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私は本当に遠くまで行ったのだろうか?

 ノイスとブリアンが帰った後にジーナはひたすらに字を書き綴っていた。


 こうしているほうが良いなと思えば思うほどにジーナの手は早く確実に動いていく。


 手が止まると、いらぬ考えが頭の中で甦り叫びだし反響する。


 みんながみんなお前とハイネを……


 声を黙らせるためにジーナは言葉を復唱しつつ手を同時に動かしていく。


 とりつかれているものの如く、逃げ出しているものが如く、もがいているものが如く、だが結局のところ自分は


「一歩も遠くには行っていないのでないだろうか?」


 そう言葉を口にするとジーナの手が止まった。


 会いたくもなく話したくもなく、触れたくもなく見たくもなく、考えたくもなく思いたくもない、私たちの関係は疑いもなくこれであるというのに、自分がいましていることは、思い書き考え思う、という心の確かな歩みであり、その足の方向は向うへ、最も離れたいと思った場所へと行く。


 抵抗すらなく考えようによってはあの頃のよりもずっと近づいているのではないのか?


 現にこのように、とジーナは繰り返し綴る文章を読み返す。


「日に日に陽射しの光の量が増え私は眩しさの中にいますけれども」


 ジーナはその続きを付け足さずにはいられなかった。


「その光に私は美しさをいつも覚えてしまいます」と。伝えたいことは自分の言葉でありあの人にだけにしか伝えないこと。同時にジーナは感じてしまう。このことを伝えることの意識の高揚と歓びを。


 そのうえで想像してしまう、あの人もこの心ではないのかと?


 そうであるのならたとえいくら肉体的に遠ざかろうと逆なのでは?


 むしろこのままでは……ジーナは手を止めて引き出しの中の奥の奥にしまい込んでいる手紙の束を取りだし、一番上のものを手で手を払ってから広げた。


 何が書いてあるのかは知っている上に諳んじるほどであるのに、またその文章を目に入れるために開く、その西の文字を、故郷の字を、あの人の手によって書かれたそれを。


「こちらは完全に雪に閉ざされているいつものソグの山だ。寒いし気が重くなって仕方がない。こんなのであるのだから、早くそちらに行きたいものだ」


 こちらに来たいというのは雪のせいだ、とジーナは口に出して言う。


 読むたびにそう言う。初めて読んだ時もそう言った。ハイネにだってきちんと言った。


 雪のせいでこう言っているのだと……なんでこんなに言い訳じみたことを私が言わなければならない?


 いまもそう、これが言いたがために読み返したように。


 それとも、とジーナは今一度文面に目を落しながら意識を一つ深みに落とす。


 そう言いきかすのはまだ納得していないではないのか、と。それは自分自身がそのことを……


 耳の奥底が階段の一段目を踏む音を、拾った。



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