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駄目だなこの女は。はやく私が何とかしないと

 出てくるはずの言葉が鳴るはずの音が不在の奇妙な沈黙が部屋に満ち静かな不穏さがうるさいぐらいに耳につきシオンは音を求めたくなり机の上を指先で軽く叩くと、思ったよりも大きな音が鳴った。


 その音にハイネは居眠りから覚まされたように身体を震わせた。


 催促になってしまったかなとシオンが思うとハイネが息を吸う音が聞こえた。


「賛成いたします。けれども作成時には私が傍にいなければなりません。彼が心を現す文字を正しく書けるかどうかを見なければなりませんし、書けなかったとしたら教える必要もあります。ですので」


「そなたはこちらの仕事の方が大事だ。そちらのことなどほおっておけ」


「いいえそうはいきません。大切なことです」


「大切なことなどではない極端に言えばこれはな妾と奴とのことだ。二人だけの問題だ。そなたが間に挟まることは無いぞ」


「私は彼に字を教え指導しております。どうしてこのことについて無関係でいられるでしょう。彼がもしも重大な誤字や意味不明な文章を書いてしまった際は私の責任です。それは私たち二人で作成いたします」


「だからそこまで頑張らなくて良いぞ。申し訳ありませんでしたみたいなことが書いてあったらそれでもういいのだから」


「そうでない場合の可能性もあります。ジーナについては私はよく知っています。彼は突然とんでもないことを思いついて実行しますからね。そのようなことを起こされてはなりません。ですから彼の傍には私がいなければならないのです」


「ハイネ」

「ヘイム様」


 二人は同時に名を呼びあった。

 それもまたこの場で初めて名を呼んだようにもシオンは感じられた。


「これ以上話すのならこっちを向いたらどうだ?」


 呼びかけにハイネが首を回そうとした瞬間にシオンがその間に言葉を投げそれを阻止した。

 どうしてだか知らないが、いま二人の視線を合わせてはならないとなにかがシオンに告げてきた。


「じゃあこうしましょう」


 ヘイムの視線とハイネの回りだした首がすぐシオンの方に戻った。


「ヘイム様への御詫び状はジーナただ一人が書きますがその文面の最終チェックとその間のアドバイスはハイネに任せると。文章があまりにも酷い場合は一部訂正を指摘するに留める、と。これなら問題は無いでしょう」


 ほぼ真ん中を割っただけの案であるがハイネは軽く頷くもヘイムは反応を示さない。


「ジーナにもこのことを伝えておきます。彼にも極力人に頼らずに自分だけの手でやるようにと」


 そう加えるとヘイムは微かに首を縦に動かし苦笑いした。


「そうしたいのならそれでよい。どこまでも面倒な男だなまったく。その癖に恩知らずで義理に欠けるとろくでなしの条件しか揃っとらん。そうであるからなハイネ、あまり世話を焼いて甘やかすことはないぞ」


 首を振りながら言ったヘイムにハイネは振り返りこちらも似たような苦微笑みでもってこの場で初めて視線を向けていた。


「分かります。私もそうしたいのですが、なかなか出来なくて」


 駄目だなこの女は。はやく私が何とかしないと、と眉間に皺を寄せながらシオンは思った。

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