第二十二話 「グレイスの過去 その二」
過去編二話目、難産でした。
同時に次回で絶対に過去編を終わらせるという決意もしました。(でないとぐだりそうなので)
それはそうと、『エルデンリング』のプレイ動画が公開されて今からワクワクが止まらない騎士シャムネコです。
やっぱりフロムゲーこそ魂の帰る場所なんやなって。(フロム脳)
いや、やっぱあんな世界観を変える場所にしたくない。(フロムの悪意の被害者感)
「――なぁ、師匠?」
「どうしました、グレイス?」
「昨日習った石炭の触媒化だけどよ、おかしくねぇか?」
「何がです?」
「だってよ、木炭と違って石炭は形成過程に一切火が絡まねぇじゃねぇか、なのに触媒化で火の魔力が引き出せるっておかしくねぇか?」
「ああ、それは良い質問ですねグレイス。それはですね――」
「――それは石炭を触媒化する際に僕たち魔法使いが、石炭を『燃料』と認識しているから。ですよね、先生?」
「むっ、正解です。ですがサウロン、先生が口にしようとした答えを横取りしたのは減点ですよ」
「ええ!?」
「そーだぜサウロン。折角師匠がドヤ顔で答えようとしてたのに、お前ときたら……」
「グレイス!? わ、私は別にドヤ顔なんてしてませんよ!」
「いーやしてた。なぁ、サウロン?」
「うん、してたと思う」
「し、してませんってば! ……まったく、サウロンは一体いつからそんな意地悪な子になってしまったのですか?」
「え、僕だけ?」
「そーだぜサウロン。折角この外見詐欺ジジイがウッキウキで答えようとしてたのに、お前ときたら……」
「外見詐欺ジジイとか言ってるグレイスにだけは言われたくないんだけど!?」
「……二人共、ちょっとそこに座りなさい!」
「「もう(椅子に)座ってるぜ(よ)?」」
「こんな時だけ息ぴったり!?」
大賢者ジェリー・スピークスに正式に弟子入りしてから、三年が経ちグレイスは十四歳に、サウロンは十三歳になっていた。
ギルド所属の正式な冒険者として活動出来る様になる年齢は十二歳からの為、二人共既に立場だけなら一端の冒険者である。
しかし、その生活サイクルはギルドに通い始めた四年前からあまり変わっていない。
午前中はクエストを受けて簡単なモンスター退治を通じて実地で戦闘訓練を行い、午後は座学を中心にしてジェリーから古式魔法を教わっている。
余り生活サイクルが変わっていないのは、それが力をつける上で最も効率が良いと二人が判断したからだ。
今の世界で、いや、旧世界を通しても史上最高の魔法使いであるジェリーから直接魔法を習い、モンスター退治などの実践を通して学んだことを習熟する。
スラム育ちのグレイスとサウロンにとって、これ以上ないほどの恵まれた環境であった。
「……はぁ、全くお前たちときたら、年を経るごとに可愛げが無くなりますね。昔のサウロンはあんなに大人しくて可愛かったのに。グレイスは……」
「あ? 何だ師匠、日ごと可愛さを増すオレ様の美少女っぷりに年甲斐も無く盛ってんのか?」
「……野猿」
「んだとテメェブッ飛ばすぞ若作り化け物爺!!」
「ぷっ、野猿……! ぐ、グレイス落ち着いてっ」
「テメェも笑ってんじゃねぇぞサウロン!!」
「わあ!? ちょ、悪かったってグレイス!!」
「うるせぇ! サウロンのくせに生意気なんだよ!!」
「あ、そろそろおやつの時間ですね。お茶とお菓子を用意して来ますから、その間に机の上を片付けておいてくださいね」
「おう! サウロンをとっちめたらすぐに片付けるぜ!」
「ちょ、先生助けて!!」
「あっはっはっは! 今日のおやつはドーナツですよ~」
それは、とても幸せな時間であった。
良く働き、良く学び、良く遊び、良く食べる。
口は悪いが面倒見の良い女の子と、少し気が弱いけれど勉強熱心な男の子と、伝説の存在でありながら割とポンコツな先生。
教える側も教わる側も、お互いの良い所も悪い所も知った上で信頼し合い、三人は互いを単なる教え子と生徒では無く家族に近い存在であると言葉にせずとも思っていた。
本当に、かけがえのない大切な時間を三人は過ごしていたのだ。
―――だが、暗雲は直ぐ近くまで迫っていた。
「……さて、おやつも食べ終わったところで二人には伝えなければならない事があります」
「あん? どうしたんだよ師匠、急に真面目腐った顔して」
「何か、あったんですか?」
「ええ、ありました。二人には申し訳ありませんが、しばらく講義が出来なくなるかもしれません……時に二人は、『ローランド・ソーヴァル』という男の話を聞いた事はありますか?」
「ローランド……確か、最近噂のイカレ野郎だったか?」
「噂くらいなら聞いてます。『魔法使い狩りのローランド』、ですよね?」
「ええ、そのローランドです」
『ローランド・ソーヴァル』
後に『覇王』を名乗り、中央大陸のおよそ八割を支配下に治めた稀代の怪人。
この頃はまだその名が広まり始めたばかりであり、魔法使い系のジョブの持ち主を率先して襲うというその所業から『魔法使い狩り』の異名で呼ばれていた。
「……先日の事ですが、君たちの兄弟子に当たる魔法使いの一人がローランドの襲撃を受け討たれました。修行中の君達とは違い、私の下から卒業し冒険者として活躍していた一流の魔法使いが、です」
「「はぁっ!?」」
この話を聞いて、グレイスとサウロンは共に信じられないと反射的に思った。
それほどありえない話なのだ。
古式魔法を修めた一流の魔法使い、それも冒険者として実戦経験も豊富であったであろう先達が、敗北したなど。
古式魔法を学んでいるが故に、二人にとっては想像の埒外の出来事であった。
「そんな、あり得るのかよ師匠!? そのローランドって奴は古式魔法の使い手なのか?」
「いいえ、間違いなくローランドは古式魔法の使い手ではありません。だからこそ異常なのです」
「一体どうやって? 古式魔法の使い手で無いなら、補助機構術式の範疇の力しか使えない筈なのに」
「それを調べるために、私が直接出向かねばならないのです。でなければ被害はどんどん拡大するでしょうから」
自ら出向くというジェリーに対し、グレイスとサウロンが心配気な視線を向ける。
生ける伝説であるジェリーがどれほどの力を持つのか、まだまだ半人前の二人は知らない。
それでも自分たちでは想像もつかないほどの力を持っている事は知っているが、同時に自分たちの師がどこか抜けている事も知っているが為に、二人はジェリーが心配だったのだ。
普段の悪童っぷりがすっかり鳴りを潜め、心配気な視線を向ける愛弟子たちにジェリーは意識してあっけらかんと調子で笑顔を向けた。
「なぁに、心配はいりませんよ。ローランドがどんな力の持ち主かはまだ判りませんが、高々ニ、三十年しか生きていない様な若造に負けてやれるほど私は弱くありませんからね。余裕ですよ余裕」
「師匠……それ、フラグって奴じゃねぇのかよ」
「お黙り! フラグも積み立てればやがて自重で圧し折れます!」
「何も先生が直接行かなくても……ギルドマスターなんだから、人を集めて討伐隊でも結成したら良いじゃないですか」
「それも選択肢の一つですが、どの道相手がどんな力を持っているのか見極めないと必要な人員を揃える事も出来ませんよ」
そう言うと、ジェリーは二人の頭に手を乗せ安心させるように微笑んだ。
「どれだけ時間がかかっても半年以内には決着をつけて帰って来ますよ。それまでの課題は出しておきますから、私が居なくてもきちんと勉強するんですよ?」
―――結局、その言葉が果たされる事は無かった。
この数日後、旅立つ師を見送ったのを最後に、三人が一堂に会する事は無かった。
『ローランド・ソーヴァル』
千年前の覇王。
世界観的にかなりの重要人物で、今後もちょくちょく作中で名前が上がる事となる予定。
グレイスが自ら石化した少し後ぐらいの時期に起きた『ローランド戦役』で当時居た古式魔法の使い手をほぼ全滅まで追い込んだ人中の怪物。
グレイス石化の大体十年後くらいに、北方大陸から中央大陸に攻め込んだ初代魔王とかち合いほぼ相打ち状態で瀕死になっていたところを大賢者を始めとする生き残りの古式魔法使いたちによって討伐された。




