『呪われ尽くしな人生』
アリバの言葉にジュシは驚いた。
「準備って、あのまだ先ですよ」
「馬鹿こくな。荷作りだけじゃなくやることはいっぱいあるぞ。お前は中央の言葉は喋れてある程度は読めるようにはなったが、まだ字は書けないのが駄目だ。勉強を始めるようにな」
ジュシが不満気に鼻を鳴らすとアリバはもっと大きく笑う。
「いいぞその顔。だが違う世界で生きるってのはそういうことだ。わしだって西からこっちに来た時は字が読めず書けずで苦労したが、頑張ってここまで覚えた。生まれ変わるというのはそういうことだぞジュシ。故郷に帰れなくなったものは、そうして生きる他ないんだ」
ジュシはその言葉に驚きアリバを再び見ると、そこには同じ顔なのに違う男の表情があった。
「わしは今からお前に呪いをかけてやる。覚悟しろよ。いいかお前は東に行き、わしと商売をする。お前はわしとの交易で以って東の地で繁盛し土地を買い良い家を建て、その途中で嫁を貰い子を育て孫に囲まれ、それから老衰で死ぬ」
「呪われ尽くしの良い人生ですね」
「冗談いうななんとも悲しい人生だ。どんなことしたって結局は死んじまうんだからな」
「人はなにをしても死にますって」
「そうだな。いくら食っても死ぬし食べなくても死ぬ」
意識せずにジュシはアリバの意図を察したのか、反射的にその言葉が出た。
「だったら食べてから死にたいですね」
「分かってきたじゃないか。それでいいんだよそれでな」
もう少しで前に追いつこうかというのでアリバは足の速度を緩めだしジュシも合わせながらもその心は一つのことに集中していた。
どうしてもここで聞かなければならないことが。
「私は二度と行きませんけれどここにはこれから先、取引は続くのでしょうか?」
「続くぞ。だがお前はもう行く必要はない。入口で村のものが護衛として待機してくれるらしいからな」
振り向きもせずにアリバが言うとジュシは無感動に頷いた。何も感じない様に努めるように。
「次の注文は新たな薬草とのことだ。それも大量に必要だということで大急ぎで調合せねばなるまい。お前はたっぷり寝ていたから今夜に寝ずに帰って徹夜で薬の準備をするのだぞ」
薬草? どういうことだ? あの山に限ってそのようなものが必要なはずなどない、とジュシの胸で鈴の音に似たなにかが鳴り始めた気がした。
「どういうことでしょう? アリバさんの調合のことを悪く言うのではないのですが、この山には様々な薬草にあの村には代々伝わる薬草の調合がありまして、外からいったい何を買うのか分かりません。どういうことでしょう」
「まぁこういった村は外部から買うってのはないよな。まず自給自足で逆に売って来るぐらいだ。しかしな」
鈴の音がまた一つ鳴った。この音はいったいなんであるのか? 何を呼んでいる? それとも起こそうとでもいうのか?
「それがなどうも効きにくいようみたいでな。ほれさっき襲ってきた連中に噛まれた村人の毒の治癒が異様に長くかかったようでな。一命はとりとめたようなんだが眷属みたいな手先のでこれならこの先どうなるのか? といま研究が進んでいるらしいぞ」
「そんなはずはない」