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[ブッシュ視点] ずる賢い男は偽りの英雄を目指して悪事を試みる


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 ────王都ブルーム・王城フェイズシュタイン

        ────王国騎士団会議室。


「なんと……地下監獄付近に落ちていた? となると、既に〝メタモール〟は倒されている可能性が高いな」


 そう言って体格の良いダンディーな髭面の男は注意深く一つの石を眺めていた。


「失礼ですが騎士団長殿。その石は一体どのような物なのですか?」


「ふむ。これは『虹の石』だ。話すと長くなるが、宮廷魔法士達の慢心(まんしん)の象徴と言ってもよい────」


 騎士団長ジェスターとマルコのやり取りを聞きながら、俺は内心穏やかではないのだ。元々魔法使いとして優秀と言われていた俺──ブッシュ・パティックが、英雄になる為に必要な手順として重要視していたのが、当時からギルド内で有名だったマルコ・ジュラルに気に入られる事だった。


 そして、めでたくマルコの仲間入りしてから僅か一ヶ月足らずでBランクから一気にSランク冒険者にまで登り詰めた。それは、たまたま倒したグレートバジリスクのおかげだが。今回の国王勅命の討伐任務をこなす事は更に俺の地位は上げる為に必要なのだ。


 その討伐対象の魔物は嘗て王国を襲った凶悪な魔物、通称メタモールだ。液体のような身体で形を自在に変化出来るらしく、当時の王国騎士達でも苦戦をしいられたとか。最終的に宮廷魔法士達が地下深くにやっと封印した────

 それが突然、封印が解けてしまい逃げ出したと聞いている。


 その魔物を俺達だけで倒す……まではムリでも、発見して王国騎士と共に退治するだけでも相当に名前をあげられる。上手くいけばそれだけで国の英雄も夢じゃない。

 ところが──その魔物が既に倒された可能性がある。というのだから非常に面白くない話だった。


「それで、その時に宮廷魔法士達がメタモールを封印する為に作ったのが『虹の石』だ。石は二つあったが、この石に魔力が残っていない所を見ると多分もう1つも魔力を無くしているだろう。

 結局、今回の騒動は、この石の封印魔力を絶対と慢心していた王国が招いた事件なのだ! マルコ殿。依頼の継続はもちろんだが、加えてメタモールを倒した者がいれば、その者を探してくれ」


「承知しました。どちらも視野に入れて動きましょう」



 城を出ると既に辺りは暗くなり始めていたので捜索は明日からに決まったが、その前に俺はマルコに一つ提案した。


「なあマルコ。魔物を探すにしても、倒した者を探すにしても闇雲に探してたらラチがあかない。明日からは二手に分かれよう」


「そうだな。じゃあ俺とブッシュは地下で魔物探し。マリンは街で既に魔物を倒した者がいるかの情報収集って所でいいか?」


「いや。街での情報収集は俺が一人でやる」


「ちょっとブッシュ! 私に一番危険な地下に行けっていうの?」


「落ち着けよマリン。その魔物は形を自由に変えれるんだ。まだ生きてるなら人の姿で街に潜伏してる可能性もある。その場合は一人で聞き込みする方がずっと危険だぞ?」


 俺の提案にマルコとマリンは暫し悩んでいた。やがてマリンが「それもそうね……」と答える。うむ。上手くいった。俺はとにかく、こいつらと別行動をしたいのだ。


 おそらく魔物は既に倒されているだろう。そして倒した奴は、何処にも報告していないのだから相当無頓着な奴という事だ。おそらく、その価値もわからない奴なのだ。

 ならばそいつを探して『虹の石』を所有していれば、それを高額で買い取ればよい。そして王国には俺が魔物を倒したと報告すれば、石という証拠もあるので手柄は独り占めとなるわけだ。



 翌朝。俺達は予定通りバラけた。そして俺が真っ先に向かったのは冒険者ギルドだ。魔物を倒した奴がいるなら、何らかの痕跡がギルドにあるだろう。この広い街を無駄に聞き回るより余程効率が良い。


「おう。今日はお前さん一人か? ブッシュ」


「おやっさん。ちょっと聞きたい事があってよ────」


 ギルド長のハマンはこう見えて鋭いからな。俺は核心には触れず上手く話を誤魔化し、直近で魔物討伐系の依頼を受けた冒険者を探る事にした。


「いや。そんな奴はいないな。最近、討伐系の依頼は入ってこな──いや、待てよ。確か、排水パイプの詰まりの原因が地下道のスライムだったな」


 形を自由に変える魔物ならスライムみたいな容姿でもおかしくない。しかも街の地下道は城の地下監獄の直ぐ上の階層にあたるので、地下道に逃げた魔物が倒され、液状になり下層の地下監獄付近に流れ落ちたのだとしたら。そこで虹の石だけを残して消えた可能性も考えられる。

 しかも。それなら、いくら城の地下を探しても逃げた魔物が見つからなかった事も納得出来るではないか。


「その依頼を受けた冒険者ってどんな奴だ?」


「ああ。レクセルの坊主と、魔法使いのお嬢ちゃんだよ」


 こいつは予想外だ。こうなると奴等が倒した可能性は万が一にも無いだろう。だが既に依頼は完了しているらしいので誰かが倒した後に奴等がたまたま行って拾った可能性も考えられるし、まだ地下道に落ちている可能性もある。


「あいつらは今、何か依頼受けてるのかい?」


「ああ。リーメルまで御使いだ。そろそろ帰って来てもよい頃なんだがなぁ────」


 雑魚セル達への確認は後回しでもよい。とにかく地下道に行ってみる必要はありそうだ。俺はギルドの親父に礼を言うと直ぐに地下道を目指した。しかしその道中。雑魚セルの相棒が歩いている────こいつは話が早い。


「おい。お嬢ちゃん、雑魚セルはどうした?」


「ああ。えーっと……ギルドで会った。誰でしたっけ?」


「ブッシュだ!」


「あぁ、ブッスさん。レクセルさんなら冒険者ギルドで完了報告してるかもしれないですね」


 俺が行った時はギルドにいなかったな。タイミングが悪かったのか? しかし話を聞くだけならどちらでも良いのだし、むしろ小娘の方が都合が良かったとも言える。この小娘なら簡単に騙せそうだ。


「いや、大した用は無いんだ。一つ聞きたいんだが何処かで珍しい石を見つけたりしてないか? 派手な石とかよ……」


「ブッスさん凄いです! どうして知ってるんですか?」


 小娘は相当驚いたようだ。しかし、本当に持ってた事に俺も思わず驚いた感じで聞き返してしまった。まあ、こいつはそれを不審に思う程賢くないだろう。


「マジか!? 見付けたのか!? ちなみに俺はブッスじゃなくて、ブッシュだからな」


「そうでしたね。石はレクセルさんが拾って私にくれました」


 拾ったと聞いて俺は納得した。予想通り奴らに例の魔物を倒せる筈がない事はわかっていたが。地下道に行ったのは間違いないので、そこで拾ったのだろう。という事は意外と早く決着がつきそうだ。


「そうか。それ、俺に売ってくれないか?」


「それは無理です」


 なに? まさか断るとは。コイツあの石の事を知っているのか? いや。そんなはずはない。誰も知らないはずだ。


「なぜだ? 別に少し変わってるだけで何の価値もない石だろ。あえて俺が高額で買い取ってやるって言ってるんだぞ?」


「無理ですよ。あれはレクセルさんに貰った大事な物なので」


 それだけか。つまらない理由でイライラさせやがって。いっそ強引に奪ってやろうか。だが、さすがに大通りでは目立つな。何とか出来ないかと考えながら俺は質問を続ける。


「そうかよ。ちなみにそれは今、持ってるのか?」


「持ってません。さっき細工屋さんに預けてきました」


「なんだと!?」


 聞けば小娘は、虹の石をペンダントにしようと考えているようだ。そんな物を常時身に付けられたら、そのうち王宮の奴等に気付かれて手柄を持っていかれてしまう。それだけは避けたい。

 こうなれば、その細工屋を仲間に巻き込むか。そいつから奪い取るしか方法はないかもしれん。


「ちなみに、その細工屋はどこの店だ?」


「北商業地区の路地裏に一軒だけある細工屋さんです。ブッスさんも何か作るつもりなんですか?」


「まあな。分かったよ。それと、俺はブッシュだ。何回もわざとらしく間違えんな!」


 最後までイライラさせる小娘だ。とにかく石のありかはわかった。もう少しで俺は英雄になれる。そう、後もう少しだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇



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