[ハマン視点] 王国の裏で何かが暗躍している気配を感じている
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「ハマン。この仕事は王国案件ではない。ランクは問わぬ、冒険者全てにチャンスがある話だ」
「なるほど。この依頼書の内容にある罪名は、シッカリとした根拠があっての事なのか?」
テーブルの上に無造作に置かれた依頼書に、賞金がかけられた二人の冒険者が載っている。こりゃあ、また随分と極端な話になったもんだ。しかも、手配書を持って来るのがバリアンテ王国、王国騎士団団長のジェスター・フォントが直々に来るとは。
「そうだ。レクセル・バートンがドラゴンと会話していたというのは多くの証言が取れている。加えて、ルカストレア・パールゲイツが細工屋に預けた石は、とある国家機密に関わる物だ。入手ルートが限られる」
「何だそりゃ? 何処から入手出来るってんだ?」
「とある凶悪な魔物を討伐しないと得られない。この二人にそんな魔物を倒せる能力があると、お前が証明出来るのか?
出来ぬならば、それは彼らが魔物と何らかの接点がないと得られない物を持っていたという事になるのだ」
全く。アイツらは何処で何を手に入れたってんだ。昨夜のうちに王都から旅立たせたのは正解だったな。しかし想像以上に話の展開が早いな。誰か裏で都合良く話を流してる奴がいるのか?
「そうか。だからって、あの二人が魔物を使って王国に混乱を招いた犯罪者ってのは少し早計ではないか?」
「あの二人は、この国の冒険者達にバカにされてたらしいな。ならば、日頃からこの街の冒険者に恨みがあった可能性は高い。ならばドラゴンが突然ギルド近辺を襲い出したのも納得出来る。
それにハマン。これは国家機密だが長い付き合いのお前には言ってもかまわんだろう。以前に危険な魔物が城の地下牢獄から逃げだした。丁度その頃に、ここの仕事の依頼で彼らも地下道に行ってるらしいのだが?」
地下牢獄の魔物だと? 確かそんな話が少し前にあったな。まさか、そんな所でも何か偶然が重なっていたのか。こりゃタイミングが悪すぎて坊主達を擁護出来なくなってきたな。しかし、やはり話が回り過ぎている。
「ふん。俺も詳しくは知らないから何とも言えないな。しかし、ジェスター。お前達、随分とこっちの情報に詳しいじゃねーか。一体誰の情報だ?」
「マルコのパーティーに所属している、魔法使いのブッシュを知っているか? 彼から全て聞いている。やはり間違いないのだな?」
なるほど。確かにブッシュに排水詰まりの依頼をこなした人物を聞かれたのは記憶に新しい。あの時からブッシュは坊主に何かしら疑いをかけていたのか? そんな都合のよい話があるのか? そもそも、それなら俺にだってブッシュに関して一つ気になる事がある。
「お前達は、ドラゴンが実は怒っていた……という話について、何か聞いてるのか?」
「勿論だ。ブッシュが悪いと証言していた女性がいたとか……しかし、その女性とドラゴンも不自然に馴れ合って見えたという話も多い。その女性に話を聞こうにも、彼女も忽然と姿を消したじゃないか」
確かに不自然には見えた。突然ドラゴンの前に現れた女という時点で不自然だったが、ドラゴンが彼女を襲う気配が無いのも不自然だった。
そしてレクセルの坊主がブッシュにかなり罵声を浴びせられていたという噂もよく聞く為、ドラゴンを使ってブッシュに仕返しを考えるという方向まで動機として成り立ってしまう。
坊主の性格や、ドラゴンとの経緯も聞いている以上。全てが王国の言う通りとは言えないが現状では完全に疑いを晴らすのは難しい事は確かだ。しかし、あの坊主が魔物を先導? 考えられんな。
「わかった、依頼は確かに受け取った。だがジェスター、一つだけ聞かせてくれ。あの坊主がもし、グレートバジリスクを始末出来る程の強さだったとしたら? ドラゴンを退かせられたのも、牢獄を逃げ出した魔物って奴を倒していたとしても不思議ではないのじゃないか?」
「ふん。そんな強さがあるなら今頃はSランク冒険者だろう」
まったく正論だ。何故そんな馬鹿な事を聞いたのだろう……と、俺もふんっと鼻で笑いながらギルドから去っていくジェスターを見送った。その後で指示された通りに依頼書を壁の一部に張り付けた。
【王国への反乱者〝捕まえた者には金十万〟】
スライムも倒せない坊主が随分と高い賞金首になってしまったな。とにかく、この事は絶対に坊主に伝えておかなければならない。俺は必要な内容の文章を一通の手紙に書くと、カウンターの上に外出中の札を起きギルドを出た。
街の外れに俺の信頼する知人がいる。その者に急ぎでレイビルの宿屋まで伝言を頼まなくてはならない。王国の情報もかなり迅速に国中に広まるだろうから、とにかく最速を要する。
おそらく坊主は何もしていない。それだけは俺には絶対の自信があったのだ。そうでなければ街を出ろと行った時に、あんなに不思議そうな顔をするはずがない。
タイミングが悪く誤解されているか。何者かの陰謀が働いているかに違いない。
「おい! ほら、しっかり歩け!」
知人の所に向かう途中。中央大通りの真ん中を王国の兵士数人が一人の女を鎖に繋いで歩いていた。俺と同じくらいの年齢だろうか……何処かで見た事がある気がするが思い出せない。
女は兵士に乱暴されたのか顔に殴られたような跡が出来ていた。抵抗でもしなければ一般人にそんな事をする事はないはずだが? と、そんな風に思いながら俺はその列を見送ると、知人の所へ急いだ。
「おい。ビヨン……いるか?」
彼──ビヨンは、だらしなく部屋で横になっている。しかし、ただ寝ているだけでは無い。
< ハマンか。なんの用だ? >
と、頭の中に入り込んでくる声がある。ビヨンは喋る事が出来ないが、その代わりに様々な特殊スキルに恵まれている。
その一つが『思念伝達』である。ビヨンとそのスキルを知っている人間ならば、どんなに離れていても自分の思考を伝えられるのだ。
俺は早速、手紙をビヨンに渡した。何も説明の必要はない。渡すだけで、彼には俺がその内容を誰に送ってほしいのかが伝わっている。
つまり。最初から一言も話をする必要などないのだ。
だが、やはり。俺は彼を一人のまともな人間として扱いたいので極力話しかけるようにしている。
「じゃあ頼んだぞ。クレールにも俺の考えをよろしく言っておいてくれ」
< わかった。クソ野郎って伝えておく >
「ガッハッハ。なにも間違っちゃいねえ」
クレールとはレイビルで宿屋を営んでいる俺の知人の一人だが、自分の宿に女を連れ込んでは遊んでいるクズ野郎だ。しかし、頼りにはなる男だった。
俺は用事を終えてギルドへと戻った。するとギルドの中では十数人の冒険者がザワついていた。それはもちろん。例の依頼書を見ての事だ。
「まじか。雑魚セルの奴、しでかしたのか」
「あいつ捕まえるなんて楽勝だろ」
「これはおいしい仕事だな。早い者勝ちだな」
多くの冒険者が早速、坊主達を捕まえようとして俺の帰りを待っていたようだ。そのうちの一人が俺に聞いてきた。
「こいつは生死を問わずか?」
「バカ言うな。もちろん、生きて連れてこいって事だ」
荒くれ者達は平気で坊主を殺しかねない。生死を問わずとは書いてないが実際、生死を問わずという一言が俺にだけは伝えられていたのだ。そんな事をこいつらに伝えたら坊主は間違いなく面白半分で痛めつけられるだろう。
「そいつは残念だ。だが、こんなおいしい仕事受けない奴はいないだろ。家族にも賞金かかれば良かったのにな……もう遅いけどよ」
「なに? どういう事だ?」
「さっき、城に連れていかれちまったよ。雑魚セルの母親な。なかなか美人だった……言ってくれれば俺が捕まえてやったのによ。もちろん、ベッドでたっぷり遊んでから連れていくけどな。ハッハー」
ヘドが出る程のクソ野郎だ。
それにしても。さっき兵士に連れて行かれた女は坊主の母親だったわけか。坊主の母親を俺は知らないが、何故かあの顔に覚えがある。
坊主に似ているから────って事はない。何故なら全く似ていないからだ。本当に親子なのかを疑う程に。どのみちこれは坊主に伝えるべきか悩む。
伝えれば確実に坊主は戻ってきてしまうだろう。そうなったら捕まってしまい、彼の命は保証されない。そんな事を考えている間にも、ひっきりなしに冒険者達は坊主を捕まえるメンバーへと参加する。
もちろん捕まえるのは誰か一人なので、みんな仲良くやるわけではないだろうが、報酬がデカイだけに別の争いが起こる事まで考えられる程のお祭り騒ぎだ。
仕事の希望者達を捌き続けて一時間程が過ぎた。ようやく誰もいなくなった静かなギルドのカウンターに肘をついて休憩している時に、ふと俺は思い出したのだ。
「あの女。レックスが連れてた女か!」
確か、レミア────そうだ。レミア・バートン! 坊主の名前はレクセル・バートンだったな。これは間違いないだろう。
レックスか。懐かしい記憶が甦ってくる。レックス・デリートは、かつて共に戦ったパーティーメンバーであり、そこのリーダーだった男だ。
噂では、とある辺境にある魔族を束ねる国の魔王と相討ちになり『勇者』として散ったと聞いていたのだが。まさか坊主はレックスの子だったりするのだろうか? それなら俺には坊主を助ける理由が出来る事になるのだが────
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