結界の森では『全ての』スキルが無効化されるようです
俺とルカは王都の道具屋にて、リーメル村の村長へ配達する荷物であるポーションを受け取り、村へ向け出発した。まだ午前中なので夕方までには到着する予定だ。
通常ならばリーメル村を囲う広い森を抜けるのに時間を取られるのだが。俺にとっては庭みたいな所なので最短ルートで行ける。
「後はまかせてください! 大地神エメシュよ────」
ルカの『石つぶて』は二メートル程ある大きなミミズや、ゴブリン、人食い草やスライムも含め。全ての魔物を一撃で葬りさっていった。事前に戦闘についての打ち合わせをしていた事もあり、かなり良い感じで連携が出来ている。
俺がメインで魔物を攻撃して、その間にルカは詠唱を済ませ俺の後方から魔法でとどめをさす。互いに成すべき事を成し達成感も得られる。そして、確実に俺達は戦闘自体に余裕が出てきていた。
「ルカ。ここから先は村まで森が続く。出てくる魔物も弱くなると思うし、この調子なら予定通り夕方には余裕で到着だな」
「弱くなるって……どうしてですか?」
理由は簡単だった。スライムすら倒せない俺だが、リーメル村周辺の森に出る魔物に関しては幼少期の俺でも容易く倒せていたからだ。
そんな俺が三ヶ月前に初めて村の森から外に出た時。何度斬っても倒れないスライムに苦戦して、逃げ回りながら漸く辿り着いた王都の冒険者に「スライムはこの辺りで最弱の魔物だぞ」と聞かされた時は、もの凄い絶望感に襲われたものだ。
俺はその経緯をルカに伝えたが、彼女はどこか腑に落ちない様な顔をして一つの提案をしてきた。
「じゃあ、ここから先は私が先に魔物に攻撃させてもらっていいですか? それで、私が一撃で倒せず襲われたら守ってください」
「まあ。いいけど……急にどうしたの?」
「私の魔法がどれだけ通用しているのか知りたいのです。いつも私は最後しか攻撃してないので」
彼女なりの実験だろうか? そんな事試すまでもなくルカは俺より強いのだから、この森の魔物なら間違いなく一撃だろう。
とりあえず俺は彼女の護衛に徹する事を決めた。そしてしばらく歩くと早速、体長一メートル程の四足歩行の魔物──通称「犬っころ」の姿が視界に入った。
俺が村を出てからそんなに長い月日は経っていないが、この森でよく見た魔物なのでどこか懐かしい気分だ。
「────我が魔力を喰らいて石のつぶてを顕現させよ!──顕現させよ!──あれ? 顕現させよ! ちょっと。どういう事!?」
少し離れた場所で毎度のように『石つぶて』の詠唱に入っているルカの様子が少しおかしい。自分の握る杖を見ながら何やらブツブツ言っている彼女は、魔物が迫ってきている事にも気付いていない。
慌てて俺は飛び出した。
腰の剣を抜き素早くルカを狙う魔物に近付き剣を振るうと〝ザシュッ〟と魔物は一刀両断され、地面に転がり落ち絶命した。やはり、この辺りの魔物が弱いのは変わっていないようで俺は胸を撫で下ろす。
「レクセルさん、ありがとう……というか。いつの間に倒しました?」
「さっき言った通りこの森の魔物は弱いんだ。それよりルカ、何で魔法を発動しなかったんだ? 魔力切れとか?」
「弱いってあれ、シルバーウルフですよ? それより。魔力はまだあるのに魔法スキルが発動しないんです! 私、こんな事は初めてですよ」
その後も魔物と何度か戦闘になったが、何故かルカの魔法は一切使えなかったのだ。しかし、森に慣れてる俺が代わりに魔物を倒せるので、先ほどと立場が逆転した感じになった。
やがてそんな森を抜け、俺達はリーメル村に到着した。
真っ先に村長の家に向かい道具屋から預かったポーションを渡すと。なかなか手に入らないポーションらしく──「注文していた物がようやく届いたわい」と村長は喜んでいた。
荷物受領のサインを書きながら村長は言う。
「ところでレクセル。冒険者生活は順調か?」
今は順調だが少し前までの事を考えると、俺は誰の役にも立てない無能でとても順調とは言えなかった。
「上手くいってます! 私はレクセルさんに助けられてます。本当ですよ!」
俺の代わりに何故かルカが答えた。その勢いに少し戸惑っていた村長に「彼女は俺の冒険仲間なんです」と伝えると、数分後に二人は打ち解けていた。ルカのコミュニケーション能力は恐ろしく高いのだ。
その後、三人で少し話をしてから肝心のポーションの代金を受け取った。後は王都の道具屋さんに届ければ依頼は完了だが──やはり、ここまで来たからには実家にも寄っておかなければならないだろう。
ルカを連れて実家に帰ると、三ヶ月ぶりに会った母親が俺を見るなり驚いた様子で話しかけてきた。
「ほんの数ヶ月前に送り出したのに。まさか、こんなに早く帰ってくるなんてね。おかえり、レクセル。 ところで、そちらの女の子は彼女?」
「ふえっ!? か、かの……ち、違います! 私は、ただの魔法使いです!」
ルカは全力で否定する。勿論、母親は冗談で言っていると思うのだが。ここまでハッキリ否定されると若干傷付く。
「ルカ。誰も職業は聞いてないよ。 母さんも初対面でいきなり冗談言うのはやめてくれ。彼女は俺と一緒にパーティーを組んでる、魔法使いのルカストレア・パールゲイツさんだ」
母親はルカの態度を見てクスッと笑った。そして直ぐに「レクセルの母、レミア・バートンです」と、自己紹介をしていた。その母親が「今日は泊まっていきなさい」と言うので言葉に甘えて俺達は泊まる事になったのだ。
こうしてその夜は三人で夕食を囲んだわけだが。相変わらずのコミュニケーション能力で、ルカは母親に直ぐ慣れたようで会話は盛り上がっていた。
「ルカちゃん、ありがとうね。レクセルと一緒に冒険するのは大変じゃない?」
「えっと……それは、どういう意味ですか?」
「レクセルも、外では色々と厳しいんじゃないのかと思ってね。ルカちゃんの足を引っ張ってない?」
ルカは俺の顔をチラリと見た。確かに俺は足を引っ張っているだろう……と、思ったが彼女の答えは正反対だった。
「いえ。私が助けられてます! ここに来る時だって、私が魔法を使えなくなったせいで一人で戦ってくれました」
「ああ。村の周囲の森の事ね。あの森では魔法スキルは使えないのよ。というか魔法でも何でも全てのスキルが使えないの。昔、この村に居た人が張った結界が今でも効いているのよ」
────結界?
初耳だった。母の話では村の周囲に特別な結界が張ってあり、魔法スキルだけじゃなくあらゆるスキルが無効化されるらしいのだ。
それにより村は外部からの探知スキルから逃れられたのだという。
探知とは何に対しての……誰からの探知なのだろうか?
昔の事なので考えても仕方ないが、今頃になって俺も知らない話だった為に少々気になった。
とはいえ。
わざわざ聞く必要も感じないし疲れもあった為、俺は二人を置いて先に寝る事にした。自室のベッドに横になり俺は考えていた。
森の中では危険な状況だった。魔法を使えないルカと弱者の俺では、もし森の魔物が弱くなければ絶体絶命だった。
そう思うと今後もルカの魔力切れや特別な結界など、彼女が魔法スキルを使えなくなる状況には細心の注意を払う必要がある。
冒険者を続ける以上、俺は早く強くならなければならない────少なくとも、ルカだけでも守れるようになりたい。
そんな決意とは裏腹に、俺の意識は布団の温かさの中に埋もれていった。
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