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第二十話 「旧世界の修羅」

目が覚めたらヤンデレ彼女に手錠で拘束されてる展開はよくあるので、手錠を腕力で引き千切れるフィジカルモンスターでヤンデレ彼女に死ぬほど愛されてもローテンションのまま、けどその彼女から離れる事はしない主人公の話とか書きたい今日この頃。


基本的にテンプレ主人公を主人公にしたくないとこがあるんですよね、私。

テンプレートな主人公の話ってもう他の誰かが大量に書いてるだろうからって。

「――さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうか?」



 飲んで騒いでのどんちゃん騒ぎを続ける事一時間、グレイスの食欲が落ち着いて来た辺りでリューセンはそう切り出した。

 なお、グレイスが積み上げた山盛り焼き鳥の皿は現時点で十枚を突破している。

 そのくせ、ゆったりした修道服越しで体のラインが見え辛いとは言え全く体型が変わった様子も無い辺り人外染みた胃袋と言う他無い。

 言われたグレイスはと言えば、腹が膨れて眠気が出て来たのか欠伸をしながら返事をした。



「ふわぁ……、あーそうだな? いい加減腹も膨れたしそうすっか」



 そう言うとグレイスは表情を真剣なものへと変えて立ち上がり、カウンター越しに居るリューセンへと向けて深々と頭を下げた。



「……悪かったな、装備を盗んだ上に魔法でおちょくる様な真似もして。その上ファランクスも誘拐同然で巻き込んじまった。装備自体、大王都から出たらファランクスに渡して返す予定だったが、良い訳にもならんな。焦り過ぎて馬鹿やらかしたよ。迷惑かけて本当にすまなかった」



 思っていた以上に真摯な謝罪にファランクスが面食らう。

 それもそうだろう、ファランクスの知るグレイスは口も態度も悪い傍若無人な外見清楚詐欺のオレ様似非修道女であり、たとえ自分に非があろうとも頭を下げるなんて事は決してないという印象だったのだから。

 故に、ファランクスは驚きの余り口出ししてしまった。



「グレイスお前……眠気で頭回って無いのか? どうしたんだよそんなに真面目に謝るなんて」

「どうしたってファランクスお前ぇ……物盗りと人攫いまでしたのに飯と酒を奢ってくれたんだぜ? 流石のオレ様でも真面目に詫びる他ねぇよ」



 そう語るグレイスの言葉には、何かを思い出すような深い実感と感情が籠っているように感じられる。

 以前にも似たような事があったのかもしれない、直感的にファランクスはそう思った。

 一方で謝罪されたリューセンはと言えば、鷹揚にそれを受け入れた。



「ふむ、私としてはその謝罪を受け入れても良いと考えているが、君にはもう一人謝るべき相手が居るんじゃないかな?」

「ああ、その通りだな。ファランクス、お前にも悪い事をしたな、すまなかった」

「え、あっいや、俺は別に……俺が捕まったのは単に俺が弱かっただけだし、リューセンが許すなら俺も「いかんぞファラン君! そんな妥協の様な許諾は!!」リューセン!?」



 バンッ! と大きな音を立ててカウンターを叩き自嘲気味なファランクスの言葉を遮るリューセン。

 やっぱり許してなかったのか!? とファランクスは驚く中、リューセンは怒涛の勢いで持論を展開した。



「いいかいファラン君、確かに君は弱い。この場に居る誰よりも、何ならこの場に居る誰かが偶々蹴飛ばした小石にぶつかっただけで即死するぐらいには脆弱貧弱矮小だ! 小動物を通り越してムシケラ以下だ!!」

「いや何もそこまで言わなくても……」

「しかしだ!」



 リューセンの余りにもストレートかつ容赦のない物言いに若干泣きそうになるファランクス。

 確かに自嘲気味に自分を卑下していたのはファランクス自身だが、ここまで容赦なく言われるとは思ってもみなかったのだ。

 だが、リューセンはあくまでしかしと続けた。



「しかし、それは今の君が弱いというだけだ。君には、君だけでなく全てのプレイヤーには今よりも強くなる余地が、権利がある! 今ある力の差は永遠の物でなく、だからこそ君にはこう言う資格があるんだ。『今は許すが、鍛えたら俺と戦え!』と」

「えぇ!? いや、いやいや、別に俺グレイスと戦いたいとか思って無いけど!?」

「だが負けた事、碌に抵抗も出来ずに捕まった事に思う所はあるだろう? レベル一ではどうしようもなかった、だがレベルを上げた状態ならこんなにあっさりやられなかった、そう思っているだろう?」

「それは……」



 リューセンの問いかけに言葉を詰まらせるファランクス。

 実際、そう思っているのは事実だった。

 ファランクスとてゲーム初心者では無いし、ゲーム中で所謂『負けイベント』に遭遇した経験が無い訳では無い。

 今回グレイスに捕まったのも負けイベントの様な物で、レベル一の自分にはどうしようもない事だったと理屈では判っている。


 だが同時に、感情が納得していないのも事実だった。


 そもそもゲームが好きで、対戦要素があるなら相手がプレイヤーだろうがNPCだろうが負けて悔しいと感じるのは当たり前の事なのだ。

 その辺り前を、遠慮して捨てるなとリューセンは言っていた。



「悔しさをバネにするには具体的な目標が要る。その目標として彼女に再戦を求める権利が君にはある!」

「ん、そぉだな。負けっぱなしで諦めるような奴ぁ男じゃねぇもんな。良いぜファランクス、いつでも受けて立ってやるよ!」

「ちょ、俺は別に戦うとは言って無いんだけど!?」

「あ、後私とも詫びとして後で戦って貰うからよろしくね?」

「おう! ……ってちょっと待て!! それは話が違って来るだろぉがっ!?」

「はっはっは! もう言質は取った! 千年前の魔法使いの力、楽しみにさせて貰うとするよ」



 話の流れでリューセンと戦う事となりぎょっとするグレイス。

 そう、リューセンは元々この流れを狙っていたのだ。

 グレイスが盗んだ白布はリューセンが自作した超一級品の性能を持つ一点物の超稀少アイテムではあるが、盗まれたこと自体を咎めようとはリューセンは考えていない。

 それよりも、自身からああもあっさりと装備品を盗んで見せたグレイスの実力に対してリューセンは興味津々だった。

 しかも、盗むのに使用したのが魔法だと言うのが尚良い。

 一介の術師として、是非とも互いの腕を比べ合いたいとリューセンは考えていた。

 


「てめぇ、最初っからそれが目的かよ!?」

「勿論! 腕の良い術師なのは白布を盗まれた時点で判っていたが、DIE……大賢者の直弟子だと言うのが尚素晴らしい! 是が非でも私と戦って貰うよ?」

「ぐぅぅ、クソッ! マジかよめんどくせえ……」

「えーっと、リューセン? グレイスと戦いたかっただけなのか? その為に俺をダシにした?」

「まさか! 私が個人的に戦いたかったのは事実だが、ファラン君もいずれ再戦するべきと思ったのも事実だよ? 彼女ほどの実力者を目標に鍛え、戦う事は間違いなくファラン君の糧になるからね。実力者との戦いこそ強さへの近道だよ」

「そういうもん?」

「当然! 私がそうだったよ。『目についた強そうな奴全員に喧嘩売って全員に勝てるようになったらそれが最強』。これが旧作対人環境の共通認識だったくらいだからね。まぁこの世界はそこまで殺伐として無いけど、だからこそ実力者と戦う機会は貴重なんだ。いやぁ、アイテム盗まれて散々街中走らされまくったけど、彼女と戦えるなら差し引き大幅なプラスだよねぇ」

「えぇ……」



 リューセンの発言にドン引きのファランクス。

 胸を張って言うリューセンの全身からは自身と自負が満ち溢れるようだった。

 何でこいつこんなに好戦的なんだよと思いつつ、ファランクスはコソコソとダンジョーたちに話しかけた。



「(……なぁ、リューセンってこれで平常運転なのか?)」

「(うーん、割とそうかな? 私もリュー先生から色々教わってた頃似た様な事言われたし)」

「(別にリュー先生がおかしい訳じゃ無いよ。ボクもそうだけど、対人勢って常に戦いを求めてるから)」

「そこー、聞こえてるよー?」

「どうぇい!?」



 ファランクスの質問にダンジョーとエレインが答えている所へ、リューセンが聞こえている事を指摘する。

 驚いて飛び上がるファランクスだったが、一方でリューセンに不快に思っているような様子はない。

 自身が好戦的だという自覚があるからだ。



「……まぁ傍から見て好戦的過ぎるって言うのは自覚はあるんだよ。けど、けれどね、私もエレインもそうだが、この旧世界からの対人勢って言うのはもうどうしようもないんだよ。私達は所詮、闘争の熱に魂魅せられた一匹の修羅に過ぎないんだ」

「リュー先生カッコイイ! トワメモ対人勢の魂!!」

「ふふ、よせやい」



 ヒューヒューとはしゃぐエレインに照れくさそうに手を振るリューセン。

 盛り上がっている所悪いが、ファランクスはちょっとついて行けそうに無かった。

 一方で、騒いだことですっかり目の覚めた様子のグレイスは、ダンジョーから貰ったジュースをちびちび飲みながらふっと思い出す。



「……って、そうだ。おい、リューセン!」

「ん、何だい?」

「こんなこと言える立場じゃねぇのは判ってるが、頼みがある」



 真剣な様子でそう語るグレイス。

 その様子を見て何かを察したリューセンは、居住まいを正して向き直った。



「話を聞こう。が、その前に一つ私からも頼めるかい?」

「あ? なんだよ」

「君の事、グレイスと名前で呼んでも良いかな?」



 予想外の言葉に一瞬キョトンとした顔となるグレイス。

 だが、次の瞬間には快活に破顔した。



「くっはっ、今更かよ!」

「今更だがね、良いかい?」

「構わねえよ、オレ様だってオメェの事呼び捨てにしてっからな」

「そうかい、ありがとう」

「おう、感謝しろよ!」

「あ、ならダンジョーちゃんもグレイスちゃんって呼んで良い!?」

「グレイスちゃん、ボクの事はエレインちゃんって呼んでね」

「メー、オイラはストで構わんメー」

「僕の事はマカロンと! あ、こっちはファニーって呼んでやって」

「ちょ、私は良いってマカロン!」

「うおっ、なんだオメェらワラワラ来んな!」



 ここぞとばかりに便乗して集まるダンジョーたち。

 揉みくちゃにされながらも抱き着いて来るダンジョーを引っぺがしながらグレイスはリューセンに確認した。



「ええい、離れろ! おい、リューセン!」

「何だいグレイス?」

「頼みごと、前置きの話が長くなるが構わねぇか?」

「構わないよ聞かせてくれ」



 いつも間にか全員分の飲み物を乗せたお盆を手にそう答えるリューセン。

 全員に飲み物を配り終えたところで、グレイスは頼み事を説明する為に自身の過去を語った。

 それは、リューセンも知らない千年前の出来事。

 黎明期の教会が起こした、蛮行と非道の真実であった。

次回、グレイスの過去語り。

またの名を『教会やらかし話・千年前編』。

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