悪口でも言っていたのでしょ?
挨拶抜きでハイネが尋ねて来るもすぐに話題を変えてきた。
「むっなんだか酒臭いですね……まさかジーナ、あなたって人は!」
飲酒を決めつける声でもってハイネが顔を近づけて来るがその眼に怒りは無くむしろ笑っているように見えたのがジーナには不思議であった。
ハイネはジーナの顔を嗅ぎながら首から胸へと鼻へと近づいていき、停止してから顔を上げた。
「随分と上手に呑まれるのですね」
「鼻が悪いのか? 絶対に呑んだということにしたいようだが呑んだのは私ではなくブリアンとノイスだ」
「まぁ……部下を売るだなんて卑怯ですね。ここはお得意の自己犠牲精神を発揮し呑んだのは俺だから煮るなり焼くなり好きにしてくれ、と言ったらどうです」
「私がそんなことをいったいにどんなメリットがあるんだ」
「メリット? ずいぶん難しい言葉を知っているのですね。あなたにその概念があるなんて。だってそうじゃありません? 自分の功績は主張せずにほとんどを隊の功績に移して隊員全員の賞与を増やしているじゃありませんか。あれってどんなメリットがあるのです?」
「私はそういうものには興味が無いんだ」
「けど私には飲酒していたということにはしたくないのですね。罰はお引き取り願うという方針ですか?」
ハイネの眼の奥に光が宿る。それは好奇心という火なのだろうか、とジーナはたまに思うがすぐに鼻で笑う。
相変わらずこの人はわけのわからないところでおかしな興味を抱くなと。
「ただ単にハイネにはそう思われるのが嫌だというだけだけど」
ジーナは答えるといつものようにハイネの瞳の奥を見るために見つめる。
あの火は一瞬大きく燃え上がり、すぐに小さくなって消えていく。
これもいつものことでありジーナはいつものように終わったと思った。
ただそんな反応だけに過ぎないことだと、思い込んだ。
その証拠にとハイネの態度はいつも同じだと。能面でつまらなそうな声をあげると。
「それって宿題や課題を増やされるのが嫌なだけですよね。まったくジーナってそうでもしないと真面目にならない人なんだから。さてどこまで進みましたか、て半分ぐらいじゃないですか。うん? ルーゲン師やみんなが来てありがたい話をしてくれた? それって勉強よりも大切なことなのですか?」
紙をめくりながらハイネは責めたてる口調で言うもジーナは言葉に棘を感じなかった。
そもそも、とジーナはハイネの言葉を思い返す。
言葉はいつだって辛辣であるのにどうしてか雰囲気はいつも朗らかでその明るさに包まれておりその中で自分の魂を……
「ハイネについての話題でな」
口から言葉が零れるとハイネの表情が強張る変化をジーナは見て、それから狼狽からか震えながら離れ視線を逸らし落としうつむく。
「悪口ですね。分かっていますよ」
ハイネの吐き捨てる声に言葉が返せずにジーナは椅子から中腰となる。
「みんなに私のことを悪く言って楽しく盛り上がったのでしょう」




