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僕は愛される側の人間ではない

 灯りの熱が身を焦がすように心を燃やすように、罰するかのように。


「あるいはそういう感情を抱いてはならない呪いを掛けられているように、フフッそんなのがあったら随分とロマンチックな呪いもあったものだけど。僕としては自らのうち側にある好意を誤魔化す方が罪深いと思いますね。同時に、他人のその心を認めないのもまたある意味で傲慢で罪深いことであると」


 呪いか、とジーナは胸の疼きに心中で耐えながら思う。あるのかもしれないな、と。


「ルーゲン師は好意を持たれる側の人ですからそう言うのではないですか?」


 ジーナはそう言うとルーゲンの笑顔に陰が差し曇った。


「それは違いますよジーナ君。そこだけははっきりと言います。僕はね、君とは違うのだよ、君とは。僕は愛される側ではない。だから僕は君が好きなのです」


 その言葉は反発もなくジーナの胸の奥底に収まり、痛みが消え去った。微風か陽射しのごとくにあまりにも自然で当然あるためかジーナは反応すらできずに座っていた。自然に対してはそれしかできない。


「ほらこんなに簡単に言える。伝えるだけでも心が満たされるものです。心が通じ合っている者同士だとなおいい。ハイネ君にも機会があったら言っても良いでしょう」


 変な言葉が出たせいかジーナは失笑する。


「それもまた極端なのでは?」


「極端ではないですよ。君の心が逆の方向に極端なだけであって伝えたらあの子は喜びますよ」


「そうはいってもしかし」 


 詰め寄って来るルーゲンにジーナは抗うも両腕をとられたかのように逃げられない。


「あの勉強の量が何よりの証拠です。こんなに頑張るのも断ってハイネをがっかりせて苦しめたくないからですよね? 好意でもなければやりませんよ。僕はなにも婚約して結婚しなさいと言っているわけではないとはお分かりですよね? それともジーナ君はそういう感情を持ったら結婚しないといけないという世界から来ました?」


「そういう言葉は異性間において私の故郷では結婚相手同士でしか使わないです」


「そこですが僕が思うに他家の婚約者の妻となる娘を誘惑するなという教えではありませんか?」


 よく分かっているなとジーナはルーゲンをまた見直した。


 西の故郷は厳密にはそれは婚約者が決定している者同士の話であり、しかも決定もいくつの時に行うかは不明であり、ずっとないものもいる。


「そこはそうですが、それでもまぁ基本的には言い合いませんね」


「同性間では言い合いません?」


「言うとしたらそれは尊敬をしていると言った意味で使ったりして」


 奇妙なものを混ぜてきたなとジーナが思っていると、見えない角度から、来た。


「ところでさっき僕は君のことが好きと言いましたが、なにか支障でもございましたか?」


 支障どころかそれは癒しであったと、ジーナは考えざるを得なかった。


「……悪い気持ちではありませんでしたね」


「そういうことですよ。信頼関係であればこの一言で相手の自尊心を満足させる。それでいいじゃないですか。君の意固地な心ではなにも伝わりませんよ。特に女は心確かめ合うことが大好きですからね。同性間でも確認し合っているのはそういうことです……とにかくだジーナ君」


 催眠術を解くかのようにルーゲンは両掌を叩き鳴らし立ち上がった。


「意識をしなさい。君は婦人に関してはかなり無意識過剰だ。自意識過剰もよくはないがどっちもどっちだバランスだよバランス。簡単に適度な意識が何よりも大切だ。人間関係もね」 


 お話は終わりなのだろうと察しジーナは立ち上がってお見送りの流れとなる。


「ご講義ありがとうございました。まぁ話が難しかったですがタイミングがありましたら」


「どこまでも君はしょうがないな。君からの言葉であるのが大事なのですよ。まぁ繰り返すがもっと簡単に考えなさいって。ハイネ君は君に結婚話とか面倒なことは要求していないだろ? だったら好ましい言葉の一つでも言うのも報酬のひとつですよ。好意に対して返すのが好意です」


 そう言いながら扉を開きルーゲンは室外へ出て振り返ってジーナを見つめる。そこにあるのは綺麗な顔。


 だからかジーナは、かなり自分は無理をしていると思いつつ答えた。


「言葉が何になるのかは分かりませんが、意識してなにかを伝えたいと思います」


 目を細めながら頷くルーゲンが踵を返した


「期待しているよ。ではまた後日に」


 遠ざかっていく紺色の僧衣が姿を消すまでジーナは見送るが、ここに来て疑問が湧いてきた。


 ルーゲン師はバルツ将軍からここを教えて貰ったに違いないが、来た理由は自分の説得ではなかったのか?


 それなのにあんな関係のない講義というか雑談をして帰っていくとはいったいに?


 ジーナはさっきまでの話をもう一度心の中で反芻してみた。だが何を話したかが、よく思い出せず、苦味だけが残った。

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