第六話 「大王都観光 その一」
お互いに手札事故を起こした結果、手札誘発の投げ合いになる現代遊戯王あるある。
うらら増G二ビルロンギ墓穴……これでどうやって戦えば良い!?
「うぅ、酷い目に遭った」
「まあまあそう言わずに、序盤からここまで装備が充実する事なんてほとんど無いよ?」
「確かにそうでしょうけど、途中から完全に遊びだしてたじゃないですか! 執事服とか、着る必要あったんですか!? 髪までワックスで固められてオールバックにされるし……」
「いやぁ、興が乗ったというか、ね? 自分以外を着飾らせるって男女共通で楽しいものなんだよ。リアルの自分のファッションに興味は無くても、ゲームの自キャラのファッションをこだわる人って一定数居るしね」
「それはまぁ、判りますけど……こういうのを揃える楽しみだって、あるじゃないですか?」
「そんなのはレベルが上がってからでも出来るよ。レベルが低い、お金も無い、装備も無い、そんな状態が続いても楽しくないからこそ、スタートダッシュキャンペーンなんてものがあるんだしね」
「身も蓋も無いなぁ」
カラカラと楽しげに笑うリューセンと疲れた様子のファランクス。
買い物を終えた二人は、観光の為に大王都の通りの一角を歩いていた。
リューセンの装いは変わらないが、買い物で装備を整えたファランクスの姿は大きく変わっている。
当初は戦士系統の初期装備である安っぽい皮鎧を身に着けていたファランクスは今では白銀の金属鎧を身に纏い、安物の剣と木の盾はしっかりとした作りのロングソードと鉄の中盾へと換装されている。
どう見てもゲーム開始初日のレベル一プレイヤーの装備では無く、実際性能的にももっと上のレベル帯でも十分通用するほどの逸品であった。
「いやぁ、セバスさんはホントに良い物を用意してくれたよ。このゲーム、ジョブやレベルによる装備制限は無いけど大抵の装備に要求ステータスがあるからレベル一でも装備出来る優秀な装備ってほぼほぼ無いんだよね」
「要求ステータスって言うと?」
「判り易い所で言うと筋力とかだね。ファランクス君が今装備している武器や防具も本来なら一定以上の筋力が無いと装備出来ない、と言うか装備してもまともに動けないんだよ。重い装備を扱うならそれなりの筋力が必要って事だね」
「へぇ、じゃあこの装備は何で身に着けてても大丈夫なんですか?」
「ああ、それは『重量軽減』の『エンチャント』が掛かっているからだよ」
「『エンチャント』、ですか?」
エタニティ・メモランダムにはRPGに限らずファンタジー世界を舞台にしたゲームでは鉄板の要素である『エンチャント』が存在しており、エンチャントは主に二種類に区分され、それぞれが『付与エンチャント』と『付加エンチャント』と呼ばれている。
『付与エンチャント』とは、簡単に説明すると自身や味方を強化する『バフ』と敵を弱体化させる『デバフ』の事である。
これらはそれぞれ『白魔導士』系統の職業がバフを、『黒魔導士』系統の職業がデバフを得意としており、バランス良くパーティーを組もうとすると必ずどちらか、あるいは両方が求められる為需要が高くモンスター退治やダンジョン探索を行う一般プレイヤーにとって馴染み深い存在だ。
一方で『付加エンチャント』とは、魔法や錬金術によって物品に特殊な特性やスキルなどを与える事を指す。
付加エンチャントを施された物品は一般的に『魔法の道具』と呼ばれ、その能力や特性によっては『呪われた道具』や『魔法の秘宝』と呼ばれ区別される事もある。
また、マジックアイテムは武器や防具だけでなく、アンティカルーナ世界においては家電のように普及し人々の生活を支えている為、NPCの一般家庭でも普通に使用されていたりもする。
それらの事をリューセンは簡単に説明した。
「へぇ、マジックアイテムなんて言うからすごい物なのかと思ったら、意外とありふれたものなんですね」
「まぁリアルでの文明の利器がマジックアイテムに置き換わっているような世界観だからね。大きな町には家電量販店ならぬマジックアイテム量販店とかもあるし、生産職プレイヤーの中にはリアルの家電をマジックアイテムで再現して、それをNPC相手に売って一財産築いたって人も居るよ」
「なるほど……ちょっと見て見たいかも」
「ここから近い場所にも一軒あるから案内するよ。見てて楽しいし、リアルでも欲しくなるような物も多いんだよねぇ」
「どんなのがあるんですか?」
「色々あるよ、『空間拡張』のエンチャントが施されてる冷蔵庫とか『重量軽減』の付いた洗濯機とか……そもそもみんな動力が魔力だから電源コード不要って言うのが良いんだよね。単一乾電池ぐらいの大きさの魔石一個で三か月ぐらい持つし」
「あー、コード無しは確かに良いですぇ」
自宅の家電類を思い浮かべ、確かにコード無しなら便利そうだなと頷くファランクス。
(年末の大掃除の時とか、冷蔵庫の裏のコードが地味に邪魔だったなぁ)
と、そんな事を思い出していると、突如大きな爆発音が響くと共に軽い揺れが周囲を襲った。
「うわあっ!? い、いきなりなんだ!?」
「お、やってるねぇ」
周囲を襲った揺れによってよろめいたファランクスが驚いていると、リューセンは暢気な声でそう言いつつ爆発音の発生源であろう方向に視線を向けていた。
視線の先では何か大きな建物が半壊し、黒い煙を上げていた。
「え? 何ですかあれ? 事故? ガス漏れか何か??」
「いいや、テロだよ」
「テロォ!?」
何でも無い様な口調のリューセンの返答にぎょっと目を剥くファランクス。
そんなファランクスの驚きなど気にもせず、リューセンは軽く散歩に出も誘う様なノリで爆破テロの現場へとファランクスを誘った。
「心配しなくても人死になんて出ないから大丈夫さ。『ダンジョー』ちゃんはそういう所しっかりしてるからね」
「ダンジョーちゃんって誰!? リューセンさんテロの犯人と知り合いなんですか!?」
「知り合いって言うかクランメンバーだね、それよりファランクス君も一緒に行こう。私の手持ちに非殺傷性の魔法爆弾がいくつかあるから、君もついでに投げて行くと良い」
「ついででテロに加担させようとしないで下さい!! 何でそんなやる気なんですか!?」
「爆破先は『聖天教』って言うこの国の国教の教会なんだけどね、とんでもない邪教だから遠慮なく爆破してやりなさい」
「いやいやいや! 邪教かどうかは知りませんけど、国教の教会を爆破とか普通にヤバいじゃないですか!? 止めましょうよリューセンさん!!」
「歴史を破壊し、冒涜し、改竄した詐欺師集団、聖天教の生臭共め。貴様らの築き上げた、嘘で塗り固められた虚栄の権勢、粉々に滅ぼし尽くすまで破壊してやるぜ!」
「ちょ、力つよ! 止まって! お願いだから止まってリューセンさぁーんっ!?」
ファランクスの訴えも空しく、ゲームシステムであるアイテムボックスから砲丸の様な見た目の爆弾を取り出したリューセンは、ファランクスの腕を掴んで引き摺りながら爆破された教会へとズンズン進んで行った。
白布の下で、その顔に怒りと狂気の混じった凄惨な笑みを浮かべながら。
『聖天教』
アンティカルーナ世界では単に『教会』と呼ばれることが多く、中央大陸の統一国家『ズァナルカンド王国』の国教でもあるゲーム内五大宗教の一つ。
自称考古学者であるリューセンが蛇蝎の如く嫌っている辺り、教会の過去の所業はお察し。
ちなみに聖天教の信仰対象である『天神』と『天使』は旧世界と呼ばれる前作時代には存在しておらず、教会勢力の台頭以降、中央大陸では旧世界に関する伝承が悉く抹消され、その被害は他大陸にも及んだ。