ルーゲンとハイネが付き合えばいい
その先に誰がいるかはみな知っているのに確認のためか驚きのためか三人同時に動く。
「後方のこちらだが事務処理やらなにやらが最近滞りがちでな。新しい女官らのためにも一度戻って貰いたいと思っておってな、のぉシオン」
寝耳に水というかそのようなことはそれほどだとは思えないのだがヘイムの目配せを受けたシオンは反射的に首を縦に振った。
そんなことないと言いここでヘイムに嘘をつかせるわけにはいかない。それがたとえどれだけ不可解なことだとしても。
「以前からヘイム様とそのような話をしましてね。ハイネのその考えは素晴らしいものだけれどもそちらは別の誰かを代理に立て、後方が一段落したら再び前線に戻って貰いたい。私達はそういう方針にすることにしました」
よってあなたはこの表彰式のあとはあの男から離れてもらうことになる、私達と共に後方に戻るのだから、と言葉には出さずともシオンが言うことによってそのような宣告となった。
ハイネはこの方針については畏まりました、としか言いようがなくそれ以上の話には進展しない。
たとえルーゲン師がその場に居ようともヘイムがそう言った以上覆りはしない。まさかこうなるとは、とシオンは驚きながらも満足していた。
通常ならこのような意思表示に対してはヘイムは龍身は反対はしないものである。よほどのことではない限りは。
つまりはハイネのこの意思はよほどのことであり反対するに相応しいほどのことであるとヘイムは判断したと。けれどもシオンは内心首を傾げる。
あのことを自分は話してはいないし、この子だって話しているはずなどないのに何故にヘイムは知っているのだろうか?
それとも本当に後方の事務が滞っているのだろうか? それは彼女がいたらいたで絶対に役に立つし業務は改善するだろうが、そのことは彼女が前線にいることよりも重要なのであろうか?
「代わりのものを前線に派遣するよう要請致します。他の女官にはあなたのようにタフではありませんから男性になるでしょうけれど」
そこは口実でありジーナのことがあったので、できる限り女を前に回したくないためにそう言うとハイネが顔に苦笑いを浮かべた。
ちょっと露骨すぎたので通じたのかとシオンも似たように声をあげずに微笑み合いこの件を片付けることにした。
「そうですかハイネ君は後方にです、か。そうなりますと引き継ぐ後任の方はなかなか苦労なさるでしょうね」
「そんなことありませんよ。私はそれほど仕事をしていたわけではありませんし」
ルーゲンの呟きに対してハイネは謙虚に手を振るもシオンはそんなことあるだろうが、とハイネの一日の予定表を思い出した。
不自然なほど圧縮したスケジュールを見てシオンはすぐに分かった。残った時間はほぼ全てジーナの授業に当てているということを。
これは推測にすぎないが直接聞かずとも調べずとも分かることである。ハイネはそういうことをする女であることを。
「ハイネがおらぬと支障が出るのか?」
「無論です。反対するわけではございませんがハイネ君はこれからの前線の戦いに必須の人材です。後方業務の改善を果たした後の前線復帰を心よりお待ちいたしております」
二人は以前から仲が良いとシオンは思うも最近のは少し違う意味での仲の良さを感じるような気がしてならなかった。
それは恋人同士のでは決してなくある友達な感じではなく言うなれば共通の目的を達成するための仲間的な雰囲気で強力者? 同志?
確かに二人は龍身サイドとソグ教団の連絡係としてこれまでのやりとりで気心は知れ関係も深まっているのであろうが、ルーゲン師の態度からハイネには仲間としての好意以上のものは何も無く、またハイネも上の者への敬意と節度ある好意以上の感情は伺えない。
どうしてだ? とまたシオンは密かに歯噛みする。何故そんなに不都合な関係になるわけなのか?
都合が良ければあの男の件はなにもかも解決するというのに。要はあなたがルーゲンをまたルーゲンがあなたを……
「ルーゲン師はハイネのことが好きなのか?」
「そうですよ。あなたはハイネのことが好きになるべきなのです」
ヘイムの言葉に便乗してシオンは心の声を一緒にその場に漏らし、硬直化する。私はいったいいま何を言ったのか?




