった二人がここに来てどんな関係でここを迎えるのか。見ればわかる、私なら分かる、分からないはずがない。


 この会が終わったのならば今度こそ決定的に二人は遠くに離れ、私はあの人をもう一人で遠くには行かせない。


 そう思うと胸が炎を宿ったように熱く焦げた臭いさえ出し始めているように感じられた。


 燃えているのは懐の手紙かそれとも自らの心か。


 ハイネは本当に焼けていないかだろうかと懐に手を当てると確かにそこには手紙の感触があり、安心をして眼を閉じると瞼の裏に浮かぶものがあった。


 龍となるものが、そこに映った。炎がまた一段と熱を帯びハイネは思う。そうであったとしたらあなたにだけは奪わせない、と。

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