奴の首をかっさらいお盆の上に置く
答えるとシオンはハイネの頭を抱きかかえて愛おしげにその頭と髪を撫ではじめた。
「可哀想にハイネ……頭を打ってしまったせいであんな男に誑かされてしまうだなんて。でも大丈夫ですからね、私がこれから成敗しに行きますから」
大袈裟な芝居がかった台詞にハイネはくすりと笑い顔を更に近づけさせ唇を首筋に触れさせて喋る。
「姉様どうかそうしてくださいまし。私あの男の傍にいるとなんだか頭がおかしくなってしまって」
「なるほどあの男は顔に似合わずに妖術を使うということか。なに大丈夫、私が一呼吸もおかずに奴の首をかっさらいお盆の上に置くとするよ」
「姉様……私は別に首が欲しいわけではありませんよ」
「いいや。死と共に君に覆うあやかしは晴れる、恋と言う幻というものがな」
シオンはそこまで言うと笑い出しハイネも腕の中で釣られて笑い出した。その笑い声に不自然さを感じなかったのでシオンはハイネの背中を撫でながら囁いた。
「そうです少し冷静になりましょう。あなたは昔から人に好かれるタイプだから良い男の子に囲まれているけれど、たまに近寄って来る悪い男に騙されてしまうこともありましたね。それに一度そうと思い込んだらのっぴきならないところまで思い詰める傾向があります。今回の件は一緒にいて親切にしているからあなたはそう勘違いして、奴もその優しさにつけ込んできてこうなってしまったはずです。そうあなたは被害者なのです。ジーナという悪党の犠牲者。ですから少し距離を置き彼の名を口に出すのを封印しなさい。そうすれば頭も正常に戻りもとに戻ります。ひどい? いいえ違います。彼は私の部下でもありますがあなたの方がずっと大事ですから」
芝居口調はやめて真剣に説得したはずなのに腕の中のハイネはまたくすくすと笑い出していた。
「とてつもない女垂らしみたいに語りますね。なんだか逆に姉様はジーナを買い被っているように見えますよ」
「それはそうですよ。あの男ですからね、あれはやりますよ」
なにをやったのだ? またシオンは自分の言葉に疑問を抱き改めてジーナのことを思い出す。
そこまでの価値のある男ではないのだが。まずあんな顔だし。岩みたいな男で西のゴリゴリの保守主義者であるものの、真面目に仕事はするしその場にいてもあまり邪魔にならない存在感が貴重で……違う、今はそこを評価している場合ではない。
考えているとハイネがまた緊張した面持ちでこちらを眺めている。その顔はやめなさい。
「たしかにあなたの言うように私は買い被っているでしょうが、あれは男です、油断は禁物です。やはり少し懲らしめに行きましょう」
「そこは私も反対しませんけど、姉様……私はそんなに不幸だとは思っていませんよ」
「騙されている女はみんなそう言うのですよ。悲劇に身も心も委ね自己陶酔に浸りながらにです」
シオンはハイネを優しく引き剥がしてからその前髪の乱れを直した。
「ひとまずこの話はこれまでにしておきましょう。距離感についてはあとでゆっくりと話し合いまして」
「いいえ、この後に話す必要はありません。どのみち私達は徐々に距離が置かれます。彼は前線に行き私は後方です。いまだけですよ今だけ、だからどうかお許しください」
シオンは溜息をついた、重症だと。




