[ルカストレア視点] 魔族の国とスキル鑑定
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「本当さぁ。間違えてあんたの主人に関わっちゃったおかげで、私もいい迷惑なんだよね。まさか、あの女に目をつけられるなんてさぁ。夢にも思わないわけよ」
私の横で私よりも小さい少女が悪態ついている姿は最初こそ滑稽に見えたが、今となっては少し気の毒に思えている。
「ジルクレイアさんは魔族なんですよね? どうしてこの国じゃなく、バリアンテにいたのですか?」
「そりゃあアンタ。全ての魔族がこの国にいて幸せとは限らないわ。確かに外に出れば人間に襲われたりして大変ではあるけどね。私も知能ある魔族として生きているからには使われる方が嫌なの!」
魔族と言うと魔物も入るわけだが、彼女の話を聞いている限り。知能のある魔族と無い魔物とは根本的に違うという話だった。もちろん基本は同じ魔族なのだが、ある程度知能が高い魔族はどうしても国に仕えさせられる事になるらしい。
それが嫌で彼女は国外で生活していたのだが、今ではグレイピットに目を付けられてしまい。逃げ出したら殺されかねないという。
かごの中の鳥──というかドラゴンだ。
彼が城に行って一時間が過ぎた。私とジルクレイアは意外にも気が合う事がわかり、街の中を散策しながら露店でアイスを食べたり、ウィンドウショッピングをしたりして、それなりに楽しんでいた。
夕方までには指定された宿屋に戻っていないといけないわけだが時間はまだある。
「ところでアンタさ。全然魔法スキル無いって言ってたけど、新しいのを習得しようとかは考えた事無いの? 努力しなきゃ強くなんてなれないじゃん」
「なんですか急に……気にしてるんですよ私だって。勿論、魔法に関しては色々勉強しましたよ。でも、何故か身に付かないんです」
「ふーん。そうは見えないんだけどね。ちょっとコッチおいでよ」
ジルクレイアに言われるままに来た先は、鑑定屋だった。鑑定屋といえば物の価値とかを判断したり調べたりする店だ。
あ。そういえば素材屋に預けた石。そろそろペンダントとして出来てるはずだ。確か鑑定にかけてから……って言っていた事を今更になって私は思い出した。
それより、ここの鑑定屋は自分のスキルについても鑑定してくれるという。魔法スキルなんかは身に付けていても、使うまでわからないのが普通なのだが。
ここで鑑定すると魔法スキルの有無はもちろん、そのスキルの効果や強さなんかも判断してくれるらしい。
そして、その結果。私も想像していない事が起きていた。
「ルカストレアさん、あなた凄いですよ。これだけの魔法スキルを持ってる人は珍しいです」
鑑定屋によると、私には様々なスキルが身に付いていたのだ。石つぶてしか身に付かなかった私は今まで、様々な魔法スキルについて勉強だけはしてきた。覚えられる、られないは別問題として。とにかく自分の得意分野を探す為にも無作為に勉強してきた。
それらが身に付いているとしたら何故今更?と、私が考えていると、ジルクレイアが教えてくれた。
「アンタ、ひょっとして魔法スキルは自分の魔力によって習得出来るスキルが決まる事を知らない? 弱いクセに色々勉強したって何一つ身に付かないけど。今になって、その勉強したスキルが身に付く程大きく成長した覚えはないの?
魔法スキル取得は魔力の保有量に影響するからね。普通は魔物に止めを差した者に死んだ魔物の魔力が移るのよ」
理由が分かった気がした。今まで臆病な私は自分で魔物を倒した事は殆どなかった。常に誰かに護られていた為だ。
しかし彼と出会ってからは、いつも私が魔物の止めを担当していた。つまり。私はいつの間にか多くの魔力を得ていたのかもしれない。
「なるほど。言われれば覚えがあります。普通なら自分では倒せない凄い魔物とかも、御主人様のおかげで倒せてるのかもしれません────って、あ、ごめんなさい! 魔物倒すなんて言って、魔族のジルクレイアさんは気分悪いですよね?」
「関係ないって。さっきも言ったけど魔族っても、知能があるやつと無いやつは別なのよ。知能が無いやつは同じ魔族でも平気で襲ってくるから、魔族でも魔物は殺すに決まってんじゃん」
そう言ってジルクレイアはケタケタと笑う。その後。私達は指定された宿屋へと戻った。部屋で私は今まで勉強してきた魔法スキルを再び復習する事にした。スキルが習得されているのは良いが、詠唱を忘れてしまっていてはシッカリした効果が発揮出来ないからだ。
「人間は魔法に詠唱なんて必要なんだね。私達、魔族はそんなの必要ないから」
ジルクレイアの一言を聞いて、確かに……と思った。魔族はその点で人間より有利なのだ。そういえば、御主人様は魔族になるわけだが。頑なに剣で戦っているが魔法を使おうと思った事はないのだろうか?
なんせ魔王の子供なのだから最初から魔力量は普通ではないはずだ。彼が魔法スキルを勉強したらどうなるのだろう? 少し怖くも感じられる。
宿で待つ事二時間程だ。彼がグレイピットと共に帰ってきたのだが────
「俺にはやはり魔王は無理だ。グレイピット。俺達をエデルまで戻してくれ」
「どうしても。無理ですか? でも、やはり、レクセル様が魔王になるべきだと私は────」
「やめてくれ。俺にその気はない。エデルに戻してくれ」
二人は深刻な話をしながら帰ってきた。一体、城で何があったのか、それを聞く雰囲気でもなかった。彼は今まで見たことのない表情をしている。
程なくして、私達はエデルの街へと転移された。グレイピットとジルクレイアとは、そこで別れる事になったが去り際にグレイピットが彼に言う。
「私達魔族は理由なく人を殺す事はありません。人間達は魔族を勘違いして敵だと認識していますが。私が仕えた前魔王様はレクセル様と同じ様な考えだったと思います。
だから私は諦めておりません。考えが変わる事を信じて今暫くレクセル様をお待ちしております」
彼はその言葉に何も返さない。やがて、再び転移スキルが発動されたらしく。グレイピットとジルクレイアは一瞬で姿を消した。
「御主人様? 大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。予定通り、ハマンさんが言ってた村まで行こう。待ってるかもしれないからな」
彼は笑顔でそう答えた。今これを言うべきかどうかを悩んだが、私は敢えて口にした。
「そうあえば前にエデルで、その剣をくれた人ってグレイピットって名前でしたよね? 結局あの人だったんですね。私、魔族って悪い人だと思っていたんですが、中には良い人もいるんですね」
「魔族は魔族だよ……人間の敵だ」
私は完全に地雷を踏んだようだ。彼はその後も私に気を遣って話しかけてくれたが、あの国であった事には触れないように気をつけようと思った。きっとそのうち話してくれるだろう。
私達はエデルから丸1日かけてレイビルの村に辿り着いた。さっそく宿屋へと向かい、中に入るとカウンターに誰もいない。
「すいません。誰かいませんか?」
彼が呼び掛けると奥の方から見上げる程の大男がゆっくりと現れたので、彼も私も思わず仰け反った。
「あ、あの。ハマンさんから聞いてここに来たんですが────」
「ああ。聞いてるよ。レクセルとルカストレアの二人だね? ハマンの奴から情報は貰っているのだが、少し問題があってねぇ」
意外と優しそうな喋り方だった。宿屋の主人は名前をクレールと名乗った。彼に俺達が泊まる部屋へと案内され、そこで彼に聞いた話は王都を出る前にハマンが言っていたような展開だった。
「……って事だ。君達は暫く俺が預かる事になる。今、ハマンが何とか君達の疑いを晴らそうとしているみたいだが、時間がかかるかもしれないからね」
「俺が追われてるという事はわかりましたが、俺の母親はどうなってますか? 俺のせいで何か迷惑かけたりしていませんかね?」
「うーん……多分。大丈夫じゃないかな」
どこか歯切れの悪い返事だと思った。この人はきっと何か隠しているのだと思い、私は密かに魔法スキルを発動させた。相手を催眠状態にして同士討ちさせる魔法スキル『ヒプノシス』
勿論、使い方は自白だ。するとクレールはもう一つの事実を吐露した。
「君のお母さんは気の毒だが、王国の地下牢獄に入れられたようだな」
彼はすぐに立ち上がった。私も勿論、レミアさんを見捨てられる筈が無い。二人は直ぐに王都に戻る覚悟をした。
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