二人での初仕事は『連続、石つぶて』でオールオッケー
クビにされたパーティーとバッタリか。さすがの俺も視線をそらしたが、そんな俺の所にブッシュが近付いて来たので俺は少し身構えた────が、彼は俺をスルーした。
「嬢ちゃん、少しは魔法上達したのか?」
「ああ。前に酒場で会った……確か、ブッスさん?」
「俺の名前はブッシュだ……」
彼女の名前間違えはデフォルト機能のようだ。ブッシュは顔が不細工なので一瞬、本気で言ってるのかと思ってしまった。
「ああ、そうでした! 魔法は相変わらずです。前のパーティーもそれでクビになりまして……」
「だろうな。だから俺が手取り足取り教えてやるって。なぁ……今からでも遅くないぜ? お嬢ちゃんよぉ」
二人は顔見知りのようだが、ブッシュのルカへの接し方が俺に対するものと違い、妙にベタベタする感じが気持ち悪い。控えめに言って、胸糞悪い。
「いえ、大丈夫です。私、雑魚セルさんと組む事になったんですよぉ」
おい。俺、名前言ったよね? そう突っ込みたい所を我慢した俺にブッシュから睨むような視線が飛んできた。一瞬、攻撃的な気配すら感じたが、その気配は直ぐに消え去り彼はフンッと鼻で笑う。
「おい、雑魚セル。自分が無能と自覚してるのはいいが。自分より弱そうな奴を誘うとは、先輩ヅラでもしたいのか? 本当ダセェ奴だな、お前は」
相変わらず俺への当たりは強い。パーティーを組んでた時から友好的とは思えなかったが、必要以上に俺が気に入らないといった雰囲気を醸し出していた。
「いや、別にそういうわけじゃ」
と、否定を口に出そうとした時────
「はい。私、ダサい事しちゃいました! だって彼を誘ったのは私なんです。アハハ」
ルカが俺とブッシュの会話に笑いながら割り込んだ。俺を庇ってくれたのか、ド天然なのかは知らないが。ブッシュはとにかく面白くない顔をしている。
「ほお……。まあ、せいぜい死なない様に気を付けろ。お前ら二人じゃ下手したら瞬殺されちまうぞ。なんせ最弱コンビだからな。ハッハッハ」
俺達二人をバカにするような高笑いに腹が立ったが、ルカは横で笑顔を浮かべていた。一つ歳上なだけで、ここまでスルースキルが高いのか。それともバカにされてる事がわからないのか。とにかく俺も気にするのをやめようと思わされた瞬間だ。
「おお。待ってたぞ、マルコ!」
ハマンがカウンターの奥からマルコに話かけた。どうやら彼がマルコ達を呼んだらしく、その内容はトカゲの件だ。
聞いていると驚く程の報酬とSランク冒険者の称号が後程、王国から直接パーティー全員に与えられるというものだ。更には王国直属の仕事も回してもらえるとか。
あのトカゲを倒したのはそんな偉業だったのか……と驚いていると、ハマンがそんな俺の顔をチラッと一瞥して続けた。
「ところで、一応報酬の受け取りにはレクセルの坊主も入れていたんだが。どうしたものか……」
なるほど。そんな申し出を受けれるはずがない。Sランクなんて当然俺の身の丈にあわないし、報酬金に関しても同じなので「貰えるなら、俺の分は全てマルコさん達に分配してください」と、俺は断った。
そう。俺は報酬を辞退したのだ。辞退した、にもかかわらず。マリンはギルドに響き渡る大きな声で愚痴った。
「そりゃそうよね。だって私、彼のせいで死にかけたんだから。その分の迷惑料としては足りないくらいだわ」
嫌味な女だと思ったが顔には出さなかった。とりあえず彼らの話は終了したようだし、マルコ達パーティーは俺と目も合わせずにギルドを出て行ったので俺も少しホッとした。
気まずい空気だけが後に残ったが、そこでルカが一言「それで私達の仕事は?」と、ハマンに明るく切り出した事で重かった雰囲気も少しは軽くなったように感じた。
それで、肝心の仕事だが。 この街にある一軒の住宅で台所の排水パイプが詰まった。その原因が、おそらくは排水の流れ先である地下道でスライムか何かが沸いていて、家の排水パイプの出口を塞いでいるのだろう、という話だった。
これは、スライムが湧くこの周辺ではたまに起こり得る事なのだとか。
つまりスライム退治になる可能性が高い。まさに俺達に相応しい仕事だ……とは言え。俺はスライムすら倒せない。ルカがいるので早速頼らせてもらう事になりそうだが、仕事としては楽でも俺もルカも弱者だ。気は抜けない。
問題の家に着いて直ぐ、依頼者の婦人が排水パイプの出口となっている地下道への入り口を教えてくれたので、ルカと二人で中に入った。
地下道は壁に設置されている松明の明かりだけの薄暗い場所だが、楽に人が歩ける程に広い。壁の松明に順番に火をつけながら、真ん中を流れる排水路にそって歩みを進めて行く俺達はやがて、詰まりの原因に辿り着いたのだが────それは少し問題があった。
「で、デカイな」
「これってスライム……ですよね?」
普通、スライムは人の頭くらいの大きさだ。しかし目の前のそれは通常サイズを越えていて、十倍どこらか百倍くらい大きい。それの破片のような、逆に小さいスライムが何体か配管の近くにいた。
間違いなくそのスライムが原因だろうが、解決するにはスライム(大)の方を始末する必要がありそうだ。
「大地神エメシュよ、我が魔力喰らいて、石のつぶてを顕現させよ!」
ルカは得意の……と、いうか唯一の攻撃魔法『石つぶて』を遠くからスライム(大)に放った。が、────ビクともしない。
その後もルカは何発も魔法を放ったが、スライム(大)は全く動かないではないか。不思議に思った俺達はそれに近付き、指でつついてみる。だがやはり動く気配はない。
これ、生きてるのか?────と、俺は試しに愛剣でズバッ! とスライス(大)を斬りつけてみた。
ゴゴゴゴゴゴゴ…………
「うえ!?」
突然スライム(大)が動き出した! そして身体の一部を変形させていく。その形はなんと!大きな握りこぶしだ。
「ルカ。あぶないっ! ぐはっ……」
咄嗟にルカを庇ったその刹那、俺の全身に何かがぶち当たる大きな衝撃が伝わる。俺の身体は彼女もろともぶっ飛ばされ地面に叩きつけられた。
スライム(大)は目を覚ましたのか急に活発に動きだし、ズルズルと地面を削るように重そうなその巨体で近寄って来る。
「いや、来ないでぇぇ! 顕現させよ。顕現させよ。顕現させよぉぉ!」
ルカは苦し紛れに『石つぶて』を連続で打ち出した。しかし中途半端な詠唱をした魔法は、大した効果が無いと相場は決まっている────はずだったのだが。
バッシャーン! と、スライム(大)は割れた風船の様に弾け散った。その残骸というか死体というか液体は、地下道の地面に吸われるようにして少しずつ消えていく。同時に、スライム(大)から分離した破片みたいな細かなスライム達も消滅していった。
「あれ……倒した? あっ!それよりレクセルさん、ごめんなさい。私を庇ったせいで。死なないでくださいよぉぉ!────って、うそ! あんな凄い攻撃受けたくせに、まだ生きてるんですか?」
やっと俺の名前覚えたのか、と思いながら普通に体を起こすと彼女は心底驚いた様子で大きな瞳を丸くしていた。
死んだ方が良かったのか? と、思ってしまうようなセリフが聞こえた気がするのだが、それは忘れよう。
「それよりルカ、スゴいよ。連続魔法でアイツ倒しちゃうんだからさ」
「うーん。本当に私の力ですか? だって、あのスライムが急に動きだしたのって────」
ルカはどこか納得がいかないような顔をして口を閉ざした。彼女が何を思ったのかは知らないが、俺はそもそも通常のスライムすら倒せないのだ。今回の決め手は間違いなくルカだろう。
その後、一応他を確認して回ったが別のスライムはいなかった。排水パイプ付近のスライムも消えたので、パイプから少しづつ水が流れ出している。とりあえず出口へ戻ろう……と思った時────俺は何かを踏んだ感触を感じて足をどかした。
そこにあったのは色とりどりのガラスを混ぜ合わせたような不思議な七色の石だった。
この作品を読んで続きが読みたいと思ってくれた方は。ブックマークお願いいたします。
下にある ☆☆☆☆☆ の評価を ★★★★★にしてやってくださると更に喜びます。
別に~ っと思った方も ★☆☆☆☆ でも良いので評価をしていただけると執筆の励みになりますので、是非よろしくお願いいたします。