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どうせ意地を張っているんでしょ

 差し出すとヘイムは慌てずにゆっくりと手に取った。その動きもまたハイネの癇に障り頭が鋭くより冷静となる。


 婿をこれからきちんと選ぶという言質を得てからこれを出したかったのに。そうしなければならなかったのに。それはもう遅い、が反対はしていないと判断し進めるしかないと思いハイネは堪えた。


 あなたはそう言ったと言い張り信じればいい。もっともこの人はそんなことは言ってはいないなどそういうことは言わないだろうし自分もそこまで意地を張ることは無いだろうが、心の中は別だ。


 だから言葉を欲し心に軛を打ち込みたかったというのに。


「シオンには見せられない内容であるのか?」


「それは私自身にも分かりません」


 我ながら不思議な言い方だとハイネは思うもそれは真実であった。言葉を選んだのは自分であるが、それは彼の心をそのまま示したものであり、正反対であると同時に同類語でもあるかもしれない二つの単語の矛盾かもしれない組み合わせ。


 それが正しいのであるか間違いであるのかもハイネには未だに判別はできなかった。自分では答え合わせなど、できない。


「私自身だけではなく彼自身も分かりません」


 平衡であったヘイムの眉が崩れたのを見たハイネの胸は幾分かすっきりとした。そうだ動揺してくださいよ。私は揺らしているのですから、ちゃんと揺れろ。


「それがどちらであるのかはヘイム様の御判断のもとでお願いいたします」


「ほぉそうかそうか、あいわかった」


 こちらの深刻さなど気にもしないように……努めて、きっと見栄を張ってそういう風にしているとハイネは見なし、その一挙手一投足を見逃さずに、見た。


 その過程でハイネは思ったこれほどまでに自分がこの人を見たことは今まで一度として、無かったと。


 いつもの動きで封を開け中から手紙を取り出し広げる。そんなごく当たり前の動きをハイネは瞬きすら抑え見つめるも、そこには不自然さがどこにも無いことが驚きでもあり不快でもあった。


 とんでもないことが書かれているはずなのに。どうしてそれを面に出さない? その取り澄まし顔の下にはどんな表情があるのですか?


 あなたは私にそれを見せたくが無いがために、お得意の自制をしてそこまで頑張っているのですよね?


 粘り気のある湿った暗い熱気を内部から感じているハイネはヘイムが手紙をすぐに畳んだことに目を見張った。


 もういいのですか? 心の声に反するようにヘイムは手紙を封に戻し無造作に机の傍らに置いた。あんな内容の手紙を隠さないなんて。


 それどころかあんなにつまらない一文しか書いていなかった先に渡した手紙は凝視していたというのに、もう一つのはそんなに簡単に……演技ですか? そうですよ演技ですよね。


 この私を驚かせてあっと言わせたいがための芝居だと私には分かりますよ、とハイネは手紙を見つめながら気持ちを落ち着けていたが、筆が走る音が、聞こえた。


 視線を手紙から離すとヘイムが何かを書いていた。流れるように紙面に文字が描かれ時間から一筆書きである一文が紙面の上に描かれているのが見えるも、乾かすための時間をちょっとおいてからヘイムがすぐに折り畳んでしまった。なんて書いてあったんだ? とすぐに思い出そうとしても知らない文字であるために印象がぼやけて消えた。


 おそらくはあれは中央の文字ではなく、西の文字だ。ずいぶんと達者な筆になったものだ。いやそれよりもだ、それよりも。随分と簡単に書いたけれども、どうして?


 それはそんなに安易に出せる返事なのか?   

 あなたは何も感じてはいないのか?

 それとも……このことに関するほとんどは、私自身の勘違いなのでは? 


 ヘイムはこれも同様に静かに手紙を封筒に入れそのまま差し出すもハイネは混乱のために固まった。


 何故あの人宛の手紙を私に差し出すのか? 

 よりによって他の誰でもないこの私に?


「うん? どうしたのだハイネ。返事を持っていって欲しいのだが嫌なのか? 嫌なら他のものにするが」


 夢から醒めたようにハイネは不必要に力を入れて手紙を受け取った。


「嫌では決してありません。この私にどうかお任せを」


 そうだ当たり前だ。私以外にいないのだ。



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