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最弱コンビを襲ったのは黒いドラゴンでした

 

 翌日の朝。俺は目を覚ますと同時に違和感を感じた。  

 その違和感の正体に気付いたのは俺がベッドから体を起こした時だ。


「────!」


 俺はビックリしてベッドから転げ落ち、直ぐに自分が寝ていたベッドの上を恐る恐る覗き込んだ。そこにはスースーと寝息をたてて眠るルカの姿があったのだ。

 確か昨日は街中をずっと歩き続けたので、帰ってから直ぐに夕食もとらずに爆睡したはずだが何故。彼女が一緒なベッドに寝ているのかが思い出せない。

 

 やがてルカは、「あ。おはようございます」と、ごく普通に──当たり前のようにモゾモゾと起きてきた。


「ここで一体何してんの?」


「だって、一緒な部屋に来いって……」


「言ってないよ。それに俺達は性別も違うとか何とか、ルカも言ってたじゃないか」


「はい。でも考えてみれば私が決める事では無いのです。レクセルさん! 私は強引に仲間入りを頼んだのに受け入れてくれたレクセルさんは本来ならば私の救世主。つまり、私は奴隷であり────」


「ちょっとまてっ。俺達は同等の立場だろ? それに元々、部屋は別々のつもりで言ったんだよ」


 何をどう捉えたのか知らないが大きく勘違いしている。


「大丈夫です。私も覚悟を決めました! これからは自分の立場をわきまえ、レクセルさんの事を『御主人様』と呼ばせていただきます」


 いや、おかしくね!? ルカは自分の世界に入り込んでいるようで人の話を聞きそうにない。俺が彼女にどんだけ説明をしても返ってくる言葉は──「今までご主人様の優しさに甘えてました」と言う、謎の自虐思想だ。これはいかん。

 考えるのも面倒なので、この件は一旦ルカの熱が冷めるまで保留する事にしよう。どうせ今日から護衛に出て、暫く宿屋には帰ってこないのだから。

 


 朝からバタバタした俺達が下のレストランで軽く食事をとっていると、いつの間にか時刻も昼近くなっていた。俺達は宿を出て待ち合わせの北門に向かった。


 北門の前には一台の荷馬車が停まっている。

 馬車の荷台には『パスカル商会』と書いてあったので直ぐに分かった。その周囲には五人程いて、うち三人は昨日ギルドで見た冒険者だった。すると残りの二人が商人という事になる。


「すいません。遅れましたか?」


「いや、全然大丈夫だよ」


「君達がもう一組の護衛冒険者かい?」


 商人達は二人とも背が低く小太りの、いかにも商人といった風貌だった。体型から顔までソックリで、どちらも話し方は柔らかく人柄の良さが滲みでている。聞けば兄弟だと言う。


「アールだ。よろしく」

「俺はベールだ」


 商人達は握手を求めてきた。ところが、俺達と同じ依頼を受けた冒険者の方はあまり……というか、やはり。友好的な感じではなかった。身なりからすると、珍しく全員が前衛タイプの攻撃特化パーティーのようだ。


「マジか! 雑魚セルじゃねーか……」

「いくら人がいないからって……寄りにもよって最弱コンビかよ」

「あーあ。外れ仕事じゃねーか」


 三人の冒険者達はそれぞれ好きな様に俺への不満を洩らし始める。それを聞いて、俺を見る商人達も不安そうな顔をする。まったく営業妨害はなはだしいが、こうしてあまり良いスタートではない俺達の仕事が始まった。




 エデルまでの移動は途中まで道もシッカリしていて問題なく進んだが、やがて道が悪くなってきて馬車の車輪がはまって皆で押したり、魔物が出てきたりで思ったように進めなくなってきた。

 だが、その為に雇われた俺達だ。全力を尽くして商人達をサポートする。がしかし、魔物との戦闘においては三人の冒険者がCランクという事もあり俺達が出る幕は殆ど無い。

 それが続くと冒険者達は愚痴り始めた……


「はあ……俺達だけが戦ってんだけど?」

「本当。合同だから少しは楽だと思ったのにな」

「これで報酬同じとか、ありえないだろ……」


 わざとらしく大きな声で言う彼等に、さすがのルカも面白くない顔をしていたが、確かに俺達は何もしていない……というか。彼等は全員が攻撃特化型なので俺達が動く前に一気に戦闘が終わってしまうのだ。

 こんな状況では護衛二組は無駄だったと思われても仕方ない。商人達は金を払う立場なのだから、顔には出さないがきっと後悔している事だろう。



「今日はここで野営にしよう」


 エデルまでは残り半日程だが商人の一人、アールが本日の旅の終わりを告げた。そして慣れた手つきで焚き火を起こし始めるので俺達もそれを手伝った。

 簡単な料理が振る舞われ、焚き火を囲んで全員で少し会話が行われたが。三人組の冒険者の俺達への態度が悪く、あまり盛り上がれる雰囲気でもなかった。


 早々に眠りにつく事になった俺達は冒険者達だけで見張りを立てる事を決めた。そして、日中活躍出来なかった俺達が最初の見張りに立つ事になり。


 一時間程が過ぎた頃。俺達以外は完全に眠りについた。そんな静寂の中、俺とルカは何も出来なかった日中の戦闘について静かに反省会をしていたのだ。


「明日からは俺達も積極的に前に出た方がいいかもな」


「はい。でも、私達の出番は回って来ないかもしれませんね。あの人達の戦い方は強引だけど、決着も早いですから」


「まあな。でも俺達が弱いのが悪いんだ」


「私はそうですけど。御主人様は────」


「だから。その御主人様ってのはやめよーよ」


 ルカは俺の言葉をスルーするように何も言わず、静かに空に浮かぶ巨大な明るい星を見上げていた。

 とても静かな夜だ。

 いや、こんなに静かなのは珍しい。辺りには魔物どころか動物の気配すら感じない。魔物も動物も基本的に夜行性が多いはずだが、不気味な程に静かだったのだ。そして────


『ぐぉぉぉぉぉぉん!』 と、突然、大きな咆哮が聞こえた。

 それは大地を揺らすような重低音で、さすがに「何事だ!」と寝ていた全員が飛び起きた。各自が辺りを見渡したが魔物らしき姿は発見出来ず────しかしその数秒後。辺りを淡く照らしていた星の光が一瞬フッと消え、全員が空を見上げた。


「おい! 何だありゃあ!」


 一人が叫んだ。空には大きく翼を広げた何かが黒いシルエットとなり飛んでいる。そして次の瞬間、それは俺達の方へ凄い速度で落下して来たのだ。


「うわぁぁぁ!」


 その叫び声は一瞬聞こえたがすぐに途絶えた。同時に俺の十メートル程先にいた冒険者の一人が忽然と姿を消す──というか、その代わりにその場所に居たのが、大きな翼を持った巨大な生物だった。


 俺は理解した。大きな鳥のような翼を持つその生き物は、冒険者の一人を着地するなり丸飲みしたのだ。

 その近くにいた残り二人の冒険者は慌てた様子で叫びながら、逃げるように走り出した。


「ど、ドラゴンだぁ!」

「こんなもん相手に出来るか!」


 〝ドラゴン〟────話には聞いていたが、本物を見るのはもちろん初めてだ。大きさは楽に十メートルはあるだろう。星の光に照らされる体色はおそらく黒一色。ゴツゴツした硬そうな皮膚に己の全身より大きな翼を持っている。

 勝てるはずがないとは思ったが、逃げられるはずもない。それだけそのドラゴンが巨体に似合わず速いからだ。


「ダメです! 逃げても間にあわない!」


 ドラゴンに背を向け、こちらに逃げてくる冒険者達に呼びかけた時には遅かった。ドラゴンがブンッと腕を振るのが見え、俺の目の前で冒険者の一人が無残にも胴体から真っ二つになった。


 不幸な冒険者の血液が俺の頬に飛んだ。一方のもう一人の冒険者はその光景に呆然とする俺の肩に激しくぶつかり転倒した。だが直ぐに起き上がり必死で何処かに逃げ去って行った。


 商人のアールとベールは今の光景を見て腰を抜かしたようで、その場にへたり込んでいる。ルカも俺の背後で硬直して動けなくなっているようだ。

 そして、俺が今一度ドラゴンの方を見た時にはバッチリ目が合ってしまった。次のターゲットは俺だ。


 ────殺される。


 そう思った。と同時に俺の心臓がドクン!っと大きく脈打った。そして、まるで全身の血流が止まったかのように肉体が冷たくなっていく感覚を覚えた。

 そんな俺の体調の変化を見透かしたかのように、ドラゴンは俺に飛びかかって来たのだが。その速度は、俺の目でハッキリ追える程に遅く感じられた。

 


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