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『あいつらはお前を追放した』

 アリバが積み荷の最終確認を済ませ手を振ったことで一同の緊張が解かれた息を吐いた。


 それから荷を馬車に積み準備がすべて完了し、あとは出発の時刻を待つだけとなるその早朝、ジュシは遠い故郷の方角に目をやっていた。


 あの日からジュシは同じことばかりを思っている。なにか異変が起こっている、と。この季節に来るのは有り得ない。


 記憶をいくら探ってもそのような話は出てこない。あれは決まった時期に現れるものであるのに、よりによってこんな季節に?


 不意打ちを狙いタイミングを外したことで村を抜けてもこの先にある砂漠の海はこの季節はあたかもいわば大海原となり、流砂によって奈落へと呑み込もうというのに。


 もしかして違うのでは? そういうものではなく違う揉め事が起こり戦いが……も可能性が低い。


 そもそもツィロ自らが買い出しにくる時点で事態の切迫感がはっきりと分かってしまう。


 今すぐに、必要だということを。毎日延々と繰り返す思索に耽っていると毛深く馴染み深い手がジュシの肩を掴んだ。


「おいなんだお前? ぼうっとしていないで早く準備をしろ」


 半ば怒っているアリバの顔を見ながらジュシは困惑した。準備ってもう終わっているのに、何を準備するというのか?


「もう荷作りは終わっていますよ」


「お前のだよ。なんだ、行きたくないと言うのか?」


「いっ行きたくないというか、行ってはいけないのですよね?」


「誰がそんなこと言った?」


「ツィ……客人が」


「わしはそんなことは命じてはおらんぞ」


 アリバはこういう時に冗談やおふざけを行う男ではない。となると本気で自分を連れていくのかとジュシは立ち上がりアリバと対峙した。


 だが身長はジュシの方が高いというのにアリバはいつものように気圧されることなく改めて告げる。


「わしはお前を連れて行く。早いところ支度を済ませろ」


 嫌だっと心がまず叫んだが口が開かずにいた。行きたくないというのなら叫べばいい、逃げればいい、そんなことは容易にできるはずなのに。


「アリバさん。客人は私が山に登ることを厳禁しましたが、その約束を破るというのですか?」


「お前は箱の中に入れそのまま運ぶ。そうすれば足を踏み入れたことにはならんからな」


「あのですねトンチ合戦ではないのですよ。もしもこのことがバレましたらツィロのことだ、間違いなく契約破棄となりますよ。そうした大損で」


「お前が出て来る場合は、危機の時だ。そしてその危機とは、襲撃だ」


 咄嗟に意味が分からずにジュシはアリバの顔を首を捻って見ていたが、その意味が分かった途端激しい衝動で足元が揺れた。


「私の故郷のものはそんなことをしない! あんたはいったい何を言っているんだ!」


「お前を追い出したのにか?」


 アリバの一言で襟にまで伸びた手が止まりジュシは全身の温度が一気に下がった。


 そうだ私はあの世界から、拒絶されたのだ。もう無関係なのだ。


「故郷を悪く言われて怒るのは無理はない。むしろ美点だ。だがわしはこう判断する。わしはあの客人やその村には信用が無い。まずお前がいてはいけない理由はこう考えるお前みたいな強いものがいては事を仕損じるからではないかと。あっちはお前がどのくらい強いのかぐらいはよく知っているだろうしな」


「けれどアリバさん。いままでこんなに警戒をしたことはそうそうないじゃないですか。アリバさんのチームは腕の立つものばかりだしそこまで警戒するのも」


 ジュシの訴えにアリバは顔を横に向け声を小さくして言った。


「だからお前を追い出した連中だからだ。今までお前が自分から出たか追い出されたかは聞かなかった。そんなこと聞いてもしょうがないからな。だがあのやり取りで大体を察した。お前は追いだされた、しかもお前の意思に反してな。そういうことをする連中をわしやみんなは好意的には見ん。だからこういう対応をする。まぁ到って普通の対応だろう?」



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