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私は龍の護衛をやめようと思う

 一方でジーナはどうしたらいいのか混乱した心の中で言葉を探すとキルシュの言葉がそこにあり、手探りで取りだす感覚の中で動き出す。


 確か、とジーナは心の中で復唱する。この時はただ、優しく抱きしめる、と。ジーナは内心で苦笑いした。そんなことをする必要は……


 突然に、と言っていいぐらいにジーナから見たハイネは変わった。ジーナに向ける表情も眼も何もかもを。


「許されないということか」


 怒りに満ち溢れたハイネのその顔が返事だとジーナは受け止めた。


 そうだ私は許されるはずがない。それでいい、それでしかない。あの人にもこの人にも私は結局のところ……新しい痛みが、来た。


 知らない痛みがジーナの胸を走りハイネを見おろす。今日はじめてジーナは目が合った気がし、なにを思って彼女は、私を見ているのか?なにを睨み、なにを許さないのか? そして私は本当に、許されなくていいのか? 疑問と共に触れていたハイネの手がゆっくりと引いていくのをジーナは肌の感覚の中で知る。


 ハイネは震えながら眼を見開き、息を止め視線を外さない中でジーナは再び疑問を思い浮かべる。


 私は本当にこのままハイネに許されなくていいのか? 手の動きが答えとなって去ろうとするハイネの手を追い、指先がその中指が触れた瞬間にどちらが動いたのか不明なぐらいに同時に絡まり合い、ジーナはキルシュの声を再生させながらハイネを引き寄せ抱きしめた。


「すまない」

「許します」


 胸に顔を押し付けられながらハイネは答える。


「見て触れ語るその声が私に来たことで許します。ここに帰って来て私は……」


 ハイネの手が背中に回りジーナを抑えつける。抱きしめ合うこの縛り付けられている状態でジーナはどうしてか解放感の中にいた。


 このままずっとこうしていられたら、とジーナは思い、もしもそれが可能であるのなら……


「ハイネさん」


 呼びかけるとハイネは胸の中で首を振った。


「嫌です」


「ハイネさん?」


「その呼び方はもう嫌です。ハイネって呼ばないとその先は、聞きませんよ」


「ハイネ」


「はい、なんでしょうジーナ」


 返事をとったジーナはハイネの顔をあげさせ告げた。


「私は龍の護衛をやめようと思う」


 いつかはこうなる予感があっただけであり、誰に言っても誰からも反対されるこの言葉をジーナはハイネにはじめて語った。


 ハイネは予想通りに歓喜に満ちた表情を示した。どうして喜ぶのかをその理由を知らなかったというのに。


「仕方がありませんね。私は賛成します。たとえ他の誰かが反対しても」


「他の誰かなんて関係ない。ハイネが賛成してくれるだけでもう十分だ」


 ハイネの表情に驚きも加わり、絡み合ったままの二人の手が震えだした。その震えがどちらのものであるのかも分からなくなっていた。


 そんなのはどちらでもいいという心境のままジーナは目をよく見えるようハイネの乱れた前髪を脇に指でどけると、自分の指が震えていることに気が付き、離そうとするとハイネがその手を掴んだ。


「止めないで」


 その手には力が入り声が迫ってくる。


「止らずに、言って。もっと求めて」


 呪文の如くにハイネは唱え息が心にかかる。


「私はここにいます。来て」


 来てとは? どこに行くというのか? 私達は……私達? そういうことかと導かれるようにジーナはハイネの手を強く握り、どうしてそんな言葉が湧いてきたのか分からないままに、願った。


「私は前線に行く。ハイネも来てほしい」


 伝えた途端に全身の熱が上がっているというのにジーナは見えない鎖が解けていく感覚に全身が襲われた。ハイネは笑った。いかにも困惑気味になるように作るも、だが眼は笑い涙も流しながら少し顔を近づけ、答える。


「龍の護衛をやめるのと私の付添えを依頼とかずいぶんとわがまま放題ですね。そんなこと、許されるとでも思っています?」


 咎めの言葉だというのにそれは柔らかく、真綿のように身体を、首を包み込んできた。


「ハイネが許してくれるのならいいんだ」


 表情が堪え切れず崩れる兆しのように涙がまた一筋流し、それを拭うようにすハイネは顔をジーナの胸に飛び込ませ埋めてきた。


「なにを、言っているのですかね。私はまだ許すとか言っていないのに。まぁいいです、ひとまず申請します。前線の状況報告とあなたの監視を兼ねてということで」


「監視って、まるで私が危険人物みたいな言い方だな」


「だって、そうじゃないですか」


 本当にそうだ、というジーナの思いとハイネの思いはここでも重ならずに言葉が宙に浮いた。


「私はその認識の元で厳重監視でもって、あなたを地の果てでも空の彼方でもその傍にいますから、諦めるように」


 ああそうしてくれ、とジーナは思いハイネの髪に顔を沈める。その髪の香りのなかで思うはこのまま果ての果てへと行くこと。


 龍から離れ、龍へと向かう、これがたとえ矛盾しているとしても、行かなければならない。


 私は龍を討つものであるのだから。

これで第一部「なぜ私であるのか」が終了します。

第二部は過去編を含めた展開となります。

ここまでありがとうございました。

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