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ぼたもちを、食べたい!!!

作者: 卍維管束卍

彼岸ひがんとは、日本の雑節の一つで、春分・秋分を中日(ちゅうにち)とし、前後各3日を合わせた各7日間(1年で計14日間)である。


日本で彼岸に供え物として作られる「ぼたもち」と「おはぎ」は同じもので、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られるのが今は一般的である。各地で手作りされていた時は様々なぼた餅やおはぎがあった。これらの名は、彼岸の頃に咲く牡丹(春)と萩(秋)に由来すると言われる。



「彼岸」『ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典』2021年9月19(日)20:09(UTC)

URL https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%BC%E5%B2%B8

ある年の春、小学3年生への進学を控えた歩華(あゆか)は、長期休暇を利用し家族と共に祖母の家に泊まり込んでいた。


「ぼたもち食べたい~~。」


「ダメです。昨日あれだけ食べたでしょ?」


「え~~。こんなにあるんだし、ちょっとぐらい良いじゃ~ん。」


「これは仏様に供える分なんだから、食べたらバチが当たるよ?」


「ちぇっ。」


歩華は母に、そう諭された。


当然だ。昨日の歩華の暴飲暴食っぷりは、その歳では考えられない程とてつもないものだった。


まず、ぼた餅だ。自分の分だけでは飽きたらず、兄や父に『ちょうだい』とねだり、それでも足りないのか、祖母に追加の分を作ってもらっていた。


次にジュースだ。一日一杯まで。家ではそう母に言われているが、ここは祖母の家。甘い祖母に付け込んでガブガブ飲みまくり、最終的には2Lのペットボトルを殆ど一人で空にしてしまった


小さな体の何処にそんな量が入るのか不思議になるほどだった。





その日の昼下がり


「うー…。ぼたもちぃぃ。」


歩華は、畳の上で呻いていた。


どうしたものか。と頭を悩ませる。


祖母に作って貰おうか。いや、それは出来ない。祖母は今日、母に付き添ってもらい病院へ定期検診に行っていた。ついでに買い物もしていくだろうから、しばらくは帰ってこないはずだ。


では自分で買って来ようか。確かに不可能では無い。しかし、歩華の少ない小遣いは、貰ったその日にお菓子やジュースに変換される為殆ど残っておらず、買えてもせいぜい二個か三個。それでは足りない。歩華の頭の中では自然と選択肢から外れていた。


まさに八方塞がり。このまま我慢するしかないのだろうか。





約1時間が経った頃、歩華はぼた餅の事なんか忘れ、兄とゲームをしていた。どうしようもないと思った歩華は、早々にぼた餅の事は割り切って、四角い世界で穴を掘ったり家を建築したりするサバイバルゲームを始めていた。とは言っても、歩華は建築や採掘なんてせずに兄の世界にお邪魔して立派な町を探検しているだけなのだが。


「お兄ちゃん、このケーキ、食べていい?」


歩華はゲームの中でも食いしん坊であった。


「このケーキは飾り用だから、新しいケーキ作ろっか。」


「ケーキを、作る…。」


「そう。小麦と砂糖と卵と牛乳でクラフトするんだ。」


「クラフト…。」


クラフト。それはこのゲームを始めて僅か数十分の歩華にとって、新しい概念だった。


「作る…。クラフト…。」


「どうしたの?歩華。」


その時、歩華に電流走る。


「それだ!!」


「どれ?」


「ぼたもちを作ればいいんだ!!そしたら、ぼたもちいっぱい食べれる!!」


その新しい概念は、まさに青天の霹靂とも言えるものだった。


「自分で作るの?」


「うん!」


「手伝おうか?」


「だいじょうぶ!自分で作るの!」


ここで幼児特有の謎のこだわりが発生してしまう。こうなってしまったらもう、梃子でも動かない。


「じゃあ、僕はここでゲームをしてるけど、なにかあったら言ってね。」


「だいじょうぶだって。」


幾ら大丈夫、と言おうと歩華はまだ8歳。それで一人で料理をしようと言うのだから、兄としてなかなか安心出来ない。だが、失敗してしまったとしても良い経験になる。ここは一つ、妹を信用してみよう。そう思う兄なのであった。


「頑張ってね。」


「うん!」


さて、まず何から手を付けるべきか。幸い歩華は現代っ子。その中でも小学2年生にして両親から制限付きではあるがスマートフォンを貸し与えられていてるエリート現代っ子なのだ。ぼた餅の作り方ぐらいならすぐに調べられる。


歩華はすぐに調べ始めた。そもそも昨日のぼた餅も祖母の手作りなのだ。材料はあるはずである。


本来のぼた餅は、炊いたもち米とうるち米をつく必要があるのだが、ここには臼や杵は無いし、すりこぎなどを使おうにもそもそも歩華の力では難しい。そのため彼女は簡易的なもち米だけのレシピで作る事にした。


ちなみにぼた餅は元々もち米とあんこのみで作られていたが、時代が進むにつれてきな粉、ゴマ、青海苔、ずんだを使用するものなど様々な形のぼた餅が産み出されてきた。大福の様に中にあんこを詰めた物もその一種である。閑話休題。





【ぼた餅(10個程度)の簡易レシピ】

・材料

 もち米…1.5合

 あんこ(市販の物でよい)…300g

 きな粉…適量

 塩…少々

 砂糖…少々

・手順

①もち米を普通の米と同じ要領で炊く。(余裕があれば1、2時間水で浸しておく。本来であれば炊き上がったもち米をつく)

②もち米を十等分し俵形に整えておく。

③あんこに塩を入れ混ぜる

④きな粉をバットなどに広げ、塩、砂糖を適量入れて混ぜる。(元々入っている物は入れなくてよい)

⑤あんこを手に広げもち米を包む。これであんこのぼた餅は完成

⑥もち米を手に広げあんこを包みきな粉を纏わせきな粉のぼた餅も完成





調べたところこんなレシピが出てきた。これなら歩華でも作れるだろう。


しかし、ここで問題発生。米は何とか炊ける。母が炊く所を何度か見たことがあり、一緒に炊いた事もある。だが、あんこの300g。これがわからない。それもそのはず、グラムを習うのは3年生。歩華には少し早い概念であった。


手詰まりであった。どうするか。兄に頼めば快く協力してくれるだろう。しかし、自分で作ると言ってしまった手前、兄には頼めない。母と祖母は居ない。そして父も仕事で居ない。


再び八方塞がりだ。


ここまで来たのだから諦めることは出来ない。


そうだ、スマホで調べればいいんだ。そう思い付いた歩華だったが、それも失敗に終わる。gをグラムと読む事さえ知らない訳だから、調べるなら、『g とは』となるのだか、そうすると出てくるのは重力加速度の単位であるgや万有引力定数のGばかりで、歩華はさっぱりわからなかったのである。


「うぅ……。」


歩華は泣きそうになった。これまで蝶よ花よと育てられ、開いた口にぼた餅が放り込まれる様な人生を送ってきた歩華にとって、それは初めての挫折であったのだ。


もうどうしようもない。我慢するしかないのだ。


「………うぅ…………ヒクッ…………。」


突き付けられた現実に、歩華はとうとう泣き出してしまった。


しばらくすすり泣いている内に、声を聞きつけた兄が歩華のそばに座っていた。


「歩華、どうしたの?大丈夫?」


「…っ!……お…にぃちゃん?」


「よしよしよし。泣き止むまで居てあげるから、一回落ち着こっか。」


歩華はおもいっきり泣きじゃくった。泣き止んだ頃には、既に十数分程経っていた。


「もう大丈夫?」


「うん…。」


「何があったか、聞いてもいい?」


「えっとね─────」


歩華は事情を説明した。


「なるほど。」


「それでね、えっと…。」


一度突っぱねてしまった手前、歩華はなかなか素直に言えなかった。


「僕ができる事なら協力するよ?なんでも言ってね。」


歩華の表情がパッと明るくなった。できた兄である。


兄を味方に付けたことで、ここから先は特に問題無く順調に進んだ。



─────2時間後─────



「完成だ~~~~~!!!」


朝から数えて苦節6時間ちょっと。とうとうぼた餅にありつけたのである。


「やったね、歩華。」


「ぼったもちぼったもち~~。」


さて、いよいよ実食である。


「ちゃんと手洗うんだよ。」


「はーい。」


近頃なにかと話題の某ウイルス対策にも、手洗いは効果覿面である。手は何度洗っても損しない。


「手を合わせて下さい。」


「あわせました。」


兄が音頭をとる。


「せーの」


「「いただきます!!!」」


少し遅めのおやつの時間が、今始まった。


「うま~~い!」


手作りのぼた餅は、昨日のぼた餅よりもうんと美味しく感じた。幾多の困難を乗り越えて作ったぼた餅の味は、何物にも代え難い物だった。


「美味しいね。」


「うん!甘くておいしい~。」


テレビのリポーターならば、仄かな塩味が甘味を引き立てている、だとか、口いっぱいに広がる甘みが素晴らしい、だとか口八丁に並べているかもしれない。だが、歩華はまだ2年生。その拙い語彙力で甘くて、と付けれただけ立派だとしよう。


次々と食べ進めている内に、あっと言う間にペロリと食べ切ってしまった。


「あー、おいしかった。」


「これから後片付けもしないとね。」


「うげぇ。」


日は沈みかけ、空は春茜に染まっていた。


暖かい春風の吹くある日の出来事。母が見ていない所で料理をしたのは初めてだし、自分でレシピを調べたのも、挫折しかけたのも初めて。初めてだらけの大冒険は、歩華にとって忘れがたい経験となったのだった。





もっとも、この後帰ってきた母に兄共々こっ酷く叱られる事も含めてだが。










何とか彼岸の内に間に合いました。



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