第十九話 「何処でもないバーにて」
早く書けたので更新。
なお、特に話が進む訳でも無い模様。
それぞれのキャラを薄めずに早く話を進めるバランス感覚を身に着けたいものです。
「マカロン君、頼めるかい?」
「ほい来た、お任せあれ!」
白布越しにグレイスと睨み合っていたリューセンが振り返らずに訊ねると、マカロンはそれにすぐ答えパンッと柏手を一つ打つ。
すると周囲の景色が一瞬で変わり、気付けば路地裏に居た面々は薄暗く洒落た雰囲気のバーの店内に移動していた。
その急激な変化にファランクスは驚愕し、グレイスは面白そうに店内を見回している。
一方残りのメンツ離れた様子で各々席に座ったり言い争いを続けたりしていたが、リューセンはカウンターの中へと入りまるでバーテンか何かのように振る舞った。
「さて、まずはそちらの席にどうぞ。それと、話の前に何か飲むかい? 必要なら軽食くらいなら作れるが」
「お、気が利いてるじゃねぇか。なら、エールと串焼きみてぇな片手で食える肉が欲しいな。味付けは濃くしてくれ」
そう言って店員そのものの態度でグレイスをカウンター席に案内するリューセン。
それに戸惑う事も無く堂々とした振る舞いでグレイスは席に座り、注文を告げた。
「かしこまりました、少々お待ちください」
「ちょ、リューセン何で泥棒相手に普通の店員みたいな対応してんの!?」
リューセンの余りにも堂に入った店員ぷりに思わずツッコむファランクス。
しかしリューセンは気にした様子も無く、普通にファランクスの注文も受けていた。
「まぁそう言わずに座って。ファラン君も何か飲むかい? 未成年に酒は出せないが、ジュースもそれなりに揃えてあるよ」
「いやそうじゃなくて………ッあー、もうっ! じゃあ何かお勧めのを!」
「かしこまりました」
大聖堂前広場でグレイスの幻像体を追いかけて行った時は何だったのか、注文の品を用意する為にリューセンはカウンターの奥へと引っ込んで行く。
そんなリューセンにもっといろいろ言いたい事のあるファランクスだったが、結局諦めてグレイスの二つ隣の席へと腰を下ろした。
なお、ダンジョーたちはテーブル席で自身のアイテムボックスから取り出した酒やらツマミやらを広げ勝手に飲み始めている。
リューセンに振り回されるファランクスをニヤニヤ見ながら、意地の悪い声でグレイスは言った。
「オイオイファランクス、判ってねぇな。飲み屋のお勧めなんざ基本、売れ残り食材の消化なんだぜ? 微妙なもんが出て来ても知らねぇぞ?」
「何その飲み屋に対する偏見!? 飲み屋になんか恨みでもあるの!?」
「偏見じゃなくて経験に基づく事実なんだよなぁ。後、別に怨みは残ってねぇよ? きちんと当時の店は潰したからな」
「残って無いんじゃなくて怨み晴らした後じゃねーか!」
何て言ってる間に、カウンターの奥からお盆に注文の品を乗せたリューセンが戻って来た。
注文をした順に、グレイス、ファランクスへと飲み物と軽食を乗せた皿を配って行く。
「こちら、レッドエール『ガーネット』と『ロックバードの焼き鳥』盛り合わせです」
「おお! 良い匂いしてんじゃねぇーか!」
「ファラン君にはこちら、『カナンコーラ』と『フライドキュアゴールドポテト』の盛り合わせ」
「……名前が気になるけど美味しそうではあるな」
目の前に置かれたシュワシュワと弾けるコーラと、塩の振られたフライドポテト見て急にお腹が減って来たファランクス。
一方グレイスは何の疑いも無く出された焼き鳥にがっつき、旨そうにゴクゴクとエールを呷っていた。
その姿は完全に仕事帰りのビールを楽しむおっさんのそれであり、黙っていれば清楚な美少女であるのも相まって色々と台無しであった。
「うめ! うめ! うめぇっ!!」
「グレイスお前……良くそんな平気で飲み食い出来るな。一服盛られるとか考えないのか?」
「『工房』に入ってる時点で必要無ぇだろ? 第一、こんな上等な酒と肉を前に食わないなんてありえねぇっての! 白装束! 酒と肉、お代わり追加だ!!」
「はいはい、少々お待ちください」
「なんで窃盗犯相手に普通に対応してお代わりまで用意するんだよ……」
カーッ! 千年ぶりの食事はたまんねぇな!! などと言いつつお代わりまで要求するグレイス。
お代わりを用意する為に再びカウンターの奥へと向かうリューセンの後ろ姿を見ながら、自分の方がおかしいのか? と頭を抱えるファランクス。
とそこへ、オレンジジュースの入ったコップを片手にダンジョーが話しかけた。
「まぁまぁ新人君、リュー先生は基本その時その時自分のやりたいようにやる人だから仕方ないよ。そもそも装備を盗まれたこと自体あんまり気にしてないしね」
「えっと、君は……!?」
「あ、自己紹介がまだだったね! 私は火薬庫ダンジョー、リュー先生と同じクラン『禁呪工房』のメンバーで、こう見えて動画配信者なんだよ? よろしくね!」
ニコニコと微笑みながら自己紹介をするダンジョー。
リアルでは早々お目にかかれないとびきりの美少女の無邪気な笑顔を見せつけられたファランクスは、ドキッと心臓が跳ねる感覚を感じつつ多少どもりながらも自己紹介を返した。
「あ、ああよろしく。俺はファランクス、今日始めたばっかの新規プレイヤーだ。よ、よろしく」
「なんで二回もよろしくっつってんだよファランクス~、んなちっこいガキに童貞丸出しとかきめぇぞ?」
「誰が童貞だ外見詐欺がっ! 童貞で悪いかこのヤロー!?」
「あ、童貞は認めんのな?」
「正直で偉い! ご褒美にダンジョーちゃんがアーンしてあげよぉ~。はい、アーン」
「うぇあのっ」
「オイオイファランクス、幼児趣味は千年前だって憲兵に引き摺られるぜ?」
「だから違うっつってんだろ似非清楚!」
「スラム育ちに清楚さなんざ求めんなよなぁ~」
「ほらほら、冷めない内にアーン」
「ちょ、頬っぺたに押し付けないで!?」
ファランクスが手を付けていなかったフライドポテトをフォークで差して口元に差し出すダンジョー。
顔を赤くして狼狽えるファランクスだったが、横からニヤニヤ笑うグレイスに揶揄われて別の意味で顔を赤くて怒る。
が、押しの強いダンジョーがずっとポテトを差し出して来る為、碌に言い争いを続ける事も出来なかった。
それを見て、更にニヤニヤ笑いを深め揶揄うグレイスという悪循環。
傍から見れば美少女二人に挟まれている訳だが、残念ながら羨ましさはあまり感じられなかった。
取り敢えず自分が食べないと話が続けられないと理解したファランクスは、恥ずかしさを耐えつつモグモグとポテトを頬張る。
味の方は、正直この状況じゃ無ければ自分もがっついてたと思うほど美味かった。
「んぐんぐ、まぁ美味いけど……それでえっと、火薬庫ダンジョーさん? は、動画配信者何だっけ?」
「ダンジョーちゃんで良いよ~、フルネームだと長いしね。そだよ~、ダンジョーちゃんと、あっちに居る羊のストさんと地味顔のマカロンさんが動画配信者で、黒づくめのファニおじと花嫁のエレくんが一般プレイヤー。ほらほらみんな、挨拶挨拶!」
「「「「ども~」」」」
ダンジョーに促されて、テーブル席で飲み食いしている四人が軽く手を上げる(ファニだけはマカロンの影に隠れるようにして小さな声を上げるだけだったが)。
四人はスト天、マカロン、ファニー、エレインの順に軽く自己紹介をし、ファランクスもまたそれぞれに軽く挨拶をした。
何せ人数が多かったり、うち一人に極度の人見知りが混じっていたりするので、それぞれの挨拶は最小限である。
続けてダンジョーは、今この場を動画配信して良いかの確認をファランクスにした。
「? なら今は動画を流してないのか?」
「リュー先生たちは前から許可貰っているから良いけど、ファランくんはそうじゃないからねぇ~。ダンジョーちゃんのチャンネルは清く正しく健全な動画配信をモットーとしてるから、無許可撮影、無許可配信はしないよ! 背景に映りこんじゃうプレイヤーにはきちんとぼかしを入れてるしね!」
爆破テロ配信をするチャンネルが清く正しく健全かは置いておくとして、ダンジョー含め配信者たちはその辺りの配慮がしっかりしているので現在配信中の動画にファランクスは映っていない。
正確に言うと、配信されている動画内でファランクスの映る部分だけ『見せられないよ!』的な物が置かれ、話し声も加工され本人の物とは似ても似つかない物となっていた。
ちなみに、これらの処理は各々魔法使ってやっている。
動画配信機能からでも似たような事は出来るが、ここに居る面々に限ってはFMC魔法を使った方が手早く自由度が高いからだ。
なお、NPCであるグレイスに許可を取る必要はない。
ゲームの利用規約に違反しなければ、NPCの撮影などは合法だからだ。
動画の撮影許可に関してどうしようかとファランクスは悩んだが、そもそも動画に映ったところで自分に興味を持つ者など居ないか、と結論付けてOKを出す事にした。
リューセンも含め、他にもOK出している者が複数名いた事も心理的なハードルを下げていた。
「うーん、別に俺が動画向けに何か喋ったりしなきゃいけないって訳じゃないんだろ?」
「うん、大丈夫! 変に忖度とかせずに自然体でプレイしてくれたらいいよ~」
「ならまぁ、良いかなぁ?」
「ホント!? ありがと~! リスナーの皆、許可貰えたからコメント欄再表示するよ~。ファランくんにお礼コメントよろしくねぇ~」
:ありがとうファラン君!
:ありがとう!
:アリガトナス!
:感謝ッ! 圧倒的感謝ッ!
:ありがとう、でもダンジョーちゃんのアーンは羨ましいぞファラン君!
:ファラン君、そこ代って!
:●してでも奪い取る!
:残念だったな、(アーンされるのは)俺だよ!
:(ちくわ大明神)
:(誰だ居間の)
:居間? 神棚かな?
「おわっ!?」
表示した瞬間爆速で流れ出すコメント欄に驚くファランクス。
リューセンの付けた『ファラン君』という呼び名が、圧倒的な速さでリスナーたちの間に広がっていた。
「おー、すっごい勢い。ファラン君早速人気者だねぇ~」
「いやいや、俺なんて特徴の無いレベル一の一般初心者プレイヤーだぞ? 何でこんなに盛り上がってんだよ」
「箸が転んでもおかしい年ごろなんじゃないかな?」
「昔の女子かよ」
「お待たせ~、お代わり持って来たよ~」
ダンジョーの古風な表現にファランクスがツッコんだところでリューセンが帰って来た。
両手にはそれぞれ特大のお盆が乗せられ、その上には大皿に山の用に乗せられた焼き鳥とフライドポテトが鎮座していた。
そのあまりに多過ぎる量に、ファランクスが思わずツッコむ。
「いや、作り過ぎだろリューセン」
「ちょっと張り切り過ぎちゃったね、沢山あるからみんなもお食べ~」
「イモは要らん! 肉は全部寄越せ!!」
そう言ってお盆ごと焼き鳥の大皿を奪い再びかっ食らい始めるグレイス。
見る見る内に減って行く焼き鳥の山を見て、こいつの食欲は化け物か、とファランクスは慄きつつ呟いた。
『工房』
読んで字の如く「こうぼう」。
魔法使いの仕事場であり、魔法使いが最も力を発揮出来る固有の絶対領域。
今回登場したバーはマカロンが作った持ち運び出来る携帯工房の異空間であり、魔法使いにとって他者の作った工房に入る事は俎上の鯉となる事を意味している。
抵抗なく工房に入った時点でリューセンたちから見てグレイスは白旗状態と判断されているし、グレイスも抵抗や敵対の意思が無い事を示す為に大人しく工房に取り込まれた。




