隊長は私だ、絶対にやめない
「俺は副隊長だから代理というのは構わねぇ。むしろやりたいと思っているぐらいだからよ」
ブリアンが差しいれで持ってきたパン類を噛り付きながらジーナの要望を受諾した。
「なんだよあいつ。いいもん挟みやがって。俺のために作る料理の時よりも豪勢ってどういうことだよおい」
「キルシュさんも隊長のために作る方が腕に力が入っているってことだろ。これは旨いね」
同じく籠の中からパンを取り出し頬張るノイスが感想を言う。
「それどういうことだよ。俺はあいつの男であいつは俺の女だろ。それなのに隊長宛のが良いっておかしいだろ」
咀嚼しながら忙しそうに怒るブリアンにノイスは冷静に返した。
「最近上手くいっていないんじゃない? ほらよく喧嘩しているし仲直りも遅くなっているし」
「だからなんだ。それが隊長の方に力を入れる理由にはなんねぇだろ」
「もしかして隊長のはいつも通りでブリアンのを手を抜いているという可能性とかどうだ?」
「一緒だろ! おいふざけるな」
興奮したブリアンの肩をとり引くとジーナと二人は目が合った。
「余計なことを聞くかもしれないが、ブリアンはキルシュにありがとうとかそういう感謝の心を伝えていないからじゃないのか?」
「感謝はしているよ。でもそりゃあたり前だしあっちだって分かってるだろ」
「いいや分からないものだ。言葉で言わないと通じないよ。それが人間の心じゃないか? だからこのあと会ったらちょっと大げさにお礼を言ってみたらどうだ。大した苦労でもないしあっちだって不快には感じないはずだしいいことしかないぞ」
ブリアンが目を丸くし隣のノイスも見たこともないほどに目を大きく見開いていた。
「どうした隊長。いつもと違うじゃん。病気?」
二人の声はハーモニーとなってジーナに届いた。
「いや、なに、これはルーゲン師の受け売りでな」
ジーナは感謝しろという話としてルーゲンの講義を心にまとめた。現在塔の一室には訓練を終えたブリアンとノイスが訪問してきていた。
届け物とこれからの指示それともう一つは当然。
「表彰式には出るべきだとは俺は思うんだよな」
「そちらも代理が可能なら頼みたいのだがな。ノイスやアルに」
「お断りします。何らかの事情があって出席できないのならいざ知らず、ジーナ隊長は病気でも怪我でもなく、表彰を拒絶なさっているのですから代理など立てられようもありません。お諦めください」
ノイスがそう言うとブリアンも頷く。
「ところが私自身はならいりませんとバルツ将軍に伝えると、ご覧の処置をとられて勉強合宿となるんだ。困ったものだな」
「表彰式を欠席した場合はバルツ様は隊長を第二隊から外すでしょうか? 俺達はそこが気になるんですよね。もしそうなったら隊長となるのは俺かブリアンになりますから」
「候補は二人じゃなく一人だろ。俺だろうがノイス」
不安顔のノイスにやる気満々なブリアンと、もしもバルツ将軍がそのような処置をとった場合にはノイスを指名するだろうと思うものの、そこは口にせずにはっきりと答えた。
「バルツ将軍の脅しの内容に第二隊の隊長の罷免は一言もなかったからその可能性はない。無事にやり過ごしたらそのまま現場復帰で指揮を執ることとなるな」
ノイスは安心したのか長い息を吐き、一方のブリアンは鼻から勢いよい息を吐いた。
「なんだつまらねぇ。せっかく俺に隊長の可能性が出たのかと思ったのにな」
「第二隊の隊長は私だよブリアン。命ある限りこの役は降りないからな」