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モテる人。  作者: 静香
第一章 王道モテ!狙った獲物は撃ち落とす
1/2

〜本命との恋愛は難しい〜

「今日も可愛いね、露杏ちゃん」

「矢郷さんこそ、毎日素敵です」

お互い心からそう思い、尊敬し合えるからこそ

本当の自分を、隠してしまっているのだ。

大人同士の、不器用な恋模様を描きつつ

タメになる、モテ上級者のテク満載!

楽しんでいただければ万々歳!







露杏(ろあん)ちゃん、お疲れ。」

矢郷(やごう)さん!お疲れ様です」


大衆居酒屋の個室、私は先に来て待っていた


「飲み始めててよかったのに。随分待ったでしょ」

「いえ!今来ました。今日は美術も終わり遅くて」


そっか、とおしぼりで手を軽く拭く

琥珀色の瞳、綺麗に通った鼻筋、綺麗な肌、薄い唇

35歳の色気はあるのに、年齢を感じさせないハリと艶

相変わらず、死ぬほどかっこいい。超イケメン。

最近は顎髭まで生えて高そうな革ジャンも着てる

ワイルドでニヒルな雰囲気なのに柔らかい軽い物腰。

完璧だ。私が知ってる人の中で1番かっこいい。


「俺生、露杏ちゃんは?」


高めの声で話しかけられて、背中をしゃんと伸ばす

仕事において恋愛において人生において、大先輩だ。

私が1番尊敬しているとっても大切な人。


「私も生で!」


店員を呼ぶボタンを押すと、少しして店員さんがくる

若い男の子で、体の大きなラガーマン風な見た目。


「お待たせしました、ご注文をどうぞ」

「生2つとー…おすすめ3品、おまかせで!」


私と矢郷さんの飲み会ルール、おすすめを頼む

店員の男の子は少し考えた後、私たちに言った。


「お店のおすすめを2品と僕のおすすめを是非、

紹介したいんですけどいいですか?」

「え!!是非お願いします!!」

「かしこまりました!!失礼いたします!!」


ペコリと頭を下げてから、個室のドアを閉めた。

爽やかな話し方と浅黒い肌がいい感じの男の子


「かっこよかったなー」

「あー、露杏ちゃん好きそーな感じね。」


生ビールとお通しはすぐに持って来られた


「お通しと生も早い、あたりですか?」

「まだわからんよ。味が大事だから!」


キンキンのビール、お通しの大豆とちくわの昆布煮


「美味しいです」

「…そうだね、あたり「矢郷さんと食べるの」


私の言葉に、矢郷さんはニッコリと笑う


「俺にそんなありふれた手段が通用すると思うなよ。

まぁでもたしかに久しぶり。ツアー以来?」

「久しぶりどころかですよ!!3ヶ月長かったなぁ」

「やー、CD出してから色々忙しくてさ…」


そうこうしてると、一品目がきた


「お待たせ致しました、刺身の盛り合わせです」


きた、刺し盛り。内容は…

タイ・マグロの赤身・サーモン・イカ

まあ無難なラインナップだ。

お刺身を食べながら、話を続ける


「そういえば聞いてくださいよ!!前に友達から

紹介されたって言ってた男の子彼女いたんですよ!!

危うくキープにされる所でしたよもー…」

「はぁー、前言ってた保険会社勤務の男?

付き合う前にわかってよかったじゃん。」

「はーぁ、中々上手くいかないなー自分の恋愛は」

「…ふーん、俺の出番そろそろじゃないん?」


私は矢郷さんの冗談に大口開けて笑った。

私があまりにも爆笑するから矢郷さんも笑った

その時、2品目を男の子が出してきた


「お待たせ致しました、地鶏の炭火焼きです」

「あ、すみません。地酒を何かお願いします」

「焼酎と日本酒はどちらで?」

「静香ちゃんどっちがええ?」

「日本酒で!」

「かしこまりました」


また襖を閉めて彼が立ち去った


「ではでは、そろそろ」

「そうですね、そろそろ」






case1 矢郷雲雀(ひばり)35歳 大人気ロックバンドギタリスト







俺たちも中堅くらいのバンドマンにはなってきた

やはり、女の子からのアプローチレベルも違う。


「雲雀さん、今日は帰りたくないの…」


キスしようとした唇に人差し指を添えてそっと離す


「キスは2回目のデートでね」

「…♡」


お前に2回目があると思われても困るけどな。

心の中の声を噛み潰して微笑みだけを残した

もう会わないだろうな。顔はまあまあだったけど

飯の食い方と話し声のデカさが好ましくない。

あー、やっぱりいい女って少ないよなぁ〜

最近の女の子ってみんな目でっかくして涙袋作って

カジュアルな格好してる子ばっかりだしなぁ。

セレブっぽい遊び慣れた女の子引っ掛けたいな〜

中々会えないよなぁ〜…同業者はダルいし。

そう思いながら信号待ちしていたら、俺は出会った


「あの!!」


ドアの窓を開けて、俺は横断歩道を渡る女性に

大声で叫んだ。女性は思わず俺の方を見た。


「ナンパしてもいいですか!?」


犬を連れたその女性は柔らかく微笑みを返しただけで

俺を振り向くこともなく行ってしまった。

「いい女」だ。胸の大きさ、腰のライン、歩き方、

着てるもの、所作、全部完璧だった。

こんな繁華街で変装もしないで歩いていた

絶対に同業者じゃない。

俺は車を女性の向かった方へ進め、血眼で探した。

朝まで探したが、彼女に会える事は無かった。

ガッカリ肩を落とし帰ったが、俺はその女性の事を

ずっと忘れられずにいた。いい女だった。

ぼんやりした頭で仕事にも身が入らない日々が続き

その交差点を無駄に何度も通ったりもした。

でもあの女性に会える事は無かった





「で、どうなったんですか?」


3品目、従業員のおすすめ島らっきょうを2人でつつく

もう2品くらい食べたいと、矢郷さんがメニューを開く


「会えたよ」

「やっぱり!!!持ってますね!!!」

「まぁな。」


矢郷さんはため息を吐いて顔を上げた


「実際会うとやっぱいい女でさぁ…色っぽい仕草、

柔らかい髪質、長いまつ毛、メリハリのある腰…」

「へぇ〜、矢郷さんにそこまで言わせるなんて、

一体どんな綺麗な人なんでしょうねぇ〜〜」

「まぁでも、そりゃあいい女だなぁって感じ。

男のツボが1番わかるのは男ってな。」


矢郷さんのその言葉に、私は一瞬思考が止まる

どう意味?…いや、まさか…!!


「それって…!!」

「そう、そのまさかなのよ」






女性を見かけてから1ヶ月後、俺は女性に会えた。

正確には「女性」ではなかった

彼女は二丁目で働く、女装男子だった。

しかしやはり顔は美しく、色んな大企業の社長や

重役からご贔屓にされている美人女装家だった。


「また会えるなんて思っても無かったわ。

ただの軽いナンパだと思って流しちゃったの。

あの時ちゃんと見せるもん見せてたら、こんなに

傷つかなくて済んだのにね。本当ごめんなさい」


困った様な微笑みに、俺は落胆した。

彼女…いや、彼は俺に灰皿を出しながらライターで

火を付けた。俺はタバコを吸い込んで、深く吐いた。


「あなたが男性もイケる人ならよかったんだけどね」

「え」

「あなた、女性にしか興味無いでしょう?

たぶん、元男とかでもダメ。性が女で無いとダメ」


美しい所作でお酒を作りながら微笑む

やっぱりこういう人にはわかっちゃうのか。

プロだな…俺はため息を吐いて、また俯く。


「お姉さんは何も悪くないです。俺が悪いんす。

俺…昔、ゲイだったんですよ。男としか付き合った事

無くて…でも高校の時酷い目に遭って…男性不信に」

「やっぱり。私が男だって知って、ショックは

受けてたけど、あまり驚いては無かったものね」


彼女は、俺に名刺を渡してくれた


「私、双子の妹がいるの。福岡の中洲でキャバ嬢

やってるわ。よかったら、会いに行ってみたら?」


俺は翌日、福岡まで飛んだ。




「で!?会えましたか…!?」

「会えたけど…顔はたしかに一緒なんだけどさ、

あの妖しさとか、毒気とか、ニヒルさとか…

纏ってる空気ごと全部違ったんだ。やっぱり、

あの人だから良かったんだよ。海賊版見てる気分」

「うわぁ、それはツラいですね…」


矢郷さんが時計を見る。


「ボチボチやの、出るか」

「ですね、そろそろお開きで!」


会計をする為にレジに行くと、さっきのラガーマンが

伝票を預かってくれた。


「お2人、ご夫婦ですか?」

「いえ、ただの飲み仲間です」

「ああ、そうなんですね…お綺麗なお連れ様ですね」


その言葉に、ニッコリ私は笑顔を返した。

これは、ナンパだな〜、また個人的に来ようかな


「…露杏ちゃん、出すから出てていいよ」

「え、いいんですか?」

「ん。外で待ってて」

「は〜い」


私と矢郷さんの飲み会ルール、奢るときは

素直に奢ってもらう。基本、矢郷さんが奢る。

今日もいいモテ話聞けたな〜…私の話もしたかった

けど、それはまた次回必ずしよう。

時計を見ると、時刻は23時30分。うん、いい時間。


「お待たせ〜」


矢郷さんが居酒屋のドアを開けて出てくる

店の前に停まったタクシーに乗り込んだ。


「はい」

「え」

「いいから、また連絡するね」


矢郷さんは、私にタクシー代を握らせた。

私の住む、江東区に向かいタクシーは走り出した

私と矢郷さんのルール、24時までに解散する。

そして絶対、お互いの家には行かない

タクシーから見える夜景は、まるでハリボテだ

明日はまた朝9時には現場に行かないといけない

仕事場に行けば、私はただの美術スタッフ

矢郷さんは、国民的大人気バンドのギタリスト

私の容姿がいくら良かろうと、家に気軽に

上がることすら許されない仲なのだ。

もっといろんな話がしたい。いつも誰か知らない

美しい人で埋まるあの隣に、いつか、いつか。


「流石に無理かぁ」


私は、物心ついた時からずっとモテてきた。

どうすれば自分が1番可愛く見えるか

どうすればクラスで1番可愛い子より人気になれるか

どうすれば学年1のモテ男子と付き合えるか

私は研究と努力を怠らなかった。だからか、

昔から死ぬほどモテた(半分は奇跡的に顔が良いせい)

でもそれは、同じ学年や同じ大学、同じ会社の人。

矢郷さんは、特別だ。住む世界が違う。

あの人に、モテたい。愛されて好かれたい。


「今日の私は、何点だったんだろう…」


またすぐ、連絡がくるだろう。それまで、また

食べ物も洋服も髪も肌もメイクも、誰より努力する。

矢郷さんの周りで1番幸せそうで綺麗で、モテる人

そうでいられるためならば、全てをかけたっていい。


「矢郷さん…」


今日飲んだ日本酒を思い出しながら、

私は眠りに落ちていった。

そりゃそうだ。本当は私、下戸なんですよ矢郷さん…






お会計の間、目の前のガタイのいい男の胸ぐらを掴む


「な、何を!?」

「あの子がもし、もう一度来て…声でもかけてみろ」


ラガーマンの男が本気で抵抗しても振り解けない

当たり前だ。鍛え方が違うからな


「殺すで?」

「…っ!!」


パッと話して、地面に相手を叩きつけた


「俺の女に、ヘラヘラしてんじゃねーよガキが」

「!?」


パッと顔を上げ店長らしき男を睨み付ける


「ガキの教育くらいちゃんとしろや」

「は、はい…」


お札を適当に置いて、俺は店を出た。

外は寒くて、露杏ちゃんは俯いていた

長いまつ毛が、結露で濡れている


「お待たせ」


パッとこっちを向いた顔は嬉しそうだった

可愛い。世界で一番可愛い。この子は完璧だ。

髪、顔、肌、体、話し方、服装、性格、仕事。

きちんとしてて、全部ちゃんとしてるのにどこか

隙があって、守ってあげたくなる。

俺が今1番大切にしてる子。こんだけモテてモテて

女遊びしてる俺でも、簡単に手が出せないほど。

タクシーに乗せ、見送った後壁に頭をもたれた

相変わらず、脈なしだったなぁ。爆笑されたし

あのエピソードにも、嫉妬すらされなかったし。

俺は、この数ヶ月で露杏ちゃんへの恋心を再確認し

中々会えずにいた。迷っていたのだ。だって俺と

露杏ちゃんだいぶ歳離れてるし。脈もないし

でも、数ヶ月距離を置いたから今確信に変わった。

俺はあの子が好きだ。あの子にモテたい。


「…ま、気長に頑張りますかぁ…」


俺は月を背に、また歩き出してた。

いい夜だ。俺はスマートフォンのロック画面を見た

妻と子供の楽しそうな姿が映し出される。

もうすぐ、命日だな。

そんな事を思いながら、俺は夜道を早足に帰った。




今回は「モテる人はどうでもいい人との恋愛に

慣れすぎて、本命に不器用な所がある」が

テーマです。実際に、モテる人ほど大して

好きでもない男と恋愛してたりするものです。

何故か?モテる人が好きになるのは、

「自分にキャーキャー言ってくる子ではない」

つまり「ふん、俺様に振り向かないなんて…

おもしれー女」パターンが多いからです。

だから自分にキャーキャー言わない本命との

恋愛の仕方がわからないらしいのです!

さ、次回のモテは…?



第二モテ 「女子校の王子様」


是非ご覧ください!!

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