『龍を護衛する、どういう意味だ?』
「はい? もしかして変更をするとか。すると誰にでしょうか?」
ルーゲンは刺激せぬように言ったつもりであったがバルツの瞳は危ない輝きを放っており狂気の一文字を感じとった。
「あの無信仰者にだ! そうだこれがいい感謝いたしますよルーゲン師」
何だ僕はいったいなにを言ってしまったのか? どうしてそんな異常な変更をするのか?
躁状態なバルツのはしゃぎっぷりに同調しルーゲンも頑張って笑うが、強張った笑顔を向けてしまう。
ああこの瞳の色は、一線を超えたもののみが放つ限りなく狂気に近い無色透明さ。
「どうやら俺の意図があまりよく分かっておらぬようだな」
何もかもわかりませんとはさすがに言えないために曖昧に微笑んで頷くとバルツは語りだし、それからルーゲンは納得した。この人は案外におかしなことは言わないものだと不思議な感想を抱きながら……
後日に男はバルツから直々に召還された。しかも正式な手続きと書類を以って。
召還についての詳細は伏せられていたために男は妙な胸騒ぎを覚えつつも将軍室に急いだ。大仰しいな、と苦々しく思った。バルツ将軍はきっと自分がなにも受け取らないからこういう手の込んだことをして、無理矢理になにかを渡そうとしているのだとは察した。
これだったら、と男は後悔しだす。賞金がいーっぱい欲しいねんとわざと意地汚く要望すれば良かったと。そうだ次からはそうしようとも。今回は勲章やら名誉的な何かであろうからそれは我慢をして受け取って次回からは金一本と。
無欲は大欲に似たりという言葉通りに男は自分の融通の利かなさ故に、このような面倒なこととなったと反省しながら階段を昇り廊下を歩き、将軍室の扉を開いた。
室内に入るとまずルーゲン師がいることに気づき男が目を合わせると笑顔で会釈した。男はいつも感じていた、この人は信頼できると。
それから将軍に目を向けるとこちらも上機嫌な雰囲気を漂わせていた。やはり自分は間違えていたと男は思った。
あんなに頑なに拒んで人を心配させるのは誤りだと。恩賞をあげたい人の気持ちというものもある。感謝というものを捧げたいときもある。それを否定したらこんな面倒なやり取りとなってしまう。譲れないところは譲らないようにして、他は喜んで貰う。
そうしよう、とここに到ってようやく常識的態度を手にした男であったが、致命的に手遅れであった。まさに後悔先に立たず。
「よく来たな。さてお前に良い話があるのだ。とても名誉なことであり、お前みたいな勇者には相応しいものだ。ルーゲン師、いいかな?」
「ありがたくお受け取りいたします」
殊勝に頭を下げると二人は笑った。
「フフッちょっと早いですよ。まだ何の話か分からないではありませんか」
「何であろうとありがたく頂戴いたします」
「なんだ突然態度をガラッと変えて。頭をあげろ、ほらそれだ」
頭を戻すとルーゲン師が眼の前に立っており一着の服を手に持っていた。
「シアフィル連合の各隊長に配給される礼服だ。以前の第末番隊には今まで配布されてはいなかったからな。これから第二隊となるのだから隊長は正式な礼服を着なくてはな。これは古着だが近いうちに新しいものを配布する」
おっなるほどと男は頷いた。これならいい、軽いし恩賞としては実用的だ。隊員達も自分の不遇については文句を言ってうるさいからこれを貰ったと言えば満足するだろう、ならばこれはありがたいな。
「丈や裾は……後ほど着て図って急いで調整しましょう。せっかくの礼服なのですから身体に合わせないといけませんからな」
「ありがとうございます。ですがそこまで焦る必要はないかと。戦闘は停戦中ですし儀式といったこれを着る機会もそうございませんし」
「いや、お前はこれからその服を毎日のように着るのだぞ」
不吉な予感が長い針となって男の指先に入っていく。なぜ毎日この服を着るのか? 私はオシャレさんでは無いのだが。
「第二隊の隊長から外されるのですか」
鈍い痛みと不安で声の抑揚が乱れさせながら喘ぐように男が言うとバルツは首を振った。
「そんなことはせん。お前の希望し続ける限りあの隊の指揮はお前のものだ」
その言葉を聞き安堵の息を漏らすもその油断を突く形でバルツがその心臓をぶっ叩いた。体を鍛えていなかったら死んでいたはず。
「ジーナ。お前を龍の護衛に推挙する。もう決定事項であるからそのつもりでいろ」
そのなんとかの護衛という言葉の意味が分からず、というよりかは言葉を脳が拒絶したためかよく聞こえず分からないためか、ジーナは呆けて首を傾げた、何を言っているのやら、と。すると隣にいるルーゲンが説明しだした。
「龍身様の護衛ですよ。龍の騎士の部下となり龍身様を護衛する、名誉職ですね」
龍を護衛する? 何を言っているのか?