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天然魔法少女は、実は臆病な女の子でした


 スライム(大)を倒した俺達が、家主に完了のサインを貰う頃には外も薄暗くなり始めていた。


 俺達はとりあえずギルドへの報告は明日にする事にして、宿へと戻る事にした。

 ルカは南通りの宿に住んでいるそうなので、俺とは逆方向だ。明日の朝にギルドで待ち合わせる事にする。


 「おやすみ」と挨拶して、宿屋へ帰ろうと歩き出したのだが、その俺の手を突然ルカが不安そうな顔で握ったので俺の歩みは止められた。

 しかも、その手は小さく震えていた。


「あの、宿まで送ってくれませんか? 女の子送るのって普通ですよね?」


「あ、あぁ。そうだね……気付けなくてゴメン」


 ルカの行動は少し意外だった。


 辺りは完全に暗いわけでもなく、正直まだ人通りもあるし王都は治安が悪いわけでもない。そして、南通りの宿もそこまで遠くはない。

 何より彼女は恐いもの知らずである────と、俺は思っていたからだ。


 ここよりはるかに暗い地下道でも怖がっている様子は無かったし、パーティーをクビになっても直ぐに気持ちを切り替えられる。

 あまり不安を感じるタイプでは無いのだろうと決め付けていた。


 だが今の彼女はとても弱く。儚く見えた。


「あ、ごめんなさい! こんな事が言いたいんじゃなくて、そうじゃなくて、私……本当はスゴく怖かったんです。あんな風に吹き飛ばされたの初めてだったし、あんなに大きなスライムと戦ったのも初めてだし、それに。いや、本当は私……まともに魔物と戦った事ないんです!」


「まともに……って、今までも冒険者してたんだよね?」


「他の人の影に隠れていただけです……」



 聞けば彼女は戦闘になるたび後ろに下がり、隠れながら時々魔法を放つくらいの事しかしてこなかったのだという。


 そんな臆病な彼女が何故冒険者になったのかは知らないが、彼女の明るさは不安の裏返しなのだろう。


「そうか。俺、ルカの事を勘違いしてたみたいだな」


「怒ってますよね? 私、自分から誘っておいて、実際には臆病で全然役にたたないから」


 確かに冒険者ギルドで合った時とは別人のようだが……


「柄にもない事言わないでくれよ。むしろ俺の方が役にたたないから気にしないでよ。俺なんて、ルカがいなかったらスライムすら倒せないんだぜ。ハハハッ」


 少しでも気分を和ませようとおどけて見せたのだが、ルカはうつむいて何も言わなかった。


 なんか俺、失敗したかな? と、思ったが黙って彼女の手を握り俺は宿屋まで送り届けた。


 その頃には辺りもすっかり暗くなっていた。

 宿に着くまで一言も喋らないので、少し気まずい感じはしたが彼女の手の震えは確実に収まっていた。


「じゃあ、明日の朝も俺が迎えに来るから。あ! そうだ、これ……ルカにあげるよ。拾い物で俺にも何かわからんけど、不思議な石だし御守りになるかもな」


 そう言って俺は、地下道で拾った虹の様な色の石を懐から取り出してルカに渡した。


 彼女は不思議そうに石を見ていたが、ようやくパアッと笑顔を見せた。安心した俺は「じゃあ、また明日」っと言い残してその場を立ち去ったのだった。


「あの! 朝は大丈夫です! 自分でギルドまで行きますから。今日は本当に色々ありがとう」


 背後から聞こえるルカの大きな声に振り向き、俺は大きく手を振り返した。

 最初、俺はどこか彼女に頼る気持ちがあったのは間違いない。しかし、本当の彼女を知って俺は考えを改めた。


 今までどこの冒険者パーティーでも俺は一番下っ端の役立たずだったが、俺とルカの関係は対等であり。俺には彼女を守る義務があるのだと再認識する事となった。




 そして翌朝。

 ギルドの前で既にルカは待っていた。その表情は満面の笑顔で、昨夜の様子は微塵も感じない。そんな彼女と「おはよう」と挨拶を交わしてギルドの中へ入った。


 カウンター内には、いつもの様にハマンが居たが別の冒険者と何か話をしていたので、俺とルカはその近くで彼らの会話が終わるのを待つ事にした。



「────それで、王国の地下監獄から逃げたのが魔物らしくてよ。それも形を自在に変化させる珍しいタイプで、かなり強くて厄介らしい。ここ数日、王国騎士がバタバタしてるって噂だが何か聞いてるかい?」


「いや。うちには話が来てないな。逃げ出したのが漏れると騒ぎになるから、民間には言いたくないんじゃないのか? まあ、情報ありがとよ。こっちも何か分かったら教えるぜ。王宮に行ったマルコ達が何か聞いてるかもしれないしな」


「おう。それとなく聞いてくれよ。変な魔物が街の中をうろついてると思うと、おちおち寝てもいられないからな……」


 ハマンとの話を終えると冒険者はチラッとこちらを一瞥してからギルドを出て行った。聞こえてきた話では、何やら王宮で大変な事が起きている感じだが、俺達がどうにか出来る事ではないだろう。


 今はとりあえず初仕事の完了報告だ。と、思っているとハマンが俺達に気付いた。


「おう、お二人さん。初陣はどうだったんだ?」


「問題なく完了しましたよ。ルカが大活躍です。はい、これ……依頼主からのサインです」


「してないです! 私なんて活躍してないですよ」


 サインを渡す俺の後ろで謙遜しているルカを見て、ハマンは上機嫌に笑った。


「まあ、まあ、お二人さん。どうやら簡単な仕事だったみたいだな。何はともあれ初仕事お疲れさん。ほれ、今回の報酬だ」


 俺達の前に報酬の入った袋が置かれた。

 中身は銅貨五十枚だ。ルカとは最初から折半という話になっているので、俺は半分の二十五枚を彼女に渡した。大した金額ではないが初めて自分で受けた仕事で稼いだという事が嬉しい。おそらくルカもそうだろう。


「よし、お前さん達。早速、次の仕事やるか?」


 俺がルカを見ると、彼女は指でOKっというサインを出したのでハマンに続きを促した。


「今回のは前より簡単な内容だ。でも、油断はするなよ」


 そう言ってハマンが出して来たのは本当に簡単な依頼だった。荷物の配達だ。この王都・ブルームの北通りにある道具屋から、リーメル村の村長の家まで……という内容だった。


「リーメル村ですか!?」


 思わず俺は聞き返した。何故なら良く知っている村だからだ。


「おう。そういえば坊主はリーメル村の出身だったな。あそこは森に囲まれてるから少し気になったんだが育った所なら問題ないな。周囲の森も慣れてるんだろ?」


「はい。問題ありません」


 俺がたまたまリーメル村出身だった事にルカは驚いていたが、慣れている者がいる事は彼女にとっても安心だったのか──「じゃあ直ぐに出発しましょ!」っとヤル気満々だ。


 俺達が早速ギルドを出ようとした所で、ハマンが思い出したように声をかけてきた。


「ああ、そうだ。坊主に一つ聞きたいんだが。お前さん、イザナイの洞窟でグレートバジリスクには手を出したのか?」


「え? まあ、それでトカゲを怒らせてしまったんです。その結果、マリンさんを危ない目に合わせてしまって……」


「いや。そうか……少し気になってな。まあ、別に坊主が気にする事じゃないから、次の仕事も頑張れよ!」


 急に何だ? と考えたが、あの事を思い出すとやはり気分が落ちる。もう考えるのはやめよう。


 気持ちを改めて俺達はギルドを出た。

 そして道具屋へ向かう道中で横を歩くルカが質問してきた。


「私一つ気になってます! レクセルさんに聞きたいのですが。魔物って、自分にとって一番脅威になる敵に襲いかかるんでしたっけ?」


「どうしたの急に。 まあ、そうだね。それをヘイトって言って、その習性を利用して強い人がわざと魔物を刺激しておとりになったりするんだ」


 するとルカは「やっぱり……」と、妙に深刻な顔で何かを考えているので俺は逆に質問してみた。


「ルカ。戦闘術の勉強をしてるの?」


「いえ違います──あ、違いません。そうです! 勉強してます」


 どっちだよ。

 たまにルカの言いたい事は分からない。だが、これが彼女なのだ。俺はそう自己完結して道具屋へ向かい歩みを進めた。



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