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[ジュリア視点] [聖女プロン視点] ゼッシュゲルトの力


 魔王様達を含む部隊がバリアンテに向かい一日が過ぎた。既に昨夜出発したルビー部隊はジュペルヌーグの軍と出くわしている頃だろう。魔王様もバリアンテ軍を前にしているはずだ。

 さて。どう思っているだろうか? グレイピット辺りは文句を言ってる頃かもしれないわね。


「……ジュリア。お前にしては随分と無茶苦茶な作戦だったぞい? 相手が油断したとしても、中央大陸最大の軍事国家を相手に、二千はあまりに少ないのではないぞよ?」


「あら、ヒューラー様。もちろん、バリアンテが我々ゼッシュゲルトの名前を聞いて油断など────ありえないでしょう。おそらくは全ての兵力を王都に集結させ万全の状態にしてくると思います。その為に一週間も猶予を与えたのですから」


「ふぉふぉふぉ。お主、やはり相当バリアンテを恨んでおるぞいな。しかし、魔王様が果たしてどう出るか……」


「あの戦力では方法は一つしかありません。あの王国には、過去の裏切りを全国民の死を持って償っていただきたい。その為に私は、あのお方を魔王にする手伝いをしたのですから……」


 そうよ。私──ジュリア・メーガスは最終的に、誰よりもグレイピットの連れて来た候補者を推薦していた。彼がブレストガルド様の息子だと知ったからだ。彼が魔王になるならば誰を蹴落としても構わないと、そう思っていた。

 私が候補に挙げたセラムには悪い事をしたけど、彼は利口だからきっと理解してくれるだろう。


「しかし、ブレストガルド様がバリアンテの使者に暗殺されて十数年。まさか赤子が生きているとは思わんかったぞい」


「そうですね。彼を見付けたのはグレイピットの最大の功績です。知らぬはパトリシアくらいですか。魔王様も今頃はバリアンテの兵を確認して頭を悩ませているのでしょうね」


 おそらく、私の考察ではバリアンテ王国の兵は十万以上はいるだろう。対してルビーは全軍ジュペルヌーグ側に回したので、迎え撃つは二千のダイヤモンド部隊だけ。普通に考えたら完全な負け戦ね。

 ダイヤモンド部隊なら、二千の兵力でも戦えなくはないでしょうが。それでも勝つのは無理がある。


 私が期待しているのは魔王様。あの子は優しいから、きっとレギオン・ブレイクを使うはず。それでバリアンテ王国は滅亡ね。あの国は全国民の死を持ってゼッシュゲルトを裏切った事を悔いればよい。

 フフフ……、きっとブレストガルド様なら望まないでしょうね。無用な被害を出すのは避けろ、なんて言うのでしょうけど。でも、私は絶対に許せない! ブレストガルド様の命を奪ったバリアンテ王国を────




「ねぇ、ジュリア。ジルクレイアも魔王様と一緒に戦場に出るのかな? 僕も彼女と一緒に行きたかったなぁ」


「そうね、セラム。では、あなたも私と一緒にのちほどバリアンテに向かいましょう。万が一の場合は、あなたに仕事を与えなければいけませんからね……」


「そうか。それは楽しみだなぁ!」



 ◆◆◆◆


 

 ────ジュペルヌーグ領土。国境付近。



「あれは何だ……魔族か?」

「完全に道を塞がれているぞ」

「何故、奴らは反撃してこないのだ」


 兵の多くは口々に不安の声を漏らしていた。この状況では仕方のない事だった。唯一のバリアンテ王国への道中を凄い数の赤い鎧の騎士達により足止めされているのだから。

 しかも、こちらの魔法攻撃や弓矢による遠隔攻撃に反撃をしてこない。というか。まず、当たってもいないのだ。


 とてつもなく強いシールドが相手軍の方に展開されており、強力な魔法攻撃が空中で消滅させられているのが私の目にハッキリと見えた。あんなに強力なシールドは今だかつて見たことがない。


「聖女様! 危険ですので後ろにお下がり下さい!」

 

「いいえ。直ぐに攻撃をやめさせなければなりません。あの兵に手を出してはダメです!」


「わかりました。私が副団長の所まで先導しますので、聖女様は後ろを着いて来てください。────聖女様が通る! 道をあけろ!」


 自国の兵の間を抜けて前に出ていくと、敵の先頭集団が見えてきた。真っ赤な鎧を身に付けた騎士。そしてそれは人間ではないように見える。

 その赤い集団に向かって少しずつ自軍を前進させながら、弓と魔法の攻撃を指示する副団長の姿もそこにあった。

 王国軍団長である私の弟、セイルズは丁度バリアンテにいた為、そのままバリアンテで待機しているが。その弟がいれば少しは事の異常さに気付いたかもしれない。しかし、副団長を勤めるキースは不可解な敵を相手にむやみに攻撃を指示しているだけだ。


 バリアンテの方はどうなのだろう? 同盟国であるジュペルヌーグの足止めだけで、これ程の軍を送り込んでくるのだから。きっとバリアンテ側には数十倍の兵力が送られているに違いない。弟の身が心配だ。


「魔法士団! 次の魔法を放て!」


「副団長。なりません! 攻撃を止めてください!」


「こ、これは聖女様。何故、このような危険な場所に? ────攻撃をやめろ!」


 こちらからの攻撃が終わると辺りは静まりかえった。改めて私の目に写ったのは赤い騎士団。その先頭にいる特別異質な存在と目が合った。

 その、ドレスのようなものを纏った、まるでどこかの貴族令嬢のような長い黒髪の女性は、どう考えても兵士とは思えない……が、しかし。彼女が指揮官? 直感的にそう思った。


「私はジュペルヌーグ王国の聖女、プロン・アーガストです! 私はこの戦いを無意味なものと考えます。もしそちらにその気が無いのであれば停戦を願い出ます!」


「せ、聖女様! そのような勝手な事を国王は許しておりませんぞ!」


「構いません。ここで戦えば私達は死にます」


 黒髪の女性はゆっくりとこちらに歩みを進める。その雰囲気は近付いてくる程にまがまがしい威圧感が伝わってきて空気に押し潰されそうになる。

 しかし。ここで引いてはダメだ! 彼女は普通ではない。さっきのシールドも彼女の魔法に違いない。彼女は別次元の強さを持っている────と、その時。


「おおお!」

「何だあれは!」

「まただ! また神々の怒りが来るぞ!」


 バリアンテ王国のある西の空が激しく輝いていた。数日前に見た、ゼルス山脈を消滅させたあの光だ! その光には、さすがに黒髪の女性も振り向いた。


「今だ! あの女を殺せ!」


 刹那。副団長のキースは持っていた槍を無防備な女性目掛けて投げ放った。突発的に他の騎士も一斉に動き出した。しかしキースの投げた槍は女性に当たる寸前、どこからか現れた真っ赤な髪をした男に弾かれた。

 そして男は次の瞬間には、私の目の前にいた。


「え!?」


 その手には刃物のような鋭い爪。一瞬で私の命はここで悪魔により刈り取られるのだとわかり。私の意識は失われた────



 どれほどの時間が過ぎたのだろうか? 私は誰かの話し声で目を覚ました。


「パトリシア。さっきのあれは何だ? 一体バリアンテで何が起こっている」


「まさかとは思うけど、レギオン・ブレイク。フフフ……なるほど、ようやく理解しましたわ。ジュリアったら私に黙ってたわね。そうね。言ってしまえば王位継承者はグレイピットが魔王様を連れて来た時点で決まっていたようなものみたいですわ。あなたには悪い事をしましたわね、ガスト」


「ちっ! 何か知らんが気に入らねぇな。────おっと、コイツ目覚めたぜ?」


 私を見下ろす赤髪の男の瞳は恐ろしい程に邪に満ちている。しかし、どうやら私は殺されなかったようだ。そういえば私はどうなったのだろう? というか戦はどうなったのだろう? と、私は何とか身体を起こし辺りを見渡して血の気が引いた。


 そこに総勢二万いた筈のジュペルヌーグの兵は全て、真っ赤に染まった大地にピクリとも動かずに倒れていた。赤い騎士達も勿論倒れているが、比率で見たら圧倒的な負け戦であった事がわかる。


 残りの赤い騎士は既にバリアンテの方に向かって移動しているようだ。やはり彼らと戦ってはいけなかった。勝ち目など無かったのだ。

 私は心の中で神に祈りを捧げた。全ての英雄達が、せめて苦しまずに生涯を終える事が出来たのだと自分に言い聞かせながら。彼ら全ての魂が安らかに眠れるようにと────



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