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私はジーナのことが

 ハイネのその眼。こちらの心を見通しているような妖光を発し散りばめ、それは夕暮れ空の先に夜に煌めく星々のようでジーナの目は惹き込まれ心が離れられない。


 ジーナは夜と光を見ながら自問する。分かっていて敢えて聞いていないか、と。ならその行為の意味は何だ、と。


 だが答えは躊躇いもなくすぐに返って来る。それを言うのなら、あなたのそのだんまりにはいかなる意味があるのかと。もう私達は言わなければそれで済む、といった次元の関係ではありません。言葉よりも先に色々なことを通して心を交えています。今のこの行為だって皮膚の接触による心の交わりと何ら異なるところはありません。私だから、理解のある私が相手ですから、問題になっていないに過ぎません。だからこの際に言います。あなたの口先のみの抵抗は無意味であり、これを抵抗だとして受け入れてあげているのが私です。ですからしたければ、どうぞ。もっと私に抵抗をして、苦しい表情を私を見せてください。そうしたら、許してあげますから……


 星々の光りによる語りにジーナは心中で聞くも首を振る。無意味な抵抗? それは違う、と。ここだけを守れれば、ここさえ防げれば私は……


「言いたく、無い」


 感情を込めずに簡単に言うとハイネは小刻みに頷いた。


「ふーん……分かりました。それはそれでいいのですけど、いまのはブリアンさんとノイスさんの言葉ですよね? あの二人ならいかにも言いそう」


 あっさりと引き下がったのを不気味に思いながらジーナはそうだと答える。そうでしかないのだから。


「ならルーゲン様は私についてなにを言いました?」


 不意にルーゲンの声を思い出すとジーナの心が衝撃で跳ねた。


「あっジーナ、今、凄い反応した。私の中に伝わってきましたよ。こんなに感じてしまって……」


 今度はハイネの方が手を強く握り返しながら言った。


「教えてください」

「ルーゲン師は、ハイネのことを」


 魂を引っ張られている感覚の中でジーナは答えだした。


「私のことが、なんです」

「ルーゲン師が、ですよ」

「はい、わかっていますってば」


 ジーナは見上げて見つめるハイネの顔から目を離せずに、いた。

 その表情の美しさに死を、消滅する寸前の輝きを見ているような気がして。


「ルーゲン師がハイネさんのことが好きだと」

「はい、私もルーゲン様は好きですよ」


 爆発する何かが内部の衝撃でジーナは手に渾身の力を込めて握り返した。

 痛いはずであるのにハイネの恍惚の表情を浮かべており、ジーナは自分はいま炎をつかんでいると錯覚する。掌が燃え立っている。


「ジーナはルーゲン師のことが好きですよね?」

「あっああ、ルーゲン師のことは好きだが……」


 その掌から炎を移って来るのを感じつつジーナが答えるとハイネは笑みに影が射しほの暗い闇で以って一歩、いや半歩足を近づける。黒いものが入り込もうとしてくる。


「私は?」


 意図的な聞こえないぐらいのか細い声であるのにジーナには鐘の如く音で以って頭の中が打たれ身体がまた反応をする。これも伝わったのだろうかハイネの笑みが一段階歪み深まり今まで見せたことのなっていくなかで足がまた、動いた。どこまで近づいてくる?


 それはもう半歩、間合いが無くなる距離、触れているのかいないのか分からなくなるその位置にハイネは移り、顔を大きくあげジーナを見つめる。


「私は」


 唇だけ動かしているのに、声があとから聞こえた。さっきの問いではない言葉が、その先にくる言葉が何かをジーナには分かっていた。


 だから言った。


「やめろ」


 ハイネの笑みはより暗くより死に近い輝きに満たされるなかでジーナの抵抗を撥ね退け告げにいく。


「私はあなたのことが」


 息を止め、男はハイネの唇を自分の唇で塞いだ。

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