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そして少年は己の真実を知りました


 もはや行き場を失った俺達はゼッシュゲルトにいた。俺は王都グリンベルスの宿屋の一室でベットに腰掛け、一睡もせぬまま夜を明かした。

 俺の脳裏からは母親の最後の姿が焼き付いて離れなかったのだ。バリアンテ王国の騎士達により無惨に踏み荒らされる母の最後。母の体を貫いた氷の刃。それを放ったブッシュの顔。


 突然ドアがノックされた。返事する気力も起きず俺はそれを無視したが、再度ノックされた……が無視した。三度目のノックは無く、勝手に扉は開かれた。


「おはよう。少しは落ち着きましたか?」


 ルカの声が聞こえたが彼女の顔は見なかった。今の自分がどんな顔をしているかわからなかったからだ。きっと憎悪に満ちているのだろう。ルカも俺に近付いてくる気配が無く、沈黙が続いた。

 再び部屋の扉がノックされ直ぐに扉が開かれた。今度の客人は返事を最初から期待していないようだ。なかなか優秀だな。


「レクセル様。王位争奪戦の内容ですが。どうやら勇者の討伐のようです。バリアンテ王国にて過去に封印されし最上位魔獣、レプトを討伐した勇者の首を持ってくるのが魔王への条件となりますが────」


「何の話だ? グレイピット」


 思えば昨夜。俺はグレイピットに当たり散らしたのだ。何故、母親を助けずに転移したのかと。何故見捨てたのか、と。彼女は俺が優先だと答えたが、その俺には母を置いて逃げたという後悔しか残らなかった。


「レクセル様はあの国に仕返ししたいですか? ならば魔王になり、この国を動かせばよいのです。バリアンテなんて三日で滅ぼせます」


 王位争奪戦は俺が一度断った事により、残りの二人により既に開始されていた。グレイピットの話では、バリアンテ王国に候補者の一人がいたのは、おそらく勇者を探しての事だと言う。もう一人もバリアンテに居るという事だろう。


「俺は一度その話を降りてる。今更復帰が許されるのか?」


「問題ありません。このグレイピット・ウォーレンの名は()()ではありませんから。フフフ……」


 彼女は相変わらず何を考えているのか分からない。しかし、俺が国を相手に仕返しするには国を動かすしかない。彼女の提案に乗る事で可能性が出来るならば、それは悪い話ではないと思った。


「よし。俺に力を貸してくれ、グレイピット」


「ダメです! ご主人様。魔王なんて」


「どうしたルカ。ルカだって母さんと仲良く話してただろ。ルカなら、母親をあんな殺され方して許せるのか?」


「そ、それは────許せない。 でも、魔王になるなんてレミアさんは願ってないと思います!」


「ルカ。俺達はあの国に裏切られたんだぞ。実際母さんを殺したのはブッシュだが、あの国が俺達に罪を被せて母さんを巻き込んだ事には違いない! 仕返しするには軍が必要だ。

 もしブッシュだけが相手だったとしても、どのみち俺一人では勝てない。マルコさんだって絶対に阻止してくるだろうしな」


 ルカは納得がいかないのか、まだ何か言葉を探しているようだった。それより、何故かグレイピットまでもが釈然としない顔をして言い出す。


「ブッシュとは。あの小物ですか? あんな者達にレクセル様が負けるなんて自虐的な冗談はやめてください。確かに過信は禁物ですが、魔王として威厳を持っていただかないと」


「君は俺を過大評価してるよ。俺は冒険者の中でも最弱なんだ。自信なんかは持てるはずない。だが、努力はするつもりだから力を貸してくれと言ったんだ」


 俺の言葉を聞いて、グレイピットは俺に着いて来るようにと促した。早速、魔王になる為に必要な何かをするのかと思い、黙ってグレイピットの後を追った。

 街の中を歩き、やがて一件の店に辿り着いた。ルカが「あっ」と一瞬、驚いたような声をあげたがグレイピットは無視するようにその店に入っていく。


 店内でこの店のオーナーらしき女性とグレイピットが何やら話をしていたが、俺達は直ぐにその奥の部屋へと案内された。

 

「では、お客様。ここに立って、真っ直ぐ自分を見て下さい」


 女性にそう言われ、状況を理解出来ぬまま俺は大きな鏡の前に立たされた。自分を見る? とりあえず鏡を見るが特別変わった事はなかった────いや。鏡に写る自分の周囲に紫色の霧の様なものが現れた。

 それがどんどん広がり、鏡の中では俺の姿が霞むくらいに紫の霧が辺りに出ていた。勿論、実際の俺の周りには何もない。


「こんな強い魔力は初めて見ました。先ずは説明させていただきますね。この鏡は古来から私の家に代々受け継がれている鏡です。魔族の中には極僅かに、魔力を視認出来る瞳を持つ者もいますが。殆んどの者は魔力を見る事が出来ません。

 それを可視化するのがこの鏡。今、お客様の周囲に見える紫の霧の様なモノが御自身の魔力です」


 試しにグレイピットが立つと、赤っぽい霧が結構な範囲で出ているのが分かった。それでも俺のように自分の姿が霞む程の濃い霧ではない。


「わかりましたか? つまり、レクセル様は私より凄い魔力をお持ちなのです。バリアンテでは理由あって弱いフリをしているのかと思っていましたが。御自分の強さに気付いていなかったとは……」


「それを教えたかったのか? だが凄い魔力って言われても俺は些細な魔法スキルだって使えない。これでも一応、詠唱を勉強した事だってある」


 言っていて無能な自分が情けなくなった。すると店の女性が不思議そうに答えた。


「魔法スキルは得意不得意があり。そちらのルカストレアさんにも以前、スキルを見せていただきましたが。火、水などの属性に関しては全く適正がありませんでした。とは言え。そもそもお客様は魔法スキルでは無く、魔法そのものを行使できるので詠唱は必要ないのでは?」


 魔法と魔法スキルが違うという事は初めて聞いた。それについての説明を促すと、女性は懇切丁寧に教えてくれたのだが……


「魔法スキルは、人間が魔力をエネルギーとして行使する為に詠唱という方法で言霊に魔力をバイパスさせ。体内の少ない魔力を数倍にブーストさせる事により。本来必要とするべき魔力量を確保して、それにより発生させた────」


「あ、もういいです」


 要約するに、本当の魔法とは少し違うという事だろう。魔法に似せた技術──つまり魔法技術(スキル)という事なのだ。


「ルカは前にここに来た事があったのか。それよりルカはスキルなのに、俺はスキルじゃないのか? 一体どういう事だ?」


 ルカは何故か少し気まずそうに俺から視線を外した。それがグレイピットにも感じられたのだろう。突如ルカに詰めよった。


「あなた、何を隠してるの? そもそも、魔族のレクセル様が人間に力を貸してるだけでも気に入らないのに」


「それは……」


「魔族? 何言ってる。俺は魔族じゃない」


「まさか、レクセル様! その事すら知らなかったのですか!? その魔力の質は間違いなく魔族のものです」


「俺は間違いなく人間だよ。両親だって────」


 と、言いかけて少し考えた。そういえば母親を知っているが父親には会った事も無い。写真でしか見た事がないのだ。もし父親が魔族だったとして、何も聞かなかった俺に母親はその事をわざわざ言うだろうか?


 ルカは母親と凄く仲良く話をしていたし、俺が寝た後も話を続けていたようだった。ひょっとして、ルカは母親から俺の事を何か聞いているのかもしれない。俺も知らない何かを。


「ルカ。母さんから何か聞いたのか?」


 全員がルカに視線を向けた。ルカは俺を見て、諦めたように深く溜め息を漏らした。


「ごめんなさい。レミアさんから内緒にしておいてくれと言われてて────」


 ルカは言う。グレイピットの言う通り、俺には魔族の血が流れていて。しかもそれは、元魔王という相当強大な魔族の血だという。

 その血を受け継いでいる俺には強い能力が備わっているらしかったが、絶対に相手を殺す事が出来ないという女神のスキル『慈愛』の制約に縛られているというのだ。

 裏設定までよく考えられた冗談だ────と、俺は最初そう思っていた。


「ルカ? ここに来て何言ってるんだ。たまに変な事言い出すからなぁ、ルカは。ハハハ……」

 

「本当にごめんなさい」


 ルカは深く頭を下げた事から本気で言ってるのだとわかった。何故かグレイピットも驚いていたが、彼女は俺を魔族だと知っていた。ならば驚く事は無いと思ったのだが、彼女が驚いていたのは俺が魔族という事以外の所だった。



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