第一話 「一周年を迎えた世界」
第一話です。宜しくお願いします。
『ズァナルカンド王国 大王都ズァナテシア』
白亜の王城を中心に広がる石造りの巨大な都市。
人間、獣人、ドワーフ、エルフ、エトセトラ。
様々な人種の人々で溢れかえる都の大通りの片隅、大通りに続く路地の一つに異様な姿の一人の男が立っていた。
身に纏うは高位の聖職者を思わせる白の法衣。
金銀の装飾や飾り紐が使われ、豪華でありながら成金的な悪趣味さを感じさせない品と風格のあるデザインとなっている。
それを身に纏っているのは身長にして百九十センチを超える大男だ。
これだけならただの背の高い聖職者風の男ですんだが、彼にはもう一つ目を引く特徴があった。
身に纏っている法衣と同じデザインの、刺繍が施された長い一枚布を頭から被っており、顔が全く見えないのだ。
「―――久しぶりに来たけど、流石に今は人が多いなぁ」
大通りに溢れかえる人の群れを見てその男、プレイヤー『リューセン』はそう呟いた。
VRMMORPG『エタニティ・メモランダム』
つい先日発売から一周年が経ち、現在は一周年記念イベントを開催中の大人気ゲームだ。
プレイヤーは剣と魔法の世界『アンティカルーナ』に降り立ち、様々な冒険を繰り広げる事となる。
ゲーム内には数千以上の『ジョブ』やそれに付随する様々な『スキル』、戦闘をより楽しく魅力的な物にする『アーツ』や様々な種類、用途の存在する『魔法』などなど。
テンプレートでありながらプレイヤーたちを惹き付けて止まない数々の要素があるが、ベテランプレイヤーであるリューセンからすればそんなものは氷山の一角に過ぎない。
そもそもこのゲームの最大の魅力とは、前作に当たる『トワイライト・メモランダム』から引き継がれた要素である『FMC』であって、それを利用出来て居ない大半のプレイヤーはこのゲームを十全に楽しめているとは言えな―――――
「うおっと!?」
「――おや?」
考え事をしている所へ突如軽い衝撃感じると共に、少年の物らしき幼さを残した男の声が聞こえる。
ゲーム内の装備であるが故に頭から被っていても視界を阻害しない白布越しに声の主を探すと、そこには尻餅をついた状態でリューセンを見上げる、戦士系統ジョブの初期装備を身に着けた赤髪少年が居た。
「うわぁでっけぇ……あっ、すいません! よそ見してたらぶつかっちゃって」
リューセンを見上げてしばしば呆けていた少年は、慌てて立ち上がるとそう言って謝罪し頭を下げた。
それを聞いてリューセンは、先ほど感じた衝撃の正体がこの少年がぶつかった際の物だったのだと理解した。
「気にしなくて良いよ、私も考え事でぼうっと突っ立っていたからね。お互い様だよ」
「だからほら、顔を上げて」と声を掛けながらリューセンは赤髪の少年と視線を合わせるように身を屈めた。
『ベテランは新規を歓迎するもの』、それがリューセンのモットーである。
偶然とは言え関わる事となった目の前の少年に、折角だから先輩として何かアドバイスをしようとリューセンは思い立っていた。
まぁ、単純に先輩風を吹かせたがっただけとも言えるが。
「それより、ぶつかったせいでHP減ったりして無いかい? 良ければ回復魔法を掛けようか?」
「あ、いえ、大丈夫です! すみません、ぶつかって来たのはこっちなのに気を遣わせちゃって」
「それこそ気にしなくて良いよ、ゲーム開始して直ぐによそ見してぶつかる何てあるあるだからね」
「え? オレ、ゲーム始めたばっかって言いましたっけ?」
「スタートダッシュキャンペーン期間に初期装備でゲーム開始地点の一つである大王都に居るんだ、言われなくても判るよ」
少年の疑問にそう答えると、リューセンは友好を示す為に握手を求めて手を差し出した。
「私はリューセン。こんな格好だが普段は各地の古代遺跡なんかを回っていて旅の考古学者を名乗って居るんだ。よろしくね」
「あ、どうも。オレは『ファランクス』です! 今日始めたばかりです。よろしくお願いします!!」
ファランクスの元気の良い挨拶に「ハハハ、もっとフランクで良いんだよ?」と返しながら、二人は握手を交わした。
一体誰が予想しただろう?
この二人の出会いが、後に世界を揺るがす大事件に深く関わる事となる冒険者パーティーの始まりであったなどと。
当の本人たちでさえ、今は知る由も無かった。
次回更新は未定です。宜しくお願いします。